日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S407
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植生指標を用いたサーモカルストの予察的検出-東シベリアを対象として-
*齋藤 仁飯島 慈裕桐村 喬Fedorov Alexander N.
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抄録

1.はじめに

 東シベリアの連続的永久凍土地帯では,20世紀後半以降の温暖化に伴い,サーモカルスト(thermokarst)と呼ばれる凍土融解に伴う地表面の沈降が進んでいる.サーモカルストによる窪みでは水域が拡大し,凍土そのものの変化にとどまらず,水文過程,生態系,さらには人間生活まで波及的に影響が連鎖する.このため,サーモカルストの発達の解明や永久凍土荒廃地の広域的評価は,東シベリアでの環境変動を予測する上で重要性が高い.しかし,微地形変化にとどまる初期のサーモカルストの検出には空間解像度1 m以下の高精細な地形データが必要なため(Saito et al., 2018),広域的分析が課題であった.その一方で,サーモカルストの進行は植生遷移や荒廃も伴うため(Magnusson et al., 2020),植生の状態に着目してサーモカルストを予察的に検出できる可能性がある.

 本研究では,一般に利用可能な中~準高解像度の衛星画像から算出される正規化植生指標(NDVI)を用いて,初期のサーモカルスト発達地域の予察的検出を目的とした.

2.対象地域と手法

 対象地域は,東シベリアのレナ川右岸に位置するチュラプチャ周辺地域である.チュラプチャ周辺地域は草原や森林,湖沼の景観が広がり,草原では初期のサーモカルストが発達する(Saito et al., 2018).2017年9月実施の現地踏査をもとにしたサーモカルストが発達する草原と非発生の草原,および周辺の森林域でのNDVIの季節変化と経年変化,およびそれらの空間分布を分析した.

 NDVIは,Landsat-7衛星画像(1999~2021年),Planet 衛星画像(2016~2021年)より算出した.またMODIS NDVI(MOD13Q1.061,2000~2021年)を使用した.

3.結果と考察

 初期のサーモカルストが発達する草原は,非発生の草原と比較してNDVIが高い結果が示された(図1).特に6月~8月の生育期に,NDVIの違いが大きくなった.過去20年間のNDVIの時系列変化を分析したところ,人為的な土地利用履歴のある草地を中心にNDVIの上昇傾向が示された.これらの草原ではサーモカルストが進行している可能性が予察的に示された.その一方で,周辺の森林域ではNDVIの上昇は見られなかった.

 初期のサーモカルストが発達する草原では,土壌水分や地温の上昇が短期間で植生の生育や遷移に影響している可能性がある.今後は現地観測データによる検証と,より広域的を対象としたサーモカルストの検出が課題である.

謝辞:本研究は,科研費・基盤研究(A)「凍土環境利用と保全に向けた凍土荒廃影響評価の共創」(19H00556)とArctic Challenge for Sustainability II (ArCS II) の助成を受けたものである.

引用文献

Magnusson, R., et al. 2020. JGR, e2019JG005618. Saito, H., et al. 2018. Rem. Sen.,10, 1579.

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© 2022 公益社団法人 日本地理学会
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