近年,日本全国で空き家が増加し続けている。こうした背景を受けて,2015年5月から「空家等対策の推進に関する特別措置法」が全面施行され,空き家の分布状況の把握が自治体の努力義務として定められた。しかしその効率的(迅速・安価・継続的)な手法は確立されておらず,自治体にとって大きな負担となっている。そこで,著者らはこれまでに自治体保有のデータや,ドローンを活用して空き家の空間分布を把握する研究を進めてきた。同様に,空き家の現状の空間分布を把握しようとする研究は他にも数多く行われている。一方,空き家の将来分布の予測結果は,著者らによる国・自治体へのヒアリングの結果からも需要が高いことは分かっているが,現時点でその手法はほとんど確立されていない。そこで本研究では日本全国を同一の集計単位で時系列的にカバーする統計情報である国勢調査と住宅・土地統計調査を用いて,日本全国に適用可能な将来の空き家分布予測手法を検討する。 本研究では国勢調査から得られる市区町村ごとの様々な情報を説明変数とし,住宅・土地統計調査の市区町村ごとの空き家数のうち,自治体での対応が必要になることが予想される「その他の住宅」の数を住宅総数で除した「空き家率」を目的変数とすることで,日本全国の市区町村の8年後の空き家率の予測を行う手法を開発した。予測手法は,ある国勢調査の年から,8年後の空き家率を機械学習モデル(LightGBMを用いた回帰予測モデル)で予測し,別の年の国勢調査を作成済みのモデルに外挿して8年後の空き家率を推定するというものである。 予測モデルの精度を検証したところ,予測精度は最大で決定係数0.8147,二乗平均平方根誤差0.0173であった。また,外挿精度は最大で決定係数0.7456,二乗平均平方根誤差0.0210であった。予測精度,外挿精度ともに高いことから,汎用性に優れたモデルが構築できたといえる。一方,過去のデータほど予測精度が低下しているが,これは平成の大合併に伴う市区町村の統廃合が影響しているものと考えられる。今後,平成の大合併を考慮したモデルに発展させることで,更に精度が高いモデルを構築できるものと考えられる。 今後は政府統計ミクロデータを用いて,小地域単位で将来の空き家率や空き家数を予測する技術を開発する。また,本研究で得られた結果を関連する研究者だけでなく,国・地方自治体においてGISに不慣れな担当者でも利活用ができるように,直感的な操作で閲覧・利用ができるWebアプリケーションの開発も進めている。同アプリのプロトタイプは,ポスター発表において紹介する予定である。