日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 512
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地方企業によるテレワークを活用した人材獲得の動向
*佐竹 泰和
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抄録

1.はじめに

 テレワークの普及により,大都市圏と地方との関係に変化がみられる。

 2022年6月に閣議決定された「デジタル田園都市国家構想基本方針」では,大都市圏人材が大都市での雇用を維持しつつ,テレワークにより地方で働く「転職なき移住」について言及している。さらには,移住者が地方に定着して起業したり地方企業の経営に参画したりするなどして,大都市圏で培ったスキルを地方に移転する知の流れが生み出されることなどの波及効果も期待されている。

 他方,大都市圏と地方の関係をみると,人の流れだけでなくテレワークを活用した直接的な知の流れを求める動きもある。具体的には,大都市圏に住み高度な専門スキルを有する人材と,そのような専門スキルを求める地方企業のマッチングを図るプラットフォーム,いわゆる「地方貢献型」副業人材のマッチングサイトの展開である。転職なき移住との違いは,大都市圏人材が地方に移住することなく,地方企業とかかわることである。

 このような取り組みは,移住者の獲得に困難な地域においても地方企業の価値創造を高める可能性をもつと考えられる。以上を踏まえ,本報告では,求人サイトの分析を通じて,地方企業によるテレワークを活用した人材獲得の動向を明らかにする。

2.調査手法

 近年,地方企業と大都市圏人材を副業・兼業の働き方でマッチングするプラットフォームが展開されている。本報告では,その中でも地方自治体との連携を強く進め,地方の求人を多く掲載しているM社のプラットフォームを取り上げる。

 対象とするプラットフォームは,2017年にサービスを開始して以来,2023年1月現在で延べ1535件の求人を掲載してきた。求人情報には,募集するスキル,求人企業名,その業種,その企業が抱えている経営課題,副業の形態などが掲載されている。これらの情報に各企業のウェブサイトから得た情報を加えてデータベースを作成した。

3.結果と考察

 データ集計の結果,以下が明らかになった。募集人材に求めるスキルには,求人の多い順に「マーケティング」(24.0%),「販売促進」(11.8%),「人事・組織開発」(9.2%),「広報・PR」(9.1%),「経営企画」(8.7%),「営業企画」(8.5%),「新規事業企画」(7.8%)などがある。都道府県別で求人数が多い鳥取県(103件)に限定してその特徴を見てみると,最も多い募集スキルが「マーケティング」(36.9%),次いで多いものが「経営企画」(13.6%)であった。全国と比較して,製造業や商業に該当する企業による求人が多いことから,その製造品や商品の展開のためにマーケティングの専門性を有する人材を求めているのだと考えられる。

 また,テレワークを含む勤務形態については,月1回程度のものから週1~2回程度のビデオ会議,あるいは必要応じてチャットやメールによる相談など多様であった。しかし,テレワークだけでなく,定期的に対面接触を希望する企業も多い。

 必ずしもテレワーク勤務だけで業務は完結していなかったが,これは地方の実態を知ってほしい企業側と,地方に興味のある副業者双方にとって決してデメリットにはならず,移住せずとも定期的に地方にかかわりを持てる場を提供するものといえる。

4.まとめ

 地方企業が全国的に競争力を有するためには,企業の持つ価値の活かし方,すなわち「マーケティング」や,あるいは価値そのものの創造として「新規事業企画」などが必要になる。このような実務に接する機会が少なく高度な専門スキルを有する人材の乏しい地方の現状を踏まえると,副業やテレワークを組み合わせた働き方は,地方企業の経営や人材獲得の在り方に変化をもたらす可能性があると考えられる。

 なお,本調査は求人内容に焦点を当てているため,大都市圏人材とのつながりまでは把握できていない。そのため,企業への調査を通じて,地方企業と大都市圏人材との関係について検討する必要がある。

本研究はJSPS科研費 JP20K13270の補助を受け実施した。

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