日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 333
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木材産地と製品加工における地域間分業の変化
吉野杉を事例に
*秦 洋二
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抄録

吉野川上流地域における育林技術体系の特徴は「密植・多間伐・長期育成」の3点に集約される。このような林業技術の発展や,展開過程については既に多くの先行研究が見られるが,そこで生産された杉材(吉野杉)がどのような製品特性を持っており,またそれがどのような流通過程を経て市場に流通してきたのか,さらにはこうした商品流通が,最終的に地域経済に及ぼすしてきた影響について地理学的視点から明らかにした研究は管見の限りそれほど多くはない。そこで本研究は,奈良県吉野町における林業の展開過程とそこで生産された杉材の流通過程とその消費の様態を明らかにすることを研究目的とする。 吉野杉の特徴は,密植による年輪幅の狭さとそれによる密度の高さである。この結果,吉野杉で作った樽は水漏れが少ないことで知られるようになり,樽材としての利用が盛んになった。また,吉野杉は高樹齢の材が多いため,曲がりが少なく,この点でも樽材として好適であった。そして,吉野杉で作られた樽は灘の酒造りにおいて珍重されることになる。当初は吉野で材木を樽の形に加工して販売していたが,次第に樽の製造業者が少なくなり,また技術者も不足するようになった。このため,樽の安定供給に不安を抱いた酒造業者の中には,樽製造の技術者を社員として雇用し,木材の樽への加工を内製化するところが現れている。この結果,吉野町は樽の素材としての木材の生産と販売に特化するようになり,材料生産,流通,加工の地域間分業にも変化が見られるようになっている。

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