主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
Ⅰ はじめに
本研究は,社会科地域学習における小学校教師の授業づくりの考え方とその背景について事例の報告をする。小学校社会科の第3学年・第4学年では,子どもたちの身近な地域(市町村や都道府県)を場所とした授業がおこなわれる(以下,地域学習とする)。小学校社会科において,地域学習は一つの大きな学習テーマである。地域学習に関する先行研究は,膨大に蓄積がおこなわれている(例えば,Watanabe et al. 2021)。しかし,地域学習の授業づくりや学習指導の実態およびその背景について,小学校教師の信念に注目して,明らかにしたものは少ない。
Ⅱ 研究方法
本研究では,小学校教師へのインタビュー調査(2021年度)をおこない,収集したデータを質的に分析した(Creswell and Poth 2018)。広島大学大学院の研究倫理審査委員会の承認を受けた上で実施した。また,研究参加者と所属長に,研究の趣旨などを説明した上で同意書に署名を得た。
研究参加者は,日本の小学校に勤務し,社会科を研究教科とする5名の教師(全て仮名:安東,川辺,志田,田中,与田)を,目的的サンプリングした。インタビューは,対面およびオンラインで実施した。インタビューでは,社会科の「目的/目標・内容・方法」で重視していること(教科に関する信念)を確認したうえで,各教師がこれまでに実践した代表的な地域学習の事例と,地域学習の授業づくりや学習指導の「やりがい」や「困難性」を聞き取った。
Ⅲ 結果
本事例の5名の小学校教師たちは,社会科地域学習について,それぞれ異なる信念をもっており,それゆえに地域学習で扱われる範囲や素材の選択および,授業づくりや学習指導に相違がみられた。その背景に,教師を取り巻く人的な繋がりが一因となっていた。
志田と与田,安東は,地域への理解を重視していた。志田は,子どもが自らの問題意識をもって,時間的な視点も伴いながら,地域に表れている特色の理解をめざしていた。与田は,教師が人文社会科学の概念を活用して,地域の教材研究をおこない,子どもとともに地域構造の探究をめざしていた。安東は,子どもの生活を中心にして,地域の特色を説明するための人文社会科学の概念の獲得をめざしていた。一方,田中と川辺は地域への理解を踏まえたうえで,地域社会への参加や関わり方を重視していた。田中は,社会問題を介して,子どもが地域社会の一員となることをめざしていた。川辺は,社会問題に関して,他地域での解決事例を参考に自分たちの地域で大人と協働して解決することをめざしていた。
Ⅳ 研究の展望
今後は,社会科を研究教科としない教師へ研究参加者を拡大し,事例の収集・分析をおこなう。本研究は,教員志望の学生や教師が,社会科地域学習の授業づくりや学習指導をおこなうための理論的な知見を提示することに示唆をもつのではないか。
文献
Creswell, J. W. and Poth, C. N. 2018. Qualitative inquiry and research design: Choosing among five approaches, 4th ed. LA, CA: Sage publications. Watanabe, T., Sakaue, H., Osaka, Y., & Okada, R. 2021. Trends in Research on Teaching and Learning Spatial Cognition in Elementary Social Studies in Japan: A Systematic Review from 1989 to 2019. Geographical review of Japan series B, 94(2), 49-64.
付記
本研究は,JSPS 科研費 JP 19K02760の成果の一部である。