主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
1.研究の背景・目的
日本では国土交通省と経済産業省によるスマートモビリティチャレンジでの支援以降、全国でMaaSが展開されている。それらのなかには観光との連携も図られ、観光振興の手段としても注目を集めている。
近年注目を集める概念であるため、MaaSに関する先行研究には、今後目指すべきMaaSのサービス設計を論じたもののほか、オープンデータの整備や法制度などの観点から社会実装に向けた課題を指摘したものが多く存在する。観光との関係では、スマートモビリティチャレンジ採択事業の内容を行政資料により把握した澁谷ほか(2022)や観光へのMaaSの活用可能性を論じた日高(2020)などがある。しかし、澁谷ほか(2022)は対象がスマートモビリティチャレンジ採択事業に限定されており、支援外の取り組みについては把握できてない。また、MaaSの課題についてはデータ連携などのシステム面や国レベルでの法制度での課題の指摘が多く、MaaSが実施される自治体の課題認識については明らかになっていない。そこで、本研究ではMaaSを実施している自治体に対するアンケート調査の結果をもとに、MaaSの取り組みの実施内容と課題認識を明らかにすることで、観光と連携したMaaS(以下観光MaaS)の特徴と課題を検討する。
2.調査方法・分析対象
本研究では令和元年度~令和3年度に実施されたスマートモビリティチャレンジ採択事業の実施範囲となった自治体および、スマートモビリティチャレンジ推進協議会に所属する自治体(2022年7月31日現在)を合わせた計185自治体に調査票を郵送し、郵送またはGoogle Formsでの回答を依頼した。調査票では先行研究や先行事例を踏まえ、国による支援の状況、実施内容、課題認識、今後の展望等を質問項目としている。結果として、111自治体(回収率60.0%)からの回答が得られた。本報告では、そのうちMaaS関連事業を実施中と回答した47自治体を分析対象とする。また、観光と連携する24自治体と連携しない23自治体の回答を比較することで、観光MaaSの特徴と自治体の課題認識を検討する。
3. 観光MaaSの実施状況と自治体の課題認識
観光MaaSの特徴として、国による支援であるスマートモビリティチャレンジの支援を受けた割合が低いことが挙げられる。また、支援を受けたことのある自治体の半数以上が、支援以前からMaaSの取り組みをしている。一方の観光と連携をしていないMaaSではスマートモビリティチャレンジの支援を受けた経験の割合が高く、かつその支援をきっかけとしてMaaSに取り組んでいる。具体的な実施状況として連携移動手段をみると、観光との連携がない場合はバスやタクシー・ハイヤーに偏り、くわえてAIオンデマンド交通の活用が顕著となる。一方で、観光MaaSではバスやタクシー・ハイヤーにくわえ、旅客鉄道を中心として多様な移動手段との連携が図られている。また、シェアサイクルやカーシェアといったシェアサービスを提供する割合もわずかに高くなる。上記の回答を踏まえると、観光MaaSの場合は、交通事業者が以前から取り組んでいた観光客向けの取り組みを発展させたものとして位置づけられる。
自治体のMaaSに対する課題認識としては、いずれも財源と利用者確保を挙げている。特に観光MaaSの場合は、今後収支の改善を重視していく意向が示され、営利事業としての側面が強く働いている。一方で、地元住民に向けた展開や既存公共交通の再編についても観光MaaSの実施自治体は重視しており、観光を利用しながら公共交通の利益を確保することで、公共交通の維持を図りたい思惑が読み取れる。