日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 341
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大阪市中央区南部のエスニック・ビジネスの集積要因
中国系店舗の事例に着目して
*王 龍飛千川 はるか朱 澤川銭 胤杉
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抄録

Ⅰ はじめに

現在,日本に滞在する外国人の増加に伴い,それぞれのエスニック・グループが独自のエスニック・ビジネスを展開している。出入国在留管理庁のデータによると,とくに中国人が増加していることがわかる。山下(2010)は中国の農村には強固な地縁・血縁社会が残っており,親族の中の一人が海外に出稼ぎや留学に行き,ビジネスに成功すると、それを頼って郷里から人々が集まるようになり、異国の地に同郷グループが形成されていくと述べている。 大阪においても,このような強い繋がりをもつ中国人グループが存在すると予想される。とくに中国系の店舗は,同胞向けにビジネスを展開し,宣伝方法の利活用も変化させている。本研究では,大阪「ミナミ」周辺におけるエスニック・ビジネスに着目し,その集積状況を把握し,集積の背景を検討した上で,同胞向けビジネスの新動向として,新たな宣伝方法のあり方についても言及する。

Ⅱ 対象地域の概要

大阪中央区南部(以下、ミナミ)は近年エスニック系店舗の増加・集積が顕著な地域であり,外国人向けに観光地化されたエスニック・タウンとは異なり,主に同胞向けにビジネスを行っている。出入国在留管理庁のデータによると,2022年6月末時点で大阪市の24区では,在留中国人が最も多い区は浪速区で,次いで中央区となっている。2018年以降は,中央区の在留中国人の数の伸び率は浪速区よりも高くなっている。中央区における在留中国人の数が浪速区を抜いて1位になるのは時間の問題だと思われる。 このようにエスニック・ビジネスの集積が進むミナミだが,その実態は粉河(2017)による報告があるのみで,それからわずか5年で大きく変化している。本研究では,そうした変化にも注目しつつ,特に成長著しい中国系ビジネスを取り上げる。

Ⅲ 結果と考察

現地での観察調査とGoogle Mapおよびインターネット情報から,ミナミには270軒のエスニック系店舗が確認され,そのうちの6割を中国系店舗が占めていることが分かる。アンケートおよび聞き取り調査により,これまでのところ合計21軒から情報を得ることができている。 対象地域では,もともと韓国系の飲食店が多く立地していたが,2017年ごろから中国からのインバウンド需要が急増したことで,空き店舗には,中国人経営による観光客向け免税店が多く入居するようになった。2020年からのコロナ禍によって,訪日観光客は激減したが,中国人による日本製品への需要は衰えず,インターネットで注文した日本の商品を中国へ発送するための国際物流店が増加した。一方,飲食店は大阪に居住する同胞向けのものが多く,コロナで影響を受けながらも店舗を維持している。このように,コロナ禍を挟んだ時期でも中国系店舗数は増加・維持されながら,その業種・業態の変化が見られることが分かった。 ミナミおける中国系店舗の集積については,2つの要因が考えられる。1つは,中国系不動産や富裕層が同地域に多くの土地や建物を保持しているという点である。2点目として,この地域周辺には日本語学校などの教育機関や企業が集積しており,定住中国人も多く,難波や心斎橋といった一大観光地にも隣接していることから,定住者と観光客の双方をターゲットとしたビジネスを展開できる場所であるといえる。 集積の手段や顧客の誘致については,SNSが発揮した効果が大きいと考えられる。聞き取りをした21軒の店舗のすべてが中国系SNSのWeChatを利用して店のメニューやキャンペーンを宣伝している。また,やはり中国SNSである小紅書(RED)を利用して宣伝している店は12軒,抖音(TikTokの中国版)の利用は4軒あった。これらは決済機能もついており,宣伝だけでなく商品売買にも利用される。今後も複数の中国系SNSを利用したビジネス拡大の動きは容易に予想できる。

参考文献

粉川春幸 2017. 大阪市中央区南部における複数のエスニック集団によるエスニック・ビジネスの実態.人文地理69(4): 447-466.

山下清海 2010. 『池袋チャイナタウン 都内最大の新華僑街の実像に迫る』株式会社洋泉社出版.

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