主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2024/09/14 - 2024/09/21
20世紀前半に自動車産業の発展で大きく成長したアメリカ合衆国ミシガン州デトロイトは、自動車産業の国際競争力の低下や人種問題などの影響で次第に成長が低下し、20世紀後半以降は衰退の一途をたどった。最盛期に200万人に達したデトロイトの人口は、現在はその半分以下である。
人口が大きく減少したデトロイトでは、広大な空き地をどのように活用するのかが大きな課題となった(Moore 2010)。家屋が放置され、放火されたまま残っている土地もあれば、更地となった後に草木が生い茂るようになった土地も広く分布している。このような空き地を有効に活用するために、デトロイトでは非営利組織や地域コミュニティが中心となって農園が設けられてきた。発表者はこれまでデトロイトで実践されている都市農業について論じてきたが(二村 2015, 2020)、本発表では2023年に実施した(および2024年実施予定の)現地調査での知見から、COVID-19以降のデトロイトにおける都市農業の動向について論じる。
2000年代に入って、デトロイトでは空き地を利用した都市農業が展開するようになったが、市内における農園の数は今も増加している。ここでは、非営利組織による活動が都市農園の増加に大きく貢献した。2000年にGreening of Detroitがデトロイトの環境を緑化とともに改善していく活動をはじめ、その延長で様々な野菜や花卉の種を無償で提供したり栽培を支援したりするGarden Resource Programを開始した。この活動が多くの市民に野菜や花卉を植えるきっかけを生み出し、市内に100か所以上の農園を生み出すこととなり、農園支援事業に特化したKeep Growing Detroitという非営利組織が新たに立ち上げられた(二村 2015)。現在のGreening of Detroitは緑化事業に特化しており、市内各地で積極的に植林を行っている。
市内で作られているのはトマトやトウモロコシなどの野菜や花卉類が中心で、トウモロコシや大豆などの土地利用作物は栽培されていない。果樹も植えられているところはあるが、本格的な果樹園は管見のかぎり1か所のみである。農園は自宅の裏庭や空き地になった隣地を利用するといったものから、数区画分の土地を農園とする比較的規模の大きなものまで様々である。それらの運営には、土地所有者はもちろんのこと、近隣住民を中心とした非営利組織が管理にあたっている。
2014-15年の調査時以降、デトロイトではファーマーズマーケットの数が増加した。これらはどれも小規模で、近くの農園で収穫された農産物を近隣の住民に販売するものが一般的である。また、新しいマーケットのいずれも何らかの団体が立ち上げや運営にかかわっており、ボトムアップな活動であることが読み取れる。
事例として、2022年に新しく開設されたState Fair Innovative Farmers Marketを取り上げる。ここはもともと荒廃した家屋が立ち並ぶ地区であったが、市政府によって2015年に一連の建物が撤去され、2019年に農園が運用を開始した。ここでは地元の若者が積極的にかかわり、農産物の生産だけでなく地区の環境改善にも大きく貢献している。これらの活動はミシガン大学と新たな共同プロジェクトを生み出しただけでなく、USDA(アメリカ連邦農務省)とのTree Equity Programというパイロット事業も展開することとなった。
二村太郎 2015.人口減少下のデトロイトにおける都市農業の発展とその課題.同志社アメリカ研究 51: 47-65.
二村太郎 2020.拡大するアメリカの都市農業とその課題.日本不動産学会誌 34(1): 32-37.
Moore, Andrew. 2010. Detroit Disassembled. Damiani Akron Art Museum: Akron, OH.