主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2023/09/16 - 2023/09/19
1.学習指導要領におけるGISの位置づけと学校のICT環境
2022年度より必履修科目である「地理総合」が高等学校において実施となり,すべての高校生がGISを活用した空間認識をについて学習することになった。同時に「地理総合」を担当する教員がGISを活用した地理授業の見方・考え方や指導方法を身に付けることが必要である。そこで,大学の教職科目においてGISの考え方,技能,評価方法など培うことについて考える。
「地理総合」の3つの大項目の一つに「地図や地理情報システムで捉える現代世界」が位置づけられている。また,高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 地理歴史編では,地図サイトや統計サイトの具体的事例として,「地域経済分析システム(RESAS)」,「政府統計の総合窓口(e-Stat)」,「地理院地図」が示されている。「GIGAスクール構想」のもと,小中学校では児童生徒1人1台端末と,高速大容量の通信ネットワークの環境が整備され,高等学校においても,同様の環境整備が進んだ。このような状況で,「地理総合」の授業においてGISを活用することが容易となった。
2.GISに関する大学の教職課程おける現状と課題
高等学校教諭普通免許状地理歴史の取得の際に,「社会・地歴科教育法」などの授業においてGISを活用した指導法や評価の方法を身に付けることが必要である。しかし,大学の教職課程において,「社会・地歴科教育法」の授業について,地理学を専門とする教員が担当しているとは限らない。その場合は,「教科に関する専門的事項」であり学科等の専攻科目である「地理学概論」または「人文地理学」などにおいてGISに関する授業が実施されることが望ましい。高等学校に地理歴史・公民の教員として勤務する場合,教員採用試験は地理,歴史,公民の枠組みで採用している場合も多く,また,教員自身もそれぞれの専門性をもって勤務する。学校現場では,歴史や公民を専門とする教員が「地理総合」を担当する場合も多くあり得る。このことからも,大学の教職課程でGISの基本的な考え方や活用方法を修得することは重要である。
3.教職課程で修得するGISを活用した授業の考え方と技能
GISは目的ではなく,空間を理解する方法であり,道具である。目的に応じて道具を使い分ける必要があるように,授業内容に応じて,GISソフトを使い分けることが重要である。具体的には,防災の観点から浸水地域を考えるには「地理院地図」の自分で作る色別標高図,地域間のデータ比較や課題発見には「RESAS」,地域変容の考察には「今昔マップ」,地域データから階級区分図や図形表現図の作成には「MANDARA」というような使い分けが有効である。
2025年度以降入学の多くの大学生は高等学校で「地理総合」を履修しているが,教職科目では教員として授業実践力を身に付けることが重要である。そこで地形,防災,農業,地名,地域変容,統計地図などに関するGIS活用の実習を行い,問いの設定や理解させたい事項を考える。例えば次のような実習である。
「地理院地図」の「自分で作る色別標高図」で防災,地形と立地,地形と地名を考える場合, 東京中心部の標高図を作成し,荒川流域には標高0m以下の地域が広がっていることから,津波や大雨による浸水について考察し,日本の多様な地域についても同様の方法での学習ができることを理解する。東京駅付近で西側の洪積台地と東側の沖積平野,いわゆる山の手と下町の境界を理解できる。また,江戸城のあった皇居が洪積台地の端に立地しており,大阪城や名古屋城などでも類似した立地状況を見ることもできる。洪積台地には侵食された谷があり,渋谷はその谷の部分に位置すること,さらに,地名と地形との関係を考えるともでき,東京の各地で「谷」や「台」の地名と地形を調べることができる。「自分で作る色別標高図」では,表現したい目的に応じて標高のしきい値を設定できるので,作成した地図からそれぞれの理解の状況を確かめることができる。
4.「地理総合」におけるGISの評価の方法
GISに関する実習において,ワークシートなどを用いて作成した地図からの読み取り,要因や課題の考察,コメントなどさせる。それにより,次のような資質・能力について学習評価ができることを確認させる。それは,地図の作成と読み取りなどの技能,作成した地図の位置,範囲,階級区分のしきい値など地理情報をわかりやすく表現,内容の考察やまとめなどの思考力・判断力・表現力,課題に応じた資料収集や地図表現などの主体的な態度などである。大学の教職課程においてもそれらの実践し,教師としてのスキルの向上を図るべきである。