日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S104
会議情報

地理学者が考える次期改訂に向けた魅力的な地誌学習のアイディア
*菊地 俊夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1. Z世代からα世代へのニーズの変化  いわゆるZ世代の生徒に対する教育・学習は、情報化社会に適応できる技術や能力を身につけさせるため、コンピュータやプログラミングに精通する人材を育成してきた。地理や地誌の教育においても、データの解析やGISによる地図化、そして画像や映像を利用したバーチャルなデータから地域や世界を学んできた。しかし、α世代の時代になると従来のニーズとは異なり、バーチャルではなく、よりリアリティが求められるようになる。つまり、地誌学習においても現実の地域のリアルな地誌が求められ、リアルな地域とバーチャルな世界との使い分けが進むであろう。

2.新たな地誌の考え方  リアルな地域の地誌を学習することは、身近な地域を調べることであり、それは小学校や中学校の内容でもある。しかし、小学校や中学校は単なる調べ学習で終わってしまうかもしれないが、高校では地誌学習として位置づけて地域を分析し学び、地域を理解することになる。さらに、身近なリアルな地誌はそこから市町村、そして県や地方、さらに国や州・大陸と異なった地域スケールを包摂することにより、地域の関連性や連携性を通じて、地域の性格や構造をさまざまなスケールで理解することもできる。 このような地誌の学習は、「Think Globally, Act Locally.(地球規模で考え、足元から行動しよう)」のグローカルな考え方に通じるもので、リアルな世界とバーチャルな世界を使い分けるだけでなく、それらの世界をつなげる役割を果たすことにもなる。また、このような地誌学習は、静態地誌や動態地誌、および比較地誌の方法を統合して応用することにもなる。

3.リアルな地域の地誌学習 リアルな地域の地誌学習は身近な地域の景観分析からはじまる。景観分析では、景観は地域の諸環境(自然、歴史・文化、社会・経済、生活など)を地表上に投影したものとして捉えることができる。そのため、景観を読み解くことにより、地域の構成要素としての諸環境を地誌的に理解することができる。地域での人びとの日々の生活を写した景観を体系的に読み解くためには、最初に景観のなかに特徴的な現象や興味深い現象を発見し、次に発見した現象を特徴づける自然環境、社会・経済環境、歴史・文化環境などを抽出し、最終的に特徴的な現象と諸環境との相互関係から地域の性格を考える。それは,静態地誌で地域を調べ、動態地誌で地域を考えることになる。

著者関連情報
© 2023 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top