日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 508
会議情報

東京都多摩地域における鉄道端末交通の選択要因分析
*田中 健斗
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

鉄道端末交通は,駅まで行くまたは駅から目的地へ行くときに利用される交通のことである. 以前から地方における公共交通の衰退は言及されてきたが,COVID-19による移動需要の減少により,大都市圏の公共交通の衰退も注目されるようになった.しかし,東京圏の駅は駅周辺に生活施設等の立地が集中するなど,駅を中心とした街づくりとなっている地域が多い.また,東京都のマスタープランでは駅を中心とした街づくりを推進し,鉄道端末交通の利便性を強化することを目標としている.駅周辺へのアクセスはますます重要となってくることが考えられ,端末交通の現状の理解が必要である.

本研究では東京都多摩地域(市部)を対象に,鉄道端末交通として主要な自転車とバスの現状を明らかにする.加えて,地理的加重ポアソン回帰モデルや機械学習を用いて,端末交通手段の選択要因を分析する.特に地理的加重ポアソン回帰モデルを用いることで選択要因別の地域差を明らかにする試みは既往研究では少なく,新たな手法の検証としても意義があると思われる. 本研究は東京都多摩地域に立地する136駅を対象としている.鉄道端末交通利用者数データは2020年国勢調査を用いている.これまでの端末交通研究はアンケート調査を使った研究が多く,対象地域の範囲が限定されることが多かった.本研究では,広範な地域を一元的に分析するという観点からオープンデータを用いている.

鉄道端末交通の利用傾向は,武蔵野台地地域と多摩丘陵地域で大きく異なることがわかった.また,JR武蔵野線沿線を中心とした地域では,鉄道駅へのアクセスが盛んで,バスも鉄 道端末交通としての役割が大きいが,平たんな土地が多いため自転車や徒歩で使う人も多い.一方で多摩丘陵地域は,目的地へバスで直接アクセスする人も多く,必ずしもバスが鉄道端末交通として機能するわけではなく,武蔵野台地地域よりも職住近接が進んでいる地域だと考えられる. 鉄道端末交通の選択要因分析に関して,自転車の選択要因は,小川ら(2012)でも挙げられていた勾配や鉄道駅周辺の駐輪場整備が重要な要因であることを示すことができた.特に本研究では,対象地域内で要因ごとに地域差があることを示すことができた.東久留米市が公表している資料では,将来的に自転車駐輪場の需要に変化はないとしているが,本研究では東久留米市を含めた東京都北部などは駐輪場の増加が端末自転車利用の増加に繋がるという結果が出た.バスの選択要因は,バス本数やバス停数といったバス会社側の供給状況が影響を与えていることがわかった.加えて,駅間距離や主要駅までの所要時間といった鉄道駅の立地に左右される要因も働いていた.駅から800m以遠に居住する人口が多い地域でバス利用が多いことから,このような地域ではバスの活用,推進を進めていくことが重要であろう. 本研究は地理的加重ポアソン回帰モデルを用いて分析してきたが,用いた多くの変数で地域差が確認された.これまで通常の重回帰モデルなどでは見えてこなかった地域差を本研究では明らかにすることができた.今後,選択要因の分析において地理的加重回帰モデルなどのGWRモデルも分析手段の一つとなることが期待される.

著者関連情報
© 2023 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top