主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
Ⅰ はじめに 近年,地形を可視化する様々な地形表現手法が考案されてきた.国土地理院の提供するウェブ地図「地理院地図」においても,標高・土地の凹凸を視覚的に見る地図として,色別標高図やデジタル標高地形図,陰影起伏図等を提供している.このうち,標高別に色分けされた地図の判読性を高めるためには,地域ごとの特徴にカスタマイズされた地図である必要がある.地図を作成したい地域の地形を丁寧に見ながら標高パラメータを思案することが判読性の高い地図作成において重要である.一方,災害時においては判読性を持った地図を迅速に提供することが重要である.そこで本研究では,河床縦断形と黄金比に着目した標高区分パラメータによる地形彩色方法を検討し,標高階級区分を定量化した標高段彩図を試作した.
Ⅱ 黄金比を利用した標高段彩図の試作 たとえば野上(2008)をはじめ多くの先行研究では,日本の平衡河川における河川縦断形は指数関数的になることが指摘されている.そこで,指数関数をとる既存のパラメータを活用し,着色することにより,近似的に一定の地形表現がなされ判読性を持った地図を作成できる可能性があると考えた.本研究で採用した既存パラメータの1つである黄金比は,約1:1.618で表される貴金属比の一つであり,これはフィボナッチ数列の連続する2項の比を取る.この数列をグラフにすると指数関数をとることができる.この黄金比をパラメータとして用いて着色することによる地形彩色をおこない,地形表現や判読性を持った地図の作成可能性について検討した. 作業地区には,日本の典型的な地形の一つである盆地(福島県国見町周辺)を選定して,黄金比を用いた標高階級区分を基に彩色した標高段彩図を試作した.標高データは基盤地図情報を使用し,色分けについては,最低標高値を盆地の最低標高(L=40.1 m)から取得したほか,図内における最高標高値を取得し,算出した.その結果,盆地の低地部では河川の微地形を視覚的に捉えることができた.中上流域についても指数関数に沿う形で山地部の地形を表現することができた.また,盆地に注ぐ代表的流路として図内の3河川について河床縦断形を取得したところ,黄金比に近似した曲線であることを確認できた.
Ⅲ まとめと今後に向けて 黄金比を標高区分パラメータに利用することで,一定の判読性を持った地形表現を簡易に作成することができた.今回の検討に用いた黄金比のように汎用性を持ったパラメータを明確に規定することが出来れば,地形彩色表現の省力化に大きく貢献できることが考えられ,たとえば即応的に短時間で対応が求められる発災時にも活用できる可能性がある.
【文献】 野上道男(2008):河川縦断形の拡散モデルについて,地理学評論,81-3,121-126.