日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P027
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松本市四賀地区・奈川地区における地域住民の獣害に対する意識と対策への関わり
*橋本 操佐々木 悠理原田 康多山下 亜紀郎
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抄録

1 研究の背景と目的  

 近年,市街地や集落に野生動物の出没が増加し,獣害が問題になっている。獣害対策は,地域住民による理解や協力が重要であるが,様々な意見をもつ地域住民の獣害対策に対する意識の統一や合意形成は難しく課題となっている(鈴木2009)。同じ地区であっても集落によって人口や農業,獣害の状況,獣害対策の担い手の有無などが異なっており,地域住民の野生動物に対する認識や獣害対策に対する意識の相違,これらと実際の獣害対策の取組との関連についてはより一層の研究の蓄積が求められている。

 以上を踏まえ,本研究では,松本市四賀地区,奈川地区を対象に地域住民に対しアンケート調査を実施し,地域住民の獣害に対する意識と獣害対策への関わりについて明らかにした。

2 研究方法

 2022年5月22日~28日に,松本市四賀地区,奈川地区からそれぞれ①広域防護柵を設置し,駆除も実施している町会(殿野入町会,黒川渡・古宿町会),②広域防護柵は設置していないが,駆除を実施している町会(横川町会,神谷町会),③広域防護柵の設置も駆除も実施できていない町会(穴沢町会,川浦町会)を選定し,各世帯を対象に,地域住民の野生動物や獣害に対する意識と取組への参加意欲に関するアンケート調査票を配布し,郵送で回収した。

3 結果・考察

 本研究の結果,大きく以下の2点が明らかになった。1つ目は,野生動物の分布状況とそれによる被害状況によって,松本市の東西で野生動物に対する認識が異なっていることである。東側の四賀地区では,各町会で山にも里にも出るのは仕方がないという,野生動物の出没を許容する認識も存在していた。これは,奈川地区に比べ,獣害対策に積極的に関わろうとする意識が強く,獣害対策に関わることで野生動物に対する認識にも負の感情だけではない「哀れみ」や,獣害対策をしても被害が生じてしまうことに対する「諦め」といった複雑な感情が芽生えていることが考えられた。一方,西側の奈川地区では,各町会で野生動物に対する認識が異なっている傾向があった。これは,クマが出没していることやサルの被害が多いことから,シカによる被害が主の四賀地区に比べ野生動物に対する恐怖心や怒りといった負の感情が強いこと,町会によっては居住世帯や人口が減り獣害も多いことから,家庭菜園さえもやめたため,対策を積極的に実施しなくても済み,野生動物に対する興味関心が薄くなっていることが考えられた。

 2つ目は,今後の獣害対策への意識についても松本市の東西で異なっていることである。四賀地区では,全体的に獣害対策に比較的積極的であると言える。一方,奈川地区においては,③の町会では個人での獣害対策を実施することが難しく,限界を感じており,地域住民で協力して何かしらの対策を実施したい,という地域住民の要望が現れていることが考えられた。しかしながら,町会として今後獣害対策を実施するのは難しいことから,四賀地区のように町会間での連携体制の強化や,地域の実情に合わせた無理のない獣害対策の確立が必要である。

文献

鈴木克哉2009.第11章獣害と地域住民の被害認識.河合雅雄・林良博編著『動物たちの反乱―増えすぎるシカ,人里へ出るクマ―』255‐277.PHP研究所.

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