日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 516
会議情報

ウクライナ侵攻後のロシア向け中古車輸出の変化と背景
*岡本 勝規
著者情報
会議録・要旨集 フリー
電子付録

詳細
抄録

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、ロシアへ「西側諸国」を中心とした経済制裁が加えられたことにより、対露中古車輸出をめぐる環境は大きく変化した。これによる物流への影響について、本報告においては特に仕出港に見られる差異を考察し、その背景を明らかにしようとするものである。  

 対露中古車輸出台数は6月以降、前年度実績を上回って増加している。ロシアの一部金融機関に対するSwift排除により、決済に障害が生じたため一時的に輸出が停止したものの、決済の問題は早期に解決された。2022年輸出実績は、「2008年の金融危機」より後で最大となる見込みである。また、2022年の単価は過去最高となっている。

 輸出増をもたらした原因は次の様に整理できるだろう。   

  1.ロシア国内の新車供給制約

  2.円安・ルーブル高

  3.日本産中古車の固定資産としての価値

 その一方で、日本側各港からの輸出台数変化は、日本海側港湾と太平洋側港湾との間で大きな差異が見られた。日本海側港湾では3~4月から増加に転じた(特に伏木富山港)のに対し、太平洋側港湾では3月に輸出台数が激減し、6~7月まで輸出が停止した状態が続いたのである。

 このような変化が生じた要因として考えられる背景は、  

  1.日本海側港湾での増加について

   ・業者集積の”残存”(立地の慣性)

   ・航路維持可能なオペレーター(と結びついた代理店)

   ・太平洋側からの転送

  2.太平洋側港湾での減少について

   ・付保の滞りによる配船リスク

   ・レピュテーションリスク

などである。

 中古自動車部品輸出についても注目すべき点がある。これまで貿易統計上、自動車部品(自動車の部分品)は新品と中古の区別がつかず、中古輸出の規模を正確に掴むことは難しかった。しかし日本からの対露新造部品供給が停止した現在、統計上現れる数値は基本的に中古と判断でき、中古部品輸出の規模が把握可能な状態となっている。

 今後に関して言えば、伏木富山港では貨物集中によりヤード不足、配船不足が生じ、船積み待ちが深刻となっている。これを緩和するため、七尾港、直江津港などへの貨物分散も生じている。一方で、太平洋側港湾からの輸出も現在はほぼ旧に復している。ロシア側の需要は旺盛であるが、ロシア側港湾の港湾物流が逼迫しており、価格等で好条件が生じてもこれ以上の輸出増は難しいと思われる。

著者関連情報
© 2023 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top