日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P037
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発災後を想定した救援活動支援地図の作成に向けて
ハザードマップの後を見越した和歌山県みなべ町における検討
*荒木 一視岡田 ひかり
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抄録

本報告の目的は災害発生前ではなく,災害発生後を想定した避難生活の改善と救援活動の迅速かつ効果的な推進のためのあるべき救援活動支援地図を提案することである。防災に関してハザードマップの果たす役割については論を俟たない。災害発生の危険性についての認識や安全な避難行動においてハザードマップの果たす役割は重要である。しかし,近年の甚大な災害を鑑みるに,災害は避難できれば終わりというわけではない。無論,第一義的には安全に避難することが重要であるが,同時に,住宅が被災し,道路やライフラインが寸断された状況下でどのようにして救援活動や復旧活動が開始されるまでを持ちこたえるのかについては,ハザードマップには描かれない。防災や避難行動においてハザードマップの果たす役割を否定するものではないが,その後の救援活動の実施や避難所や被災した家屋での生活を余儀なくされる状況においては,ハザードマップに代わって,そうした状況に対応すべき情報を集めた地図が必要なのではないか。また,日本の避難所での生活水準の低さが指摘されるように,避難生活や救援活動の効率的な実施は喫緊の課題でもある。このような問題意識から,災害発生前ではなく,災害発生後の避難生活を改善し救援活動を迅速かつ効果的に推進するためのあるべき救援活動支援地図を提案することを試みる。 今般,対象事例とした和歌山県みなべ町は県の中部で紀伊水道に面し,南海トラフ巨大地震の際の津波の到達時間は津波高1mが約11−12分,5mが約15分,10mが役24分とされている。津波によって市街地の多くが2m以上の浸水が予想されている(いずれもみなべ町のハザードマップによる)。人口は12,019人(2022年11月末)で,国内屈指の梅産地でもある。町域の大部分が急峻な紀伊山地で紀伊水道にそそぐ南部川沿いに集落が広がっている。1954(昭和29)年以前は上流から清川村,高城村,上南部村,南部町の4村とこれに西隣る東岩代川と西岩代川の流域に位置する岩代村があり,その後に合併を繰り返して現在に至っている。 救援活動支援地図の作成にあたっては既存のハザードマップの情報は重視しつつも,あらかじめ浸水深など津波被害のリスクを示すといういわば防災の観点ではなく,想定される災害が発生した後に焦点を当てた。住民の居住する家屋と避難所をベースとして想定される被害を重ね合わせるとともに,被災後に公的に設定された避難所や防災拠点とのアクセスは確保できるか,それが遮断された場合の迂回路はあるか,公的拠点を補完する民間拠点がどこにどの程度あり,それらの災害耐性とアクセスはどのようなものか,を地図に描くことを試みた。これをふまえて,被災生活の向上と救援活動の効果的な展開のために優先されるべき道路,優先して啓開されるべき道路を想定することができる。併せて,条件の異なる個々の地区や世帯での最善の手段をシミュレーションできるフローチャートも試作した。これによって地図の効果的な利用がはかれればと考える。 以上を踏まえて提言を行うとすれば,1つには町村レベルの緊急輸送道路を策定することである。通常,利用特性に応じて第1〜3次の緊急輸送道路ネットワークが整備されつつあるが,概ね市町村役場や市町村拠点までのルートであり市町村内のルート設定は十分ではない。被災時の町内の物資輸送の骨格を描くべきである。併せて,ルートが遮断された時の代替路や代替策(救援拠点の見直しや備蓄体制)の見直しや設計も必要である。また,地図の利用者においては自身の居住地における被災後の救援物資へのアクセスを想定したフローチャートの利用なども進めるべきである。

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