日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 310
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日本における食事摂取動機の地域差
私たちはなぜ、私たちが食べているものを食べるのか
*蒋 宏偉佐藤 廉也
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抄録

1. はじめに  食事摂取動機調査(以下はTEMS調査と称する)は2010年代初め頃にヨーロッパで開発された心理学のスケールである (Renner et al. 2012)。近年,より環境にやさしい,もしくは健康によい食生活の形成を促進するために,TEMS調査は環境学や保健学などの研究分野において注目されるようになっている。TEMS調査は15の項目を含む。すなわち,好み,習慣,需要と飢餓,健康,便利さ,喜び,伝統的食物,自然への関心,社交性,価格,外観,体重管理,情緒調節,社会規範,社会的イメージである。各項目にそれぞれ3つの質問が含まれている。 本発表では,2022年1月中旬から2月中旬にかけて日本全国で実施したインターネットTEMS調査の結果を提示し,東と西,都市と農村および10の地域分類(北海道・東北・北陸・関東・東海・近畿・中国・四国・九州沖縄)の3種の基準から地域間の差異を検討し,あわせて日本におけるTEMS調査の応用可能性をさぐる。 2. 資料と方法  調査では,TEMSの15項目の質問以外に,回答者の性別,年齢,身長,体重,居住地(市町村および,都市・農村の別)に関する情報を収集した。質問への回答は,「全くあてはまらない」1点から「非常にあてはまる」7点までの尺度で測定した。このデータを用いて,以下の統計分析を行った。第一に,TEMSの日本における応用可能性の検証である。検証には,日本全国のデータ,東西の2分類,都市と農村の2分類および10地域の分類において,それぞれの調査結果を用いてAMOSの確認的因子分析を行った。第二に,全国および地域分類において,各項目間得点の比較可能性について,反復測定分散分析を行った。第三に,線形回帰モデルを用いて,性別,都市・農村,年齢および居住地域が15項目得点に与える影響を分析した。最後に,後退型段階的線形回帰分析を用いて,年齢,性別,TEMS得点,都市・農村,居住地域がBMI(Body Mass Index;WHOの基準によると25以上は過体重)に与える影響を分析した。 3. 結果と考察  TEMS調査では,合計5,582人(男性2,759人,女性2823人)の有効回答を得ることができた。平均年齢と標準偏差は男性が44.8 ± 13.4歳であり,女性が44.7 ± 13.4である。表1はTEMS調査15項目の平均得点を示している。平均が3点未満の項目は情緒調節,社会規範,社会的イメージの3項目しかなかった。言い換えれば,上記3項目は日本人の食事摂取動機になりにくい項目と推測できる。AMOSの確認的因子分析結果のCFI,SRMR,RMSEAなどの検定指標はいずれも良好であり,日本全国および各地域における応用可能性や地域間の比較可能性を示した。また,反復測定分散分析の検定結果は各地域において項目間の比較可能性を示した。各項目の得点ランクでは,東と西,都市と農村および10の地域分類の地域間の差はなかった。表1に示したように,好み,習慣および便利さの3項目は,最も日本人の食事摂取動機に影響していると推察できる。10の地域分類からみると,各項目の平均得点最上位のほとんどは四国と東北であった(表1)。線形回帰モデルによる居住地域とTEMS関係に関する分析では,東西でみる場合,西日本の居住者は,有意に自然への関心の得点が高かった。一方,都市と農村居住者の間では,15項目の得点差はなかったが,10の地域分類でみた場合,東北や東海地域の居住者は,有意に社会規範や社会的イメージの得点が高かった(p < 0.05)。また四国地域の居住者は,習慣や伝統的食物の得点が有意に高かった(p < 0.05)。得点や居住地域とBMIの関係については,体重管理,喜び,好み,外観の得点は,ポジティブにBMI値に寄与し,習慣,需要と飢餓,自然への関心,健康の得点はネガティブにBMI値に影響を与えていた。東と西の間では,BMIの有意差がなかったものの,農村居住者および北海道居住者のBMIは有意に高く,これらの地域の居住者に肥満傾向が高いと示唆された。 以上のような地域差の背景には何があるのだろうか。発表では,都市・農村居住者間の社会・文化的差異や,都市化による変化,地域間の文化的差異,さらには性別および年齢による差異などを含め,さまざまな側面から考察を行う。

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