日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 539
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流域誌の作成を念頭に置いた流域環境情報の整理手法の一提案
*森本 洋一小寺 浩二
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抄録

Ⅰ はじめに

 水文地理学の研究グループでは,河川流域における自然(地形地質,気候,水文)条件や人文,社会条件等(以降,流域環境情報という)の整理と比較を通して,当該流域における水文研究のベースとなり得る“流域誌”の作成を試みている。筆者は,流域誌作成の目的は,流域やその小流域の環境的な課題を明らかにし,適切な環境を維持するための対策の方向性を示すこと,また,それらを基礎とした詳細な調査研究を通じて,流域の水文環境の保全のあり方を提言することにあると考える。

 流域とは,その河水のもとになる雨雪の降下する全地域1)と言われ,いわば降水が集まる器のようなものである。1級河川や2級河川等の大河川流域と言われるものもあれば,大河川の中・小流域,広義に捉えれば,下水や上水等の区域も流域という見方もできる。さらに,人口や社会資本整備等の普及度も流域により様々である。面積や社会条件等が異なる流域を比較することは容易なことではないが,GISが一般化されたことで,流域情報は簡単に整理できるようになってきた。さらに,公開される GISデータの種類も年々増加している。 本稿では,WEB上に公開されている自然環境や水文環境,統計データとGISソフトを用いて,流域環境情報を整理した結果の一部を報告しその活用策を提案する。

Ⅱ 流域誌の作成に活用可能なサイト  

 初めに,流域環境情報が公開されているWebサイト等を調査した。活用可能なサイトの一例を示す(表1)。

Ⅲ GISの活用による流域環境情報の整理  

 GISデータの閲覧,編集,解析には,オープンソースのソフトウェアであるQGIS等の活用を提案する。高額なライセンス費用がかからないため,研究や実務,行政等様々な現場で活用されている2)。  公開データには一部メッシュデータがあるが,多くは属性ごとの面データであるため,流域内に一定サイズの 標準メッシュを生成し,メッシュ内に地形や地質,気候, 土地利用等の情報を割当て整理した。メッシュ化のメリットは,流域内やその小流域における各情報の面積割合や変化率等を算出できるため,比較が容易にできることにある。一例として,国土調査の20万分の1地質図か ら作成した信濃川支流魚野川流域の地質図を示す(図1)。

Ⅳ おわりに  

 流域やその小流域ごとに,メッシュ単位で流域環境情報を整理した結果の一部を報告した。これらの一連の解析は,流域誌の元となるだけでなく,河川流域を対象とした物質収支や水収支研究の基礎資料として活用できる,また,河川の氾濫や内水氾濫等のシミュレーションや洪水時の流出解析など,防災・減災対策への活用も可能である。今後は,ラスタによる地形解析や水文解析等3)を参考に,ラスタによる手法についても定式化していくことも検討したい。

参 考 文 献

1)野満隆治・瀬野錦蔵(1959):新河川学.地人書館,3p.

2)森本洋一(2022):QGISと3次元点群データを活用した環境解析,地域環境科学研究,地域環境科学研究会(投稿中)

3)小寺浩二・中山祐介・清水雄太・小野寺真一(2008):河川流域の水環境把握のためのGISモデルに関する研究-芦田川流域を中心に―,法政大学情報メディア教育研究センター研究報告,Vol.21

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© 2022 公益社団法人 日本地理学会
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