主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
1.はじめに 地球温暖化が顕在化する以前の19世紀後半の気候について、気象庁による観測開始以前の記録を用いた解析が行われている。大久保ほか(2022)では、1878~1886年冬季(12~2月)の灯台気象観測記録(饒村,2002。以下、灯台記録)と1961~2020年の気象庁の月平均気圧から、下関―函館間の気圧差を算出し、冬型気圧配置の強弱を表す指標とした。この指標と月平均気温との関係性を分析した結果、気圧差が正の場合に西日本を中心に低温となる傾向がみられた。この傾向は、灯台記録(1878~1886年)では2月に、1961年以降では12月・1月に明瞭となり、時期に違いがみられた。本研究では、この要因について明らかにするために、冬型気圧配置の強弱およびその継続期間と、低温期間との関係に着目して、旬平均値を用いて同様の解析を行った。
2.使用データと解析方法 灯台記録から、1878~1886年冬季(12~2月)の午前9時の気圧と気温を日別値として使用した。使用地点は、1878年から観測記録が存在する北海道から九州の13地点とした。気象庁データも同様に、1961~2020年冬季の午前9時の海面気圧と気温を日別値として使用し、灯台気象記録の観測地点と近接し且つ長期的な記録が存在する13地点を選定した。
冬型気圧配置の強弱を表す指標として、1961年以降は下関と函館の気圧差(下関―函館)、1878~1886年は部埼と函館の気圧差(部埼―函館)の旬平均値を算出した。気温についても各地点の旬平均値を算出した。冬型気圧配置指標と各地点の気温との関係を分析するために相関係数を算出し、冬型気圧配置と冬季の気温との関係及びその地域性を考察した。
3.結果と考察 1878~1886年は、各地点の気温と冬型気圧配置指標との相関係数は2月に最も大きく、全地点で負相関となった。東日本・西日本で相関係数が高く、特に伊王島の2月の気温との間に最も高い負の相関(約-0.6)がみられた。図1左をみると、1878年1月~1879年2月上旬と、1882年12月~1886年2月に冬型気圧配置指標が正の値(部埼の気圧が高い)を示す期間が連続している。
この時期の気温をみると、1882年冬季~1885年冬季はそれ以前と比較して、12月下旬頃~2月下旬にかけて気温が低くなっている(図1右)。1884~1886年の2月上旬~中旬はその前後よりも特に気温が低くなっている。一方、1881年2月と1881年冬季は負の値(函館の気圧が高い)をとることが多かった。この時期の気温を見ると、1881年12月上旬~1882年2月中旬は、後の時期と比べて気温が高い傾向にある。
1961~2020年は、冬型気圧配置指標が冬季を通して正の値(下関の気圧が高い)をとる傾向にあった(図略)。伊王島の近くに位置する長崎では、12月下旬~2月中旬に気温が低くなる傾向がみられた(図略)。この傾向は冬型気圧配置が強まった影響であると考えられる。対して、1990年2月や1998年2月下旬のように、気圧差が小さい時期や負の時期には、他の時期よりも高温となる傾向があった。これは冬型気圧配置が弱まるもしくは不明瞭であったことが影響している可能性がある。
1884~1886年は冬型気圧配置が冬季を通してそれ以前より強く、2月上旬~中旬に特に低温となったことが示唆される。また、1986年以降には、冬季の気温が1月中旬~2月上旬頃に最も低くなる傾向がみられた。