日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 347
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ライフスタイル移住者の帰還に関する研究
-沖縄県の事例-
*小原 満春
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抄録

1.はじめに  

 理想のライフスタイルを追い求め、経済的要因以外の理由で自発的に行う移住を「ライフスタイル移住」という。このライフスタイル移住の「帰還」に関する研究は管見の限りほとんど無い。人口移動において帰還はいわゆるUターン現象といわれ、学術的には帰還移動、還流移動として多く議論されてきた。そこで、本研究ではライフスタイル移住者の帰還に焦点をあて、移住ブームがあった沖縄において、ライフスタイル移住を行い帰還した人々へ、インタビュー調査を通して、ライフスタイル移住者の帰還理由の一端を明らかにすることを目的とする。

2.先行研究

 Uターン研究において蘭(1994)は、人口還流は、能動的な移動か受動的な移動か、さらに都市によって引き起こされたプッシュ要因であるか、Uターン先地方のプル要因によって引き起こされるのかが、重要な視点であると指摘している。そこで本研究では、帰還理由について、能動的か受動的か、さらに沖縄を起因とするプッシュ要因か帰還先に起因するプル要因かの4つの視点と2つの組み合わせにて分類を試みる。さらに江崎ら(2000)は帰還を阻害する要因として、帰還先での「職」や「収入」にまつわることが多いとしていることから、これまでのUターン研究と比較するため、阻害要因についても検討を行う。

3.調査

 調査はオンラインインタビュー調査会社ユニーリサーチのモニターに対して「沖縄へ理想のライフスタイルを求め移住をした方で、現在は沖縄を転出した方」というスクリーニングを行ったところ、大都市圏および地方都市出身である7名の対象者が抽出された。そこで、オンラインインタビューにて帰還理由を尋ね、回答を分析した結果、プッシュ要因(沖縄)と能動的帰還の組み合わせが3名おり、その理由として「仕事の契約期間が切れたため、帰郷のタイミングとして考えた」「地元の人との価値観が合わず帰郷したいと考えた」「賃金が低くこのままでは帰郷できなくなると考えた」となっている。次にプル要因(帰還先)と受動的帰還の組み合わせが3名で、その理由として「親が病気(けが)をしてしまい、看病する必要があった」が2名、「結婚し子育てすることになり、親に帰郷を迫られた」となっている。最後にプッシュ要因(沖縄)と受動的帰還の組み合わせが1名で「病気を患い、適切な治療ができる病院がなかった」となっている。また、帰還の際の阻害要因について尋ねたところ、7名全員が特になしと回答した。

4.考察とまとめ

 対象者全員が移住の際はプル要因(沖縄)と能動的移住の組み合わせで移住を決定している。しかし、帰還に関しては、プッシュとプルおよび能動的と受動的の組み合わせに分かれた。沖縄での経済的な理由や、人間関係を理由とする帰還は、自発的な決定に基づくものであるが、出身地の家族関係というプル要因における受動的な帰還は、社会構造的な帰還である。このことは、Walsh(2022)らの指摘や、Uターン研究における「人間(家族)関係」によるもの(蘭, 1994)、「親の面倒を見るため」(江崎ら, 2000)とも同様であり、ライフスタイル移住の帰還においても影響力のある帰還理由として考えらえる。一方プッシュ要因については、4名中3名が能動的、つまり自発的な決定であり、帰還理由もプル要因ほど影響は強くないと考えられる。また、7名中6名は、移住前に沖縄の賃金が低い事は理解していたと回答し、移住後、実際に就業し賃金の低さを体感していた。よって、帰還は逆に賃金の高い大都市部への移住になるため「職」や「収入」に関する不安はあまりないと考えられ、このことから阻害要因については全員がないと答えていると考えられる。以上のことから、ライフスタイル移住者の帰還理由はこれまでのUターン研究とほぼ同様の結果となったものの、阻害要因が確認されなかったことなど特徴も見られた。今後は今回のインタビュー調査にて明らかになった特徴について、定量的な調査を通して検証し、より深く「ライフスタイル移住からの帰還」について検討していくこととする。

本研究は、公益財団法人松下幸之助記念志財団の研究助成を受けたものである。

引用文献

Walsh, K. 2022. Returning lifestyle migrants. In King, R and Kuschminder, K (Eds.), Handbook of Return Migration. pp. 270-282. Cheltenham, UK: Edward Elgar Publishing.

蘭信三 1994. 都市移住者の人口還流――帰村と人口Uターン. 松本通晴・丸木恵祐編『都市移住の社会学』166-198. 世界思想社.

江崎雄治・荒井良雄・川口太郎 2000. 地方圏出身者の還流移動. 人文地理52(2): 190-203.

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