日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 114
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黒潮続流域の海面水温分布に対する地形性収束線の応答
*鈴木 信康日下 博幸
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抄録

寒候期の日本列島の海上で見られる積雲列は、地形の力 学擾乱と海上での熱的不安定によって形成される。近年、黒潮続流域周辺で地上風収束の強化と降水量の増加をもたらすことが報告されており、南岸低気圧や前線に対する応答が見られることが分かっている。しかし収束線のようなメソスケー ル現象における黒潮続流域の海面水温分布の効果については研究例がなく、この地域で発生する収束線の地上風収束や降水量に影響をもたらすのかは不明である。本研究は、黒潮続流域のSST分布が、房総半島周辺で発生する収束線の水平収束にどの程度寄与しているのか明らかにする。

 本研究では、典型事例に2015年2月12日から13日に房総半島沖に出現した収束線を選び、数値実験を行った。数値実験にはWeather Research and Forecasting V4.2.2(WRF)を用いた。水平解像度は2 km、計算期間は2月12日12:00UTCから13日12:00UTCである。大気の初期値・境界値にはERA5再解析データ、SSTにはU.K. Met Office作成のOperational Sea Surface Temperature and Sea Ice Analysisの再処理データを使用した。再現実験(CTRL)には初期時刻のSSTデータを与えた実験を行った。さらに、続流域のSST温度分布の影響を調べるために,Hirata et al. (2016)を参考に図1の緑枠内の低温偏差を除いた感度実験(WARM)と、低温偏差を2倍にした感度実験(COOL)を行った。

 WRFの再現実験は、収束線に伴う太い積雲列を再現した.具体的には、相模湾からから房総半島をまたがって幅50 ~ 100 kmの帯状の雲分布が形成された。また、地上風収束は5.0 × 10-4 s-1以上の強い収束域が線上構造で見られ、強いところでは10 × 10-4s-1を越える収束も確認できた。強い収束が確認された時間(13日06:00UTC)の再現実験と2つの感度実験を比較すると、低温偏差域を除去した実験では相模湾から房総半島沖合にかけて2 × 10-4 s-1前後の収束の減少が見られた。また、低温偏差を2倍にした実験では、再現実験より更に収束が強化されていることから、黒潮続流域の温度勾配に対応して大気下層の収束が増減することが確認された。地上風を見ると(図略)、WARM実験と比べCOOL実験は収束線の北側から黒潮続流域にかけての領域で風速が大きくなっており、それに伴う潜熱/顕熱の供給が増加していることからSST温度勾配による静水圧効果がもたらされていることが示唆される。

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