日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P054
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農産物の地域ブランド化研究の成果と展望
*嶋本 貴瑛
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抄録

近年、日本では人口減少に伴う少子高齢化が進展している。特に農村では人口減少・高齢化が著しく、過疎化による集落機能の低下や、地域コミュニティの維持の困難性が問題になっている。主に農村で行われる産業である農業においても高齢化に伴い担い手が不足し、農業生産・農地・農業資源の維持管理が困難になっており、一次産業の衰退や農業従事者の所得低下が問題になっている。このような農業・農村問題の解決手段の1つとして、農産物ブランド化、農産物の地域ブランド化に注目が集まっている。

 本研究では、日本における農産物ブランド化研究の視点を整理し、残された研究課題を明らかにする。その上で、今後どのようなアプローチが可能なのかを展望する。

 農業経済学分野では、生産から消費までを調査対象とし、フードチェーンの各段階においてブランド化をとらえてきた。多様な品目を事例に、ブランドの価値の測定や成立条件の解明から、ブランド化の実態、認証や生産者への経済効果、地域経済への効果が明らかにされてきたことが成果であった。

 他方、地理学分野における研究の特徴は、産地の生産者が分析対象の中心であったことがあげられる。実態調査に基づき、地域特性や地域差、空間スケールに注目し、実態や課題、生産者や地域への経済的効果の検証、地域社会にとっての役割が明らかにされてきた。

 これらの成果をふまえた研究課題としては、ブランドの実態の解明と成立条件の体系化・類型化、ブランド化の地域社会や地域環境への効果やその影響を明らかにすることがあげられる。これらの研究課題を明らかにするために地理学的視点から新たなアプローチを見出すことができる。

 今後の研究視点として1点目は、地域的差異に注目することである。近年では1ブランドに含まれる対象品目の数やその等級などに違いがみられ、地域ごとの取り組みの多様性が増している。ブランド化の条件を一般化するには地域的差異に注目し、多様化する実態を捉えることが求められる。

 2点目は、社会関係に注目することである。実態の解明には、品目選択や生産規模などが自然環境に左右される面を考慮することに加え、ブランド化を行う地域組織やそこに蓄積された技術の構築方法、伝達方法を捉えることも必要である。

 3点目は地域スケールに注目し、ブランド認証の効果を検証することである。近年は、国や都道府県スケールの認証だけでなく、市町村が主体となり認証を行っているケースが登場しているためである。

 4点目は、地域社会や地域環境に注目し、ブランド化の波及効果を検証することである。これまでの経済的効果の検証に加えて、 近年は地域社会への効果を期待した地域ブランドの増加や生物多様性を考慮した生き物ブランド米の登場などがみられるためである。 これらの地理学的視点により、ブランド化の実態とその効果を検証していくことが増加するブランド化の現象をとらえる上で重要であることが明らかになった。

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