1.はじめに 御嶽山2014年の噴火では,死者・行方不明者数が63名であった.火山の地元の木曽町は,御嶽山防災力強化計画に基づいて,犠牲者の多かった剣ヶ峰にシェルターを設置した.また登山道には,防災行政無線を3か所に整備した.木曽町は,御嶽山のハード対策が進んだことから,シェルターの認知度を図るために2022年登山者参加型の避難訓練を実施した.我々は避難訓練に合わせて,アンケートに基づき避難訓練中の登山者の避難行動と対策の課題を明らかにすることを目的に,アンケート調査を実施した. 2.避難訓練とアンケートの手法 避難訓練は, 2014年の時とほぼ同じく,頂上剣ヶ峰の南西側に位置した地獄谷火口から水蒸気噴火が突発的に発生したことを想定して,火山の地元の木曽町が実施した.訓練対象範囲は,黒沢ルート登山道とした. 2022年9月17日午後12時10分に,マニュアルに従って,御嶽山域3か所に設置した防災行政無線でサイレンをならし,噴火発生と避難を呼びかけた.登山者には,避難訓練の当日の午前中,黒沢ルートの登山口となる中の湯駐車場と御嶽ロープウェイ駅の2か所で指示書を配布した. 指示書には,事故防止を謳った上で,①~⑤の5つ行動指示を記した.以下,①から⑤の順に,①頭部・背中を守る,②避難施設を探す,③シェルターと山小屋があったら歩いて避難,④避難施設がなければ,その場にとどまる,⑤訓練終了後に位置を確認し,噴火した時,自分が何できるのか考える. 3.アンケートの問い アンケートの問いは, 以下の7つのカテゴリー①〜⑦に分類される.①から順に,①属性,②経験,③知識,④位置,⑤認知,⑥行動,⑦考えである.本発表では,①に関して居住地と年齢,②に関して登山回数,④に関して防災無線を聞いた時の居場所,⑤に関して避難場所が視認度と防災無線の聞こえ具合,⑥に関して避難した場所および実際にとった避難行動の関係性を分析した. 4.結果 アンケートの回答者数は347人であり,指示書等の配布者数約640人に基づくと回答率は約54.2%と推定される.回答者の年齢から,現役世代(22〜59歳)の登山者が多く,全体の82.1%である.60歳以上の高齢者は17.0%の割合である.居住地は,愛知県(21.0%),長野県(18.4%),東京都(8.6%)であった. 登山中における自分の位置の認識度は90.8%であり,分からなかったと答えた登山者はたったの6.3%であった.位置の認識度が低い登山者の属性は,はじめて訪れる人と高齢者である. 登山者は8~9合目と9〜10合目の登山道にそれぞれ20.2%および19.3%いて,広い登山道に最も多くいることと,次いで山頂と山小屋には滞留人口が多かった.頂上の剣ヶ峰には16.1%,次いで9合目と8合目の山小屋にそれぞれ13.8%および10.7%であった. サイレンが鳴ったときに,避難場所を見つけられた人は,御嶽山登山が6~10回目の人のうち64.3%が避難場所を見つけられた一方,2~5回目の人は56%、初めての人は40.3%と差があった.エリア別でみると,シェルターが整備された剣ヶ峰では95%が見つかり,山小屋のあるエリアでは50〜79%(探さなかった人を含めると79〜86%)が認知できた一方で,登山道で見つかった人は25%以下で,探しもしなかった人は60〜69%に達した. 訓練当日の朝は快晴であったが,山の天候は訓練時には濃霧と霧雨に変った.風も強くなり,体感温度も下がっていた.防災行政無線機は,剣ヶ峰,8~9合目の登山道,二ノ池山荘付近の3か所に整備されている.防災無線のサイレン音は,剣ヶ峰では91.1%の人が聞こえており,かすかに聞こえた人も8.9%であった.剣ヶ峰に近い9〜10合目の登山道でも,聞こえたと答えた人は80.6%,かすかに聞こえた人14.9%であったが,標高に低い9合目では25.0%が全く聞こえなかったと答えている.今回調査対象とした4つの山小屋では,防災無線は全く聞こえていなかったが現地で確認された.3つある無線機の近くでは,サイレン音が聞こえたがが,無線機から離れた登山道では聞こえにくくなる傾向がみられた.この日の天候が,防災無線の聞こえ具合に影響したもと考えられる. エリア別に避難行動を調べると,シェルターの整備された剣ヶ峰では76%がシェルター内に避難し,12.5%が建物の陰に隠れた.剣ヶ峰では,下山を開始した人もいた一方で,9〜10合目にいた9人(13.4%)が火口に近い剣ヶ峰のシェルターに逃げ込んでいる.登山道では,避難行動のあり方が多岐に分かれており,岩の陰に隠れた人が29.9%,何をしたら良いかがわからなかった,何もしなかった,下山を開始したと答えた人はそれぞれ14.9%,13.4%および13.4%であった.