日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P026
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砺波市における都市機能の分散と田園地帯における都市機能の特性
*山本 沙野香村田 華子山本 充
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抄録

現代においては,都市の中心部とその周辺が有していた都市機能の一部や多くが、郊外、そして農村地帯へと移転し、より広域の中で個々の領域が,それぞれ都市機能を分担しつつ、都市圏・生活圏が機能し成立しているようにみえる。それは大都市圏のみならず,地方都市についても同様である.  富山県西部の砺波平野においては,出町(砺波),福野,福光などの小中心地が存在し,集住地区を形成するとともに,周辺の散村地帯へ財やサービスを提供してきた.これら小中心地から郊外,加えて田園地帯における住宅の立地,業務機能,商業・サービス機能の進出が継続的に進展してきた. ここでは,砺波市(旧庄川町を除く)を取り上げ,市中心地(出町)における都市機能の郊外や田園地帯への分散状況を把握した上で,こうした状況の中で,都市圏全体の中で,田園地帯がどのような機能の立地をみているのか明らかにする. 砺波市域を,500mメッシュを基準として,市街地の「中心」,それに隣接する「郊外」,その外側の「田園」に分類し,それぞれの地帯における都市機能の増減を把握する.国勢調査により2000年から2020年の人口変化を,RESASの「事業立地動向」を参照しつつ,2011年から2021年の業種別事業所数の変化を中心,郊外,田園ごとに集計した. 人口の動向をみると.この間,郊外において人口が増加しており,中心や田園においては停滞傾向にある.2020年における人口のシェアは,中心1割弱,郊外3割,田園6割強であり,田園は,密度は低いものの,多くの人口を抱える.郊外における戸建ての宅地開発と田園における団地造成が人口の受け皿となってきた.こうした住宅地では,バスなどの公共交通の利用はほぼ不可能であり,移動は自家用車の利用を前提とする. 販売・卸は,郊外に最も多く立地し,次いで中心部,田園と続く.大型ショッピング・センターとその周辺における商業施設の立地により,郊外における商業集積が顕著である.一方,田園地帯においては,主として,生活に密着した食料品店,コンビニの立地がみられる. 金融・保険などの業務機能は中心に維持されているものの,市役所などをはじめとした行政機関と他の民間会社など,郊外の幹線道路沿いへの立地もみられる. 飲食店についてみると,中心,郊外双方とも,減少傾向にあったが,中心においては,スナック・バー・居酒屋が依然としてJR砺波駅前に集積している.郊外においては,ファミリー・レストランや専門飲食店など家族向けの飲食店の立地がみられ,田園においては,数は少ないものの,古民家を改修したり,地産地消をうたったり,個性的な飲食店がみられる.  第2次産業は,田園を主たる立地場所としており,製造業は継続的に全体の約6割を占めている.田園においては,中でも,食品,金属製品,化学・ゴム・プラスチック,工作機械器具・一般機械器具と多様な部門がみられ,田園が農産物だけではなく,工業製品を生産する場所となり,雇用も提供している.田園はまた,建設業の主たる立地場所ともなっている.  郊外において駐車場を有する戸建て住宅地が出現し,大都市郊外における典型的な住宅地と類似の景観が生み出されている.田園地区においても,圃場整備による区画を転用した住宅団地の建設が進み,現在,停滞傾向にあるものの田園の外からの居住が進展した.一方,田園における既存の農家家屋は,兼業農家,土地持ち非農家として,非農業部門における雇用に依存しつつ,住居として,改築を伴いつつ利用が継続されている.田園地帯では,農村景観が維持されつつも都市的就業に就いている層の居住空間となっている.  田園における製造業の立地は,砺波市内外から田園への通勤流動をもたらしている.2015年国勢調査によると,砺波市から高岡市への通勤者は3694人,砺波市から富山市へは1745人であるのに対し,砺波市へは,高岡市から3534人,富山市から907人の通勤者をみている.富山県における,より上位の都市からの通勤流動がかなりあり,田園が雇用の面で,都市の一部として機能しているとみることができる.  砺波市の郊外2店,田園4店の飲食店において,店主への聞き取り調査を行った結果,経営者にはUターンやIターン者が多くみられた.新規出店にあたり,既存の市街地ではなく田園地帯が選択されているといえる.中には,砺波の伝統的家屋であるアズマダチを改修して店舗としている例もある。

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