主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2023年度日本地理学会春季学術大会
開催日: 2023/03/25 - 2023/03/27
光化学オキシダント注意報について,2018年まで発令された年間都道府県数は,2007年および2009年の28都府県で最多だったが(苗村・渡邉,2016),2019年には1974年観測以来の最多の33都府県を記録した(苗村ら,2021a)。光化学スモッグ注意報の主因はオゾン(O3)で,光化学スモッグ注意報は依然首都圏(1都7県)を中心に発令されるが,近年は鳥取県や島根県で観測史上初めて光化学スモッグ注意報が発令され(苗村ら,2021a),鳥取県においては汚染の移流から大陸からの越境汚染の可能性がある(苗村ら,2021b)。そこで本研究では,日本海に位置し,離島の対馬島においてO3の最高値および季節変動を調べ解析した。O3の解析は長崎県対馬島の対馬振興局敷地内の独立局である厳原町宮谷(北緯34度12分37秒,東経129度17分22秒,標高20 m)とした。尚,OxのほとんどはO3なのでO3と表記した。また参考として,首都圏の中心地・東京タワーとの比較を行い,解析した時期は,2015年3月21日から2018年3月20日までの3年間とした。1年という単位は太陽を中心として考えることがよりよく解析しやすいと考えられ(苗村・福岡,2017;苗村ら,2019),濃度の変動解析は太陽黄経15度毎による二十四節気別で行った。O3濃度については、3年間の全平均値は39.6 ppbとなった。これは同時期の首都圏の中心地・東京タワーの値である27.5 ppb(苗村ほか, 2021b)と較べて1.44倍となった。最高値は,2015年4月26日の24時の133 ppbであり,光化学オキシダント注意報レヴェルを充分上回るが,長崎県においてこの年に光化学オキシダント注意報は発令されていない。NOAA HYSPLIT Modelによる後方流跡線解析の結果,対馬における高度100 mは112時間前に高度5,000 mからの移流で,オゾン層下層からのO3の供給が考えられる。また,対馬における高度20 mは72時間前に高度4,000 mからの移流と考えられる。両者はその後韓国南部を経由し,対馬に到達したと考えられる。島根県および鳥取県において光化学スモッグ注意報が観測史上初めて発令されたのは2019年5月23日であるが,2015年5月27日にも光化学オキシダント注意報発令に近いレヴェルのO3が観測され,O3気塊の移流が考えられる(苗村・奥田,2021)。この時対馬においては,前日の5月26日17時にO3濃度110 ppbを記録している。 二十四節気別のO3濃度を図に示した。二十四節気別では,対馬島では立夏(5/5~20)で最も高く55.8 ppb,大雪(12/7~21)で最も低く平均27.8 ppbとなっている。二十四節気別の季節変動においては,対馬と東京タワーほぼ同じ傾向を示した。いずれの二十四節気の季節において,対馬は東京タワーよりも高い傾向を示し,日本海の離島・佐渡島においてもO3濃度が相対的に高いことから(苗村ら,2022),日本海の島嶼における大気常時観測等でO3濃度の解析が求められる。