主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
真穴地区の「アルバイター事業」
愛媛県八幡浜市真穴地区は人口1,000人強(2022年11月末)の地区で,全国的に知られる温州ミカン産地である.愛媛県は静岡県や和歌山県と比較して中晩柑類の生産割合が比較的高いが,真穴地区は高い品質とブランド力に支えられ,温州ミカンに特化している.
収穫時期の11月中旬から12月末にかけて,真穴地区では季節労働者を雇用している.かつては近隣地域の稲作農家などから人手を得ていたが,高齢化により人手不足が深刻化した.そこで真穴地区では1994(平成6)年に「アルバイター事業」を開始した.この事業は真穴地区の農家で構成される「真穴みかんの里雇用促進協議会」が実施主体となり,全国から「アルバイター」(この事業ではアルバイターと呼称する)を募集する.真穴地区を管轄する西宇和農業協同組合(JAにしうわ)は,採用窓口となるなど協議会と連携して支援業務を担った.
2016年からは隣接する川上・舌田の2地区でも募集するようになり,以降はさらに周辺地区に広がっていった.2021年度の実績は508名のアルバイターを雇用し,うち304名が真穴地区で雇用された.なお,2020年からはJAにしうわが雇用窓口となる方法から農業求人サイトを活用した各農家による直接雇用に変更した.
真穴地区におけるこの事業の特色は,多数のアルバイターが雇用主の農家に住み込みで収穫作業にあたる点である.2015年にJAにしうわが休校となった小学校を宿泊施設として運用開始するまでは,真穴地区のアルバイターは全てホームステイであった.宿泊施設の定員には限りがあり,現在では農家が空き家を借りシェアハウスとして運用している.
問題意識と研究目的
アルバイター事業は成果を挙げ,周辺地域でも導入されているが,周辺地域において導入が可能になったのには2015年に開設した宿泊施設の影響が大きいと考えられる.農家自身が雇い入れたとはいえ,繁忙期に他人を自宅に宿泊させる農家の心理的負担は小さくないだろう.また現実的に部屋の確保が必要となる.一方で,農家における住み込み労働者の存在は,かつては珍しくなかったと聞くことがある.他所では衰退した農家の自宅受入がなぜ真穴地区のアルバイター事業では行われているか,その経緯について調査を行う.
本報告では,本事業の仕組みを整理するとともに,農家個々のホームステイ導入経緯を整理し,その地域的特徴を考察する.本研究は農業担い手獲得の事例研究ではあるが,その特色を地域文化として捉え検討する試みである.
対象者抽出のための質問紙調査の結果
聞き取り調査対象者を洗い出すため,真穴地区のミカン農家200戸を対象に,2022年3月に質問紙調査を実施した.配付方法は,JAにしうわ真穴事業所が定期的に行う訪問による手交で,回答は郵送・ファックス・インターネットでのフォーム入力を選択できるようにした.回答数は46件(郵送33,ファックス1,フォーム12)であった.このうちアルバイターを雇用したことがあるのは34件である.