日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 213
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相模トラフ中部における軸部近傍の断層地形
*後藤 秀昭杉戸 信彦隈元 崇楮原 京子
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抄録

1はじめに  近年,数値化された地形データの整備が急速に進み,これを用いた実体視可能なステレオ画像が作成されることで,空中写真や等高線図,陰影図では認識が困難であった変動地形が抽出されるようになった(後藤・杉戸,2012)。地形判読の重要な資料となりうるとの認識が進み,変動地形研究は新展開を迎えている。海底地形においても,地形データのステレオ画像を用いた変動地形学的な検討が行われ,主に探査記録に依拠した従来の地図とは異なる海底活断層図が作成されるようになった(Goto et al., 2022)。 南海トラフや日本海溝など,深海に分布するプレート境界に震源断層を設定する場合には単純な形状でモデル化されることが多く,地形や地質構造が十分に反映されているとは言いがたい。海溝やトラフの軸の陸側斜面は極めて複雑な地形を成し,複数の活断層が並走しており(Nakata et al., 2012),陸上の活断層やプレート境界断層と同様にそれぞれの活断層が固有の活動を行うとする「プレート境界活断層モデル」も提唱されている(中田・後藤,2020)。陸上と同様に,海底の地形をステレオ画像で詳細に判読できるようになった今日,陸上変動地形研究者が海底の地形形成を検討し,多様な専門家と議論すべき段階を迎えていると考える。プレート境界のひとつである相模トラフは,陸域に囲まれ,深海のなかでは浅く,また陸域からの堆積物の供給が多く,プレート境界断層の地形を詳しく観察できるフィールドである。相模トラフで発生した1923年大正関東地震は縦ずれ成分のある横ずれ断層とされる。また,GNSS測地観測ではトラフと平行な方向のベクトルが描かれ,相模トラフでは主に右横ずれ変位が想定される。しかし,解像度の粗い地形データでは,横ずれ断層の明瞭な証拠はこれまで確認されていない。地震断層と地震を直接関連づけて議論するには,内陸活断層と同様に,変動地形学的な直接的証拠から,活断層の分布および変位様式という断層の基礎的情報を検討,整備する必要があると考える。2.海底地形データと地形画像の作成  本研究では,海洋研究開発機構のデータ公開サイトの測深データを用いて相模トラフ周辺の1.5秒(約45m)間隔のDBMを作成した。これと海上保安庁の測深データ,(財)日本水路協会の等深線,J-EGG500(500m間隔),陸上のSRTMのDEMをSimple DEM Viewerに読み込み,Goto(2022)に準じて地形アナグリフを作成し,変動地形学的に判読した。そのうち,北西―南東走向の相模トラフの中軸部周辺で,変位基準となる平坦面や海底谷の発達がよいが,地形画像が不鮮明で変動地形が明確に捉えられていないトラフ中部軸部北東近傍を対象に測深調査を実施した。本発表は,船上で得られた約15m間隔のDBMをもとにして作成された地形画像から判読できる変動地形を速報的に報告する。3.トラフ軸の北東近傍の変動地形  房総半島先端の西には,相模トラフに向かって流下する東京海底谷と南の布良海底谷が知られている。布良海底谷は,半島沖から発して南西〜西流した後,北西に延びる海脚地形(以下,西布良海脚と呼ぶ)に流路を阻まれるように北西に向きを変えてから,再び南西流してトラフにいたる。西布良海脚の南西麓とその南西沖には,活断層が分布するとされてきた(活断層研究会編,1991)。これらは,房総半島の南岸沖の急崖の基部に分布する東西に延びる活断層の北西延長にあたる(同,1991)。急崖基部には新期の扇状地面に変動地形の存在が指摘されている(泉ほか,2013)が,その北西延長の地形や変位様式はよく分かっていない。 本研究で得られた地形データに基づく地形画像からは,西布良海脚基部やその北西延長の布良瀬海底谷には変位を示す地形は確認できなかった。その一方で,西布良海脚基部の南西沖には,緩やかに南西に傾斜する地形面上に,幅0.3km程度の細長い丘が北西―南東方向に約6kmに渡って延びているのが観察された。この細長い丘は,2列に分けられ,右ステップするように分布する。北西延長の海底段丘面上には幅1km,長さ3km程度の紡錘形の丘が北西―南東方向に延びる。また,これらの間の布良海底谷の谷底面では,紡錘形の丘と同程度の幅の高まりが見られる。これらは,地形的特徴から一連の新期変動地形と解される。以上のように,詳細な地形データによって新期の変動地形を認定することができた。横ずれを示す直接的な地形的証拠は確認できていないが,直線状に延びる細長い丘が右ステップ様子は中央構造線活断層帯など,陸上の右ずれ活断層の変位地形と類似する。今後,反射断面記録で断層構造を慎重に確認したい。

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