日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 343
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宇都宮市における少子化の進行と要因分析
―類似都市との比較を中心に―
*橋爪 孝介三浦 魁斗
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抄録

Ⅰ はじめに

 いわゆる「増田レポート」の公表から,8年が経過した。同レポートは,人口移動が収束しないという仮定の下で人口推計を行い,20~39歳の女性が2010年から2040年の間に5割以上減少する市区町村を「消滅可能性都市」と定義し,全国の約半数に当たる896の市区町村がこれに該当すると発表した。その上で,「選択と集中」の考え方による,若者に魅力のある地域拠点都市の創出などを提言した。小田切(2014)をはじめとする反論書が多数出版されたことや,2015年に地理空間学会がシンポジウム「消滅自治体論を批判する―地理学からの反論―」を開催したことは,同レポートが日本社会に与えた衝撃の大きさを示す結果となった。 本研究で取り上げる宇都宮市は,増田レポートの言う「若者に魅力のある地域拠点都市」となることが期待される都市の1つである。宇都宮市は「消滅可能性都市」とされなかったが,2017年を境に人口減少に転じ,少子化も進行している。少子化は全国的な課題であるが,自治体によって実態は異なり,地域拠点都市とされる都市の中でも差があることが想定される。そこで本研究では,類似都市との比較を中心に,宇都宮市の少子化の進行状況とその要因を明らかにすることを目的として,分析を行った。

Ⅱ 研究方法

 うつのみや市政研究センターは,宇都宮市が抱える行政課題にについて調査研究し,新しい時代に対応した政策の提案を行うことを目的に設置した自治体シンクタンクであり,本研究は庁内での少子化対策の検討に必要となるデータの収集と分析を行い,順次担当部署に提供する形で実施した。宇都宮市と比較する類似都市としては,人口規模・地理的条件・経済圏の自立性等を勘案し,姫路市・福山市・松山市・大分市・高崎市の5都市を選定した。  研究全体としては,①出生数等の基礎データの類似都市との比較,②岡山県「見える化」分析(岡山県 2017)に沿ったデータの分析,③宇都宮市からの子育て世代の転出先・転出数と転出超過の状況,④全国調査と宇都宮市の調査結果の比較による結婚・出産に対する住民の意識の差の分析,⑤少子化に関する既往研究の分析および有識者との意見交換,と多岐に及ぶが,本研究では①と②を取り上げる。  ②の「見える化」分析とは,岡山県が県内市町村の課題を検討するために,女性有配偶率と有配偶出生率に影響を与えると考えられる社会経済特性を分析したものであり,本研究では,中核市の62都市について,同一の手法で分析し,類似5都市と比較した。

Ⅲ 結果

 ①基礎データの類似都市との比較  宇都宮市は類似都市と比較して,2015年から2021年にかけての人口減少率に対して出生数の減少率が大きいことと,2020年時点で有配偶率に対して有配偶出生率が低いことがわかった。

 ②「見える化」分析に沿ったデータ分析 宇都宮市は類似都市に比べて,偏りなく得点できており,社会経済特性上の弱点は,特にないことが明らかになった。

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