日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S202
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国土地理院における「地理総合」への支援
*大塚 孝泰大塚 力
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抄録

1.国土地理院による取組概要

 国土地理院では,2017(平成29)年3月に国土地理院長の私的諮問機関である測量行政懇談会において「地理教育支援検討部会」を設置し,外部有識者により,地理教育を通じて地域の防災力を高めて地理空間情報活用社会を実現するために国土地理院に期待される役割について議論を行った.2019(平成31)年3月には,「地理を通じて自然災害から身を守るために-災害を知り災害に備えるための地理教育-」の提言が取りまとめられ,国土地理院のウェブサイトで公開した.

 その後も,提言及び2022(令和4)年度からの高等学校における「地理総合」の必履修化を踏まえ,更なる役割を果たすため,教育現場や地域への防災・地理教育に関する支援を行っているので,これらの各種コンテンツや取組を紹介する.

2.「地理教育の道具箱」の公開と充実

 国土地理院は,地理や防災を学びたい方,教育分野の関係者の方々に向け,国土地理院のコンテンツやツールを紹介する地理教育支援のためのウェブサイト「地理教育の道具箱」を2016(平成28)年7月に公開した.また,より教育現場で求められるコンテンツやツールを把握するため,教員で構成されている地理の研究会へのヒアリングを行った.2019(平成31)年4月には,コンテンツやツールに関して「何を」,「どのように」使えば良いかなど,地域での学習や学校の授業のヒントになる項目を学校教育の学習単元に合わせて整理し,分かり易くかつ活用し易いユーザーインターフェースに改良を行った.

 その後は,毎年コンテンツの充実を図っており,2022(令和4)年には,再度,教員の方々にヒアリングを行った.今後,ユーザーインターフェースなどの更なる改善の検討を行うこととしている.

3.「地理院地図」と「ハザードマップポータルサイト」

 「地理院地図」は,国土地理院が整備する地図,空中写真,標高,土地の成り立ちを表した地図,災害情報など,様々な地理空間情報のデータを一元的に表示でき,インターネットに接続されたパソコンやスマートフォンがあれば,いつでも,どこでも,誰でも利用可能なウェブ地図である.また,地図上でクリックした経路の断面図の作成,標高値の区分や色設定を自分で行える「自分で作る色別標高図」の機能,さらに画面を分割して2つの地図や写真を見比べることのできる2画面表示機能など簡易的なGISの機能も有するものである.

 「ハザードマップポータルサイト」は,住民などの防災意識向上を図ることを目的として,国土交通省水管理・国土保全局と国土地理院などが連携し,事前の防災対策や防災教育,災害時の避難など,様々な防災に役立つ情報を提供するサイトである.本サイトには「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」の2つのコンテンツがある.

 国土地理院では,地理院地図やハザードマップポータルサイトなどを授業で積極的に活用していただくため、教育現場の先生方が集まる研究会での講演や学校への出前講座など,様々な機会を通じて紹介している.

4.新たな地図記号「自然災害伝承碑」

 日本は,自然的条件によって,昔から数多くの自然災害に見舞われており,先人たちは,その被害と教訓を後世に伝えようと,恒久的な石碑やモニュメントとして遺してきた.しかしながら,これまではこれらの情報は十分に伝承されず,過去からの貴重なメッセージを十分に活かし切れていなかった.

 そこで,国土地理院は,地図・測量分野から地域の防災力向上と自然災害による被害の軽減を目指し,これらの石碑やモニュメントの情報を整備するために2019(令和元)年6月に新たな地図記号「自然災害伝承碑」を公開した.

 自然災害伝承碑の情報は,学校教育現場における学習教材として,小・中学校,高等学校などで活用事例が増え始めているほか,ジオパークや博物館,および地域学習での利用も増えている.

5.最後に

 国土地理院は,今後も防災・地理教育の関する支援として,教育分野の関係者の方々に対して,地理教育や防災教育に関する資料やコンテンツの活用事例の公開,出前講座の講演などの取組を継続的に行っていく.

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