日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P036
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大規模広域災害発生時の救援活動拠点・避難所配置からみた救援システムの検討
*熊谷 美香
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抄録

I. 研究の背景・目的

災害発生時の迅速かつ円滑な被災者への物資支援を実現するため,国・都道府県・市町村の間で「物資調達・輸送調整等支援システム」の運用が2020年度より開始された.一方で,現状での避難所や中央防災会議が示す防災拠点の配置には課題があることが指摘され1-3),物資集積拠点から避難先への物資輸送は市町村の担当者が地元で持っている知識や経験に依存して展開せざるをえない実態がある.危機管理や有事の対応において,平時の状況がどのようなものであったか,平時にはどのような前提でさまざまな仕組みが機能していたかを把握しておくことは重要である.特に,大規模災害が発生した場合の被害状況把握が難しい状況下では,プッシュ型支援として迅速な初動対応が求められる.以上をふまえ,本研究では救援活動拠点および避難所をノード,それらをつなぐ道路網をリンクとした救援システムとして捉え,これを定量的な観点から検討した.

Ⅱ. 方法

研究対象地域は南海トラフ地震による大きな被害が想定される和歌山県とした.和歌山県広域受援計画(2021)に基づき,救援活動拠点は広域物資輸送拠点,民間物資拠点,市町村物資拠点とした.避難所は災害対策基本法で定められた指定避難所だけでなく,和歌山県総務部危機管理局防災企画課がウェブサイト4)で公開している避難場所及び避難所情報一覧(県内全域)のうち,避難種別に「避難所」と記載されているものを含めて避難所とした.

まず,平時の状況として,各救援活動拠点から最寄りの避難所の機能(指定区分,避難種別,収容人数)を検討するため,(1)救援活動拠点と避難所のマッピング,(2)ArcGIS Geo Suite 道路網(ESRIジャパン(株))を用いたネットワーク解析により移動距離に基づく最寄りのリンクを析出した.次に,災害発生時の被害予測に基づく特定条件下におけるネットワーク解析を行い,平時の状況と比較した.なお,解析にはArcMap10.8.1を用いた.

Ⅲ. 結果・考察

研究対象とした避難所(n=1,856)のうち,災害区分「地震」と記載がある避難所は1,155カ所であった.市町村物資拠点(n=85)から最寄り避難所を解析した結果,各拠点にリンクされた避難所数はmin:0~max:92であった.この92カ所の避難所の合計収容人数は162,485名となり,最寄りとされた拠点はこの規模の被災者対応を想定することとなる.なお,この92カ所は全てが指定避難所であり,うち91カ所は備蓄品ありの状況であった.同様の検討を和歌山県全域で行った結果,特に災害発生時の特定条件下でのシミュレーションでは一部の拠点に想定救援需要が偏るなどの課題が示された.

救援活動拠点は被災地域外からの救援物資や人員を効率的に受け入れ,被災地域における避難所や被災家屋へと円滑に配分するが求められる.そのためにも救援活動拠点は適切な配置だけでなく,被災地や被災者の状況に応じた物資や人員の運用が可能でなければならない.救援システムとして検討するうえで,今後は各拠点や避難所の代替となり得るその他の民間施設の立地も考慮し,自然条件も含め地域特性を反映させた災害対応のあり方を議論する必要がある.

文献

1)荒木一視・岩間信之・楮原京子・熊谷美香・田中耕市・中村 努・松多信尚 2017.『救援物資輸送の地理学 被災地へのルートを確保せよ』ナカニシヤ出版.

2)荒木一視 2020. 災害時の救援活動拠点の配置に関する一考察:和歌山県日高郡の役場,学校,寺院. 2020年度日本地理学会秋季学術大会発表要旨集.

3)荒木一視 2022. 救援活動拠点の配置と地理学研究―和歌山県日高郡を例として―.E-journal GEO 17(1): 23-45.

4)和歌山県https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/011400/hinannsaki.html

謝辞 本研究はJSPS科研費JP22H00765の助成を受けたものです。

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