日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 337
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東京大都市圏における地方財政への認識と政策的対応の空間構造
134市町村へのアンケート調査から
*佐藤 洋
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抄録

Ⅰ はじめに

 地方自治体はその領域内の住民や法人,固定資産などに対する税収をもとに,公共サービスをはじめとする行財政運営を行っている.自治体間でその状況には差異があり,この点で地方行財政は空間的な性質をもつ.地方財政の空間構造を検討した高橋ほか(1994)は,市町村の歳入と歳出について東京大都市圏の内外での地域差を示した.その後,2000年代以降には地方分権化に伴い自治体による行財政運営の裁量が大きくなった.さらには人口減少・高齢化の進行により,大都市圏の内外のみならず,内部においても財政状況の地域差が拡大していると推察されるが,このことは検討されていない.また,地理学による地方財政の研究では,自治体の認識や政策的対応については看過される傾向があった.類似した財政指標を示す自治体でも,自治体の認識や政策的対応は同一ではなく,地域差が生じていると考えられる.他方,地方財政学では人口規模と財政構造の関係のみに注目することが多く,地方財政の空間的な性質は注目されていない.近年では大都市圏においても人口減少・高齢化が進行しており,地方税収の減少や社会保障関係費用の増加により自治体の行財政運営は苦しくなりつつある.地方財政に対する自治体の認識と政策的対応がどのような空間構造をもつのか明らかにすることで,政策的なインプリケーションを得られる可能性がある.

 そこで,本研究では,東京大都市圏における自治体の財政状況に対する問題意識,政策的対応の地域差に対する多角的な検討を通じて,地方財政の空間構造を明らかにする.

Ⅱ 分析対象地域と研究方法

 本研究における分析対象地域は,東京都,埼玉県,千葉県,神奈川県の基礎自治体とした(島嶼部および税制度が異なる東京23区は除く).2021年10月に,分析対象地域の180市町村に対して財政運営に関するアンケート調査(郵送留置方式)を実施し,134市町村(回収率74.4%)から有効回答を得た.調査項目は主に,①現在の財政状況に対する認識,②人口減少・高齢化に対する認識,③地方税の税収確保策,④地方交付税への認識,⑤歳出に対する認識と削減策,⑥財政の将来推計の有無と必要性,⑦財政運営での広域連携の有無と必要性の7点である.

Ⅲ 結果と考察

 本研究から得られた知見は,主に以下の4点である.①自治体の財政状況に対する認識は概ね財政指標の傾向と一致するが,一部の自治体では財政状況と認識との間にギャップがある.②自治体の税収確保策には地域差があり,自治体の歳入構造と地域特性により,徴収対策や企業誘致,移住・定住促進などを選択している.海外では大都市内部の自治体は税収基盤強化のためにジェントリフィケーションや再開発を行うとされてきたが,東京大都市圏(特に都心から40km圏内)の自治体は,税収確保のために都市開発よりも徴収対策を強化するという日本独自の選択をしている.③歳入に占める地方交付税割合が低い自治体でも,財政運営が苦しいと地方交付税の削減に危機感をもつ.④歳出への問題意識は所掌業務や国の負担割合の差異に伴う裁量の余地が影響し,一部の自治体では歳出への問題意識と削減する費用の選択との間にギャップがある.

 これらの知見を先行研究と比較すると,本研究では①大都市圏の内部でも地方財政への自治体の認識や政策的対応に地域差があること,②自治体の財政構造以外にも地域特性や,人口規模による所掌業務の範囲,国の費用負担といった要素が自治体の認識や政策的対応の空間構造に影響を与え,一部の自治体は類似した政策的対応しか選択できなくなっていることが新たな知見として得られた.

参考文献

高橋伸夫・橋本雄一・鹿嶋 洋 1994.茨城県における地方財政の空間構造.地理学評論 67:289‒310.

謝辞

本研究は日本学術振興会特別研究員奨励費(課題番号: 21J21401)の助成を受けた.

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