日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S409
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2010年以降のロシア・サハ共和国における人口増加
*桐村 喬飯島 慈裕齋藤 仁
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抄録

I はじめに

 ソ連崩壊以降,ロシア全体の人口は減少傾向にある一方で,サハ共和国では近年,人口増加に転じつつある.特に,首都であるヤクーツクでは顕著な人口増加が認められ,住宅地の拡大が生じている.

 一方,東シベリアの永久凍土地帯では,20世紀後半以降の温暖化の進展により,サーモカルストと呼ばれる凍土融解に伴う地表面の沈降が進んでいる(Fedorov et al., 2014).地表面の沈降やそこでの湖沼の発達は,ロシア・サハ共和国の人々の生活にも様々な影響を与えており,人口増加に伴う住宅地の拡大は,人々の生活と凍土融解による環境変化との接点を増大させつつある.

 そこで,本研究では,凍土荒廃現象の人文・社会的影響を評価することを目的に,サハ共和国における2010年以降の人口動向とその地域差を明らかにし,それをもとにして,凍土融解による環境の変化との関係を考察する.分析に用いるデータは,2010年の国勢調査結果と,2011~2020年の自治体別の推計人口や住宅面積に関する統計データである.また,Google Earthの衛星画像を用いて,いくつかの地区における近年の住宅地の拡大についても検討する.なお,データの地図化にあたっては,OpenStreetMapの行政界のデータを主に用いる.

II 2010年のロシア人比率

 民族別にみれば,サハ共和国ではロシア人の人口減少が顕著であり,1989年には約55万人が居住していたものの,2010年には約35万人と20万人近くの減少となっている.一方で,ヤクート人は増加傾向が続いており,同期間に約37万人から約47万人にまで増加している.このように,ロシア人とそれ以外の民族とでは,人口動向には差がみられるため,2010年の自治体単位の民族別人口を用いて,特にロシア人比率と人口増加との関係を検討する.なお,データを入手できた408自治体のうち,ヤクーツク市のロシア人比率は37.0%であり,全体の8割程度である332自治体では20%以下となっている.また,人口規模が小さいほどロシア人比率が低い傾向にあり,2010年時点で都市的な地域にロシア人が集中している.

III 自治体別の2010~2020年の人口と住宅面積の変化

 2010年から2020年までの人口増加率をみると,340自治体(83.3%)で減少し,増加は68自治体(16.7%)に限られる.ロシア人比率が50%以上の58自治体では,減少51自治体(87.9%),増加7自治体(12.1%)となっており,ロシア人比率の高い自治体での人口減少が認められる.

 一方,2010年から2020年までの人口増加率と住宅面積増加率の関係をみれば,当然のことながら,人口増加率が高いほど住宅面積の増加率も高くなっている.しかしながら,人口減少にも関わらず,住宅面積が増加している自治体も多く,住宅面積の増加が確認されたのは306自治体(75.0%)である.1世帯当たりの住宅面積の増大や1世帯当たり人員の減少が予想されるが,自治体別の世帯数に関するデータが国勢調査以外では得られていないため,その動向については2021年に実施された国勢調査結果の公開を待つ必要がある.

IV 衛星画像からみた住宅地の拡大

 科研費「凍土環境利用と保全に向けた凍土荒廃影響評価の共創」の共同研究における3つの主要な研究対象地域のうち,人口規模の大きいチュラプチャ,マヤ,ミュリュンスキー(ボロゴンツィ)に注目する.これら3自治体のうち,チュラプチャとマヤでは住宅面積が増加基調にあり,チュラプチャでは人口の増加傾向が顕著である.民族については,いずれも2010年時点ではヤクート人が90%以上を占めている.特に人口増加が顕著であるチュラプチャについて,2015年と2019年の衛星画像を比較すると,サーモカルストの影響が大きい地域でも住宅地が拡大していることを確認できた.

V おわりに

 近年のサハ共和国では,ロシア人比率の低い地域を中心として人口増加が認められ,同時に住宅地の拡大も生じてきている.十分なデータは得られていないものの,住宅地の拡大には世帯構造や生活環境の変化も影響しているものと考えられる.結果として,凍土融解によるサーモカルストと土地開発がさらに近接するようになっている.

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