日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 132
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定点カメラと機械学習を用いた高山帯における雲の観測(2)
*浜田 崇岡本 遼太郎小熊 宏之
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抄録

近年,定点カメラを用いて高山帯の消雪状況をモニタリングする研究が始まっている.カ メラで撮影された画像には消雪の状況以外にも,さまざまな種類の雲(霧)も写っている.画像に写る雲(霧)に注目し,いつ,どこで,どのくらい出現するのかといっ た情報を抽出することができれば,高山帯における雲(霧) の変化を長期間モニタリングすることが可能となる.雲の発現はそのときにおける気象場を総合的に現す指標になると同時に,その有無は高山帯における動物の行動パターンや植物の光合成に影響することも予想される.

 本研究では,定点カメラにより撮影された画像を用い て,高山帯における雲(霧)の観測手法を確立するとともに,雲の出現パターンを明らかにすることを目的とする.定点カメラは(1)衛星画像では不可能な上空の雲と山体の霧を判別できること,(2)安価に高頻度の観測を実現できることなどが特徴である.今回は奥穂高岳から槍ヶ岳の稜線を蝶ヶ岳ヒュッテより撮影した2016年および2020年の画像を用いた.撮影時間は7時~16時の間,撮影頻度は30分毎である.これらの画像は国立環境研究所のHP(温暖化影響モニ タリング(高山帯))にて公開されている.

 画像を一定の大きさのタイルに分割し,それぞれのタイルごとに雲(霧)の有無を判別した.雲(霧)の判別には既存の大規模画像分類データセットで事前学習させた深層学習モデルを用いて,4つ(0:雲なし,1:中程度雲あり,2:曇あり, 3:エラー)に分類を行った. 次に,2016年と2020年の写真からランダムに選んだ教師データ作成し,それを用いてモデルの精度検証を行った.同一年内のデータで行った精度検証では高い精度を示したが,訓練に用いたデータと異なる年に適用した場合の精度はわずかに低くなった.精度低下の原因としてはタイル内の雲が少ない場合の認識エラーなどであったが,大きな問題にはならないと考えられた.

 今回は雲の出現する場所の特徴から3つの出現パターンを求めた.(1)山の稜線が雲に覆われるパターン,(2)カメラのある場所が雲(霧)に覆われるパターン,(3)梓川の谷に雲海が現れるパターンである.なお,上空に現れる中層雲や高層雲の出現パターンについては今回の解析対象からははずしている.

 (1)山の稜線が雲に覆われるパターンについて,月別・時別の頻度分布を示した.11月~2月にかけての晩秋から真冬の時期を除くと,午前中から夕方にかけて出現頻度が高くなる傾向を読み取ることができる.午後から夕方にかけての時間帯における雲の出現頻度は,月の約1/3から約1/2の日数でみられることが明らかとなった.谷風などの影響により,午後になると稜線が雲に覆われやすいという登山時に観察される状況を示していると考えられる.このように本手法を用いることで,これまで定量的な情報が少なかった高山帯における雲の出現頻度について新しい情報を提供することが可能になると考える.

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