日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 310
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「国勢調査報告」と「在留外国人統計」における外国人人口の乖離とその要因
*野村 侑平
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抄録

総務省統計局「国勢調査報告」と法務省「在留外国人統計」に掲載されている外国人人口の乖離が指摘されて久しい(石川 2005など).これらは,日本国内の外国人人口を提示する際に使用される代表的な統計である.したがって,この乖離が継続すれば,国や社会の姿を正確に把握できないだけでなく,各種政策の立案等に影響を及ぼすことも考えられる.

 先行研究では,両統計の外国人人口が乖離する要因として,調査時点が異なること,国勢調査の回答時期に主に欧米人が一時出国していること,外国人は国勢調査に対して非協力的であることなどがすでに指摘されている.しかし,いずれも巨視的な視点に留まっており,外国人人口の増加および国籍の多様化が全国的に進行した2010年代以降,乖離の要因や地域差に関する詳細な検証が十分になされたとは言い難い.そこで,本研究では,両統計における外国人人口が乖離する近年の実態を属性別(性別・年齢階級別,国籍別)および地域別(全国,都道府県別,市区町村別),さらには埴淵ほか(2010)が考案した修正都市雇用圏域別に検討し,両統計の外国人人口に関する知見を深めることを目的とする.

 本研究における分析対象は,全国の1896市区町村(政令指定都市の行政区含む,北方地域の6村除く)で,両統計の外国人人口がともに30人を下回る自治体は適宜除外した. 利用データは,2015年時点の外国人人口を掲載している,①総務省統計局「平成27年国勢調査報告」,②法務省「在留外国人統計 平成28年版」である.①と②で比較が可能な項目を抽出し,②の外国人人口に対する①の外国人人口の比率(以下,比率と呼称)を算出し,その高低を検討した.

 本研究から得られた知見は以下の3点である.

 1点目は,2015年時点の全国の比率は78.5%で,①が②を下回っているが,属性・地域によってその値は大きく異なる点である.性別・年齢階級別では,男女ともに20-24歳階級(68.0%,72.1%)が最も低く,国籍別ではベトナム(59.3%),インド(62.8%),英国(69.9%)の順に低い.その要因として,前者は20-30歳代の技能実習生に対する国勢調査の周知不足,後二者は高度熟練労働者が再入国許可を保持し頻繁に出入国している可能性が示唆された.

 2点目は,市区町村別に検討すると,北海道と長野県を中心に比率が極端に低い/高い自治体が確認された点である.その背景として,比率の低い自治体は,スキー産業のインバウンド需要に伴い,外国人観光客および労働者が②の公表時点である12月末前後に大量に流入し,一方で,比率の高い自治体は,農業が主たる産業であり,収穫期・栽培期に当たる①の調査時点である10月1日を過ぎると,外国人労働者が他地域へ流出したことが考えられる.

 3点目は,修正都市雇用圏域別の検討により,中心と郊外との差よりも都市圏と非都市圏との差がどの国籍においても明瞭であった点である.このことから,乖離の程度を規定する要因には都市化度と関連した地域差が存在することが示唆される.

参考文献

石川義孝 2005.外国人関係の2統計の比較.人口学研究 37:83-94.

埴淵知哉・花岡和聖・村中亮夫・中谷友樹 2010.社会調査のミクロデータと地理的マクロデータの結合-JGSS-2008を用いた健康と社会関係資本の分析を事例に-.日本版総合的社会調査共同研究拠点 研究論文 10:87-98.

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