常磐地域南部(茨城県北東部)の沿岸にはMIS9~2の海成および河成段丘がよく発達している.本地域ではこれまで主にテフロクロノロジーに基づく地形学的な研究が数多く行われてきた.一方,最終間氷期の段丘構成層である砂礫層は明瞭な堆積構造を呈するものの,堆積相に関する報告は乏しい状況にあった.本地域を含めた常磐海岸沿いの堆積環境の推定は,東北日本太平洋側における中~長期的な地殻変動や首都圏の地下構造の理解を深めるための基礎情報となりうる. 本研究では,段丘構成層の堆積相解析をもとに,常磐地域南部における最終間氷期の堆積環境について検討した.
阿武隈山地と太平洋とに挟まれた低地帯には,3段の海成段丘(高位面,田尻浜I面,田尻浜II面)およびそれを被覆あるいは侵食するかたちで2段の河成段丘(桜川I面,桜川II面)が分布している. 本研究では田尻浜II面の露出する茨城県日立市大みか町の海食崖で堆積相を記載し,粒度分析と粒度別岩種組成を調べた.
露頭では,全体的に下位から上位にかけて下部外浜~前浜の堆積環境を示す堆積相が観察された.基盤岩の直上には,基盤岩由来の角~亜角状で大~巨礫サイズのブロックと,よく円磨された中~大礫が混在した層厚1~2 m程度の礫層が堆積していた.そのさらに上位には層厚約1.3mの癒着型ハンモック状斜交層理(HCS)が確認され,比較的浅海的な環境が窺える.癒着型HCSより上位では細粒砂層と細~中礫主体の礫層がそれぞれトラフ型斜交層理を呈し,互層をなしていた.礫層を構成する岩種はチャートが最も多く,他には花崗岩類,片岩,砂岩や泥岩,火山岩類が含まれる.常磐海岸沿いの低地帯を流れる河川は阿武隈高地を後背地にもつ小規模なものが多い.礫の後背地の推定を含めた最終間氷期における古地理の理解のためには,周辺に分布する最終間氷期構成層中の礫層との連続的な対比が今後重要となる.