目的:近年における高温日の増加により,暑熱対策やそれが関連する気候変動適応策に関して,事例や課題,対策などの自治体間連携の必要性が指摘されている(白井・田中 2016).一方,暑熱対策の直接的役割を担う行政実務者(以下実務者)において他自治体の暑熱対策に対する関心や知識保有の認識などは把握されていない.自治体間連携などに先立ち,実務者の他自治体の暑熱対策に対する関心や知識保有の認識などの意識の態勢をとらえる必要があろう.そこで本研究では,熱中症予防策などが評価される熊谷市を対象に,実務者の他自治体の暑熱対策に対する意識を明らかにする.
方法:本研究では,熊谷市が直接に管理運営する部署の市正規実務者を対象にアンケート調査を行った(2022年10月末~11月末).暑熱対策は,関心が部署により異なり,将来的に様々な部署で役割を担う可能性がある(澤田 2022).そこで,集計結果に部署の実務者数の多寡が影響せずに全体的な実務者の意識傾向をとらえるため,各部署一人ずつ回答するよう依頼し89名の回答を得た(回収率91.8%).アンケート内容は,暑熱対策に対する意識として,関心,知識保有の認識,入庁時と現在の業務などの変化について5段階評価(5点:そう思う~1点:そう思わない)の問いを設定した.さらに,関心のある他自治体の有無,関心のある自治体とその理由などについて自由記述の問いを設定した.
結果:他自治体の暑熱対策に対する意識の傾向をとらえるにあたり,関心得点(スコア5~1)および関心自治体の有無でスコア群に類型化した.人数の割合はスコア4で最大を示すものの(図1),自治体あり群の関心自治体は,スコアにより若干異なる(図2).関心自治体は,全体的に熊谷市の遠方(200km~)で最大の割合を示す.これは,日本の最高気温記録の経験をもつ自治体が大半(39件/40件)である.熊谷市と距離が近い(0~20km,20~40km)自治体は,スコア5・3で割合が若干大きい.関心理由(表1)について,割合は,気温が高いことでいずれのスコア群も大きく,政策や対応でスコア4が最大を示す.つまり,スコア群により,関心の高い自治体は若干異なる程度で,関心理由が顕著に異なる.また,実務者の関心や知識保有,職務量などの増減の認識は,スコア群によって異なった.そこで,スコア群別の自・他自治体への関心や知識保有,業務などの変化に関する要素の上位得点(4点)以上の割合に対し,コレスポンデンス分析を行った(表2).各スコア群と近く分布する要素は,自自治体に対する関心(2-自治体なし群)や自自治体に対する知識保有(3-自治体あり・なし群),暑熱対策全般に関する関心や業務の増加(5・4-自治体なし群),業務の増加のほか他市町村などへの関心や知識保有(5・4-自治体あり群)と高スコア群にむかい自自治体から他自治体,関心から知識へ変化する.さらに,他自治体の関心スコアの高・低は,勤務年数の長短と対応する.暑熱対策の意識へ影響を与えた事がら(図なし)は,勤務年数の長いスコア群(5・4-自治体あり群)で暑熱対策関連の職務経験の割合が大きかった.そのうち,他自治体の政策や対応の関心が高い4-自治体あり群では,他自治体との交流による学びが意識に影響する回答が認められた.したがって,本研究結果は,高温化の継続を踏まえた実務者の暑熱対策への継続的関わり方に,意識とキャリアステージを見据えた検討の必要性があることを示していると考えられる.