日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 446
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物件探しから考察する災害リスク調査
*石橋 生
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抄録

約50年ぶりに2022年から高校必履修科目としてスタートした地理総合では,GIS・防災・SDGsを3つの柱としており,知識の活用・問題解決型の授業や主体的・対話的で深い学びとして,アクティブラーニング型授業の実践が増えることが想定される。本校では地理を専門とする教員が科目専任制で指導しているが,歴史や公民を専門とする社会科教員が地理総合を教える学校もあり,GISのスペシャリスト教員だけが教えられる授業ではなく,ICTを利活用した授業が苦手な地理科教員や地理を専門としない教員でもGIS分野が教えられるようなモデル授業を考案したいと考えた。さらに,地理の大学入試問題では地理的思考力(地理的な見方・考え方)を活用する問題が増え,この育成には小学校から大学までの学習内容の連続性が求められ,地理的思考力の活用は地理学だけでなく,地政学・データサイエンスなどさまざまな学問領域でも必要とされている資質である。WigginsとMcTigheが提唱する「逆向き設計」論では,「生徒は何ができるようになるのか」,「生徒にどういう経験をさせたいのか」など,学習者である生徒の視点を意識してカリキュラムを設計し,教師は希望的観測ではなく,意図的設計を行うことが求められる。「逆向き設計」論に基づいて授業を設計し,生徒の学びを深めるために,教科学習(地理総合・地理探究)と探究学習(総合的な探究の時間)の相互還流となる授業を考案した。

地理総合の防災分野に関する授業を検討するにあたり,私は昔,神戸に住んでいたので,1995年の阪神・淡路大震災で親を亡くした友人がいたり,2018年に東北地方へ修学旅行で引率し,石巻市の大川小学校を訪問して,2011年の東日本大震災の被災者から直接,話を伺うなど,防災教育に関する教材研究をすると深くて重い内容になってしまい,授業準備の難しさを痛感した。このような重い内容の防災教育も大切にしつつ,地形条件から自然災害と共生する日本では,普段から防災について考えなければならないし,生徒にはもっとポジティブに楽しく防災について学んで欲しいという願いも込めて,GIS・防災分野のモデル授業を考案した。授業では,仮説と検証を繰り返しながら,WebGISである地理院地図と重ねるハザードマップを活用し,色別標高図を作成することをミッションにしている。WebGISを利活用して志望校周辺の災害リスクについて調査・分析することを学習目標とし,スライド作成から発表まで2~3時間の授業として設定している。当初,地理総合を学習する高1や高2向けの学習として考案したが,受験勉強のモチベーションを高めることを目的に高3で実施したところ,興味を持って積極的に取り組んでくれた。学習を通して期待される効果として,志望校に対する思いが明確になり,大学生活を具体的に想像することで志望校に対して強い動機づけになること,ICT教材であるWebGISを利活用して調査する習慣が身につくこと,高校の間に物件を探した経験があれば,大学に合格した後,一人暮らしの物件探しをする時に役立つことが挙げられる。本校ではロイロノートを活用しながら,アクティブラーニング型授業を実施しており,学んだことをペアワークやグループワークで話し合ったり,発表やふりかえりを通して学びを外化することで知識として定着し,問題点を把握することが可能となる。ふりかえりでは,GIS教育に効果があったことや高低差だけを考えるのではなく,地形条件を踏まえ,標高が高くても地盤は大丈夫なのか,別の災害リスクについても調べてみたいという意見もあった。探究学習(総合的な探究の時間)では,NHKの映像コンテンツを利活用した防災教育,防災小説やクロスロードなどのRPG防災教育,ICT教材を利活用した防災教育を考案し,生徒と一緒にみんなのBOSAIプランを策定した。みんなのBOSAIプラン1.0とは,学校における従来の防災教育,みんなのBOSAIプラン2.0とは,地理総合で教師がICT教材を利活用して行う防災教育,みんなのBOSAIプラン3.0とは,教師ではなく,高校生が行う防災教育である。高校生を地域の頼れる防災リーダーに育て,高校生が指導者となり,高校生・中学生・小学生に向けて,次世代へつなぐ持続可能な防災教育を実施することが求められる。

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