1. 背景・目的
タフォニ (tafoni)は,岩石表面にできる窪みで,一般に海水飛沫が付着する環境 (海水飛沫帯)でよく発達する微地形である.これまで,タフォニの深さで代表されるその成長速度は,等速ではなく時間の経過とともに,徐々に減速していること (Matsukura and Matsuoka, 1991)や,窪みの成長は,日射による乾燥と海水飛沫の供給量のバランスで制約された塩類風化と,波浪による摩耗侵食によること (高橋ほか, 1993),窪みの成長に岩石強度と岩石表層の水分量が関係していること (青木・松倉, 2005)などが報告されているが,未だ形成要因は明らかになっていない.本研究では,窪みの大きさや,形成場が異なるタフォニを対象とし,簡易で多数の計測が可能な計測法を用いることにより,タフォニの形態的特徴と形成場の環境の関係について明らかにした.
2. 調査地域
本研究では,青森県西津軽郡深浦町の北端部に位置する千畳敷を調査地域とした.ここは幅約350 m,標高0.5 m~3.0 mの波食棚からなる.この波食棚は,1793年に西津軽地震 (鯵ヶ沢地震,大戸瀬地震)で隆起・離水したと言われている (八木・吉川, 1988).地質は緑色凝灰岩 (グリーンタフ)である.海岸には数メートルオーダーの縦横方向の節理が発達し,岩石表面には径・深さ数 mm~数10 cmのタフォニが分布する.
深浦検潮所の潮位記録によると,千畳敷海岸の平均潮位 (Mean Sea Level: MSL)は,28.9 cmで,大潮の平均満潮面 (46.9 cm; High Sea Level: HSL)と平均干潮面 (10.9 cm; Low Sea Level: LSL)は,MSLから約18 cmずつ上下に位置する.気象庁深浦観測所の1991年~2020年の30年間の記録によると,この地域の年平均気温は10.9[ws1] ℃で,冬季の最低気温は,−2.4 ℃ (1月),最高気温は27.1 ℃ (8月)である[ws2] [佐藤3] [佐藤4] .相対湿度は夏季に高く冬季に低い値をとり,その差は10%程度である.年間平均降水量は1386.7 mmで,月平均降水量は8月~10月にかけて160 mm以上と多く,2月~4月は100 mm以下と少ない.
3. 方法
タフォニの大きさ (長径,深さ)と個数は,Structure from Motion (以下,SfM)写真測量により作成した3次元モデルを計算機端末上で計測した.SfM写真測量用の写真撮影機器はGPS受信機を搭載したデジタルカメラ (Nikon COOLPIX AとNikon GPSユニットGP-1A)で,3次元モデルの作成はAgisoft社 Metashape Professionalで行った.写真撮影は,50 × 50 cmの正方形の枠を設置して実施した.撮影場所は,無作為に決定し,計78地点で行った.また,撮影地点の岩体面方位,岩体面傾斜角度は,方位磁針と角度計を用いて現地で測定した.
一方で,無人航空機で撮影した空撮画像から,タフォニの際と同様にSfM写真測量を行った.作成したオルソ画像と数値表層モデル (Digital Surface Model: DSM) から,タフォニの計測地点の汀線からの距離,標高をArcGIS Proを用いて計測した.また,現地で測定したタフォニ撮影地点の岩体方位面,岩体傾斜角度をNEDO年間月別日射量データベース (MONSOLA-20)に入力し,年間平均日積算日射量を推定した.
4. 結果および考察
タフォニの長径と深さは,高い決定係数を持つ比例の関係であった.タフォニの大きさや個数と,汀線からの距離や岩体傾斜角度にも相関が見られた.一方で,タフォニの大きさや個数と,標高や推定年間平均日射量の間に相関は見られなかった.本学会発表では,78地点のタフォニ計測地点のうち,タフォニの計測が完了した35地点分のデータの結果と形成場の関係について発表する.
【引用文献】
青木久 2005. 海水飛沫帯における橋脚砂岩塊のくぼみ深さに関する定量的把握 日南海 岸・青島弥生橋の事例. 地形 第26巻第1号: 13-28.
高橋健一・松倉公憲・鈴木隆介 1993. 海水飛沫帯における砂岩の侵蝕速度-日南海岸・青 島の弥生橋橋脚の侵蝕形状-. 地形 第14巻第2号: 143-164.
八木浩司・吉川契子 1988. 西津軽沿岸の完新世海成段丘と地殻変動. 東北地理 Vol. 40: 274-257.
Matsukura, Y. and Matsuoka, N. 1991. Rates of tafoni weathering on uplifted shore platforms in Nojima-zaki, Boso Peninsula, Japan. Earth Surface Processes and Landforms