日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
選択された号の論文の185件中1~50を表示しています
  • 中川 清隆
    セッションID: 208
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
    会議録・要旨集 フリー

    Ⅰ. はじめに

     Milankovitch(1920):Théorie Mathématique des Phénomėnes Thermiques Produits par la Radiation Solaireは,地表面温度日変化から第四紀気温変動まで惑星表面温度を幅広く取扱っているが, Hays et al.(1976)による再評価以降は,もっぱら第四紀氷期・間氷期の日射曲線に偏って論評されている.この度,我が国の微気象学・一般気象学におけるMilankovitch(1920)の取扱について検討したので,その結果の概要を報告する.

    Ⅱ.ミランコビッチ理論の概要

     太陽の高度角,赤緯,時角が既知の時の緯度の地点における瞬間大気外全天日射量(以下,太陽高度角公式と記す)はMilankovitch(1920)eq.18により表わされる.

     Milankovitch(1920)Fig.16は, 太陽高度角公式を拡散方程式の外力項として用いて,春分の日の赤道における地表面温度日変化を解析的に求めた.積分変数を時角太陽黄経に日出時角から日没時角まで積分すると日積算大気外日射量はMilankovitch(1920) eq.30となる.任意の時代の軌道離心率軌道傾斜角および近日点太陽黄経の値から具体的なMilankovitch(1920)eq.30 の値を求めることが出来る.

    Ⅲ.我が国の気象学・気候学の教科書における太陽高度角公式やミランコビッチ理論の取扱

     初期の農業気象学教科書 中川源三郎(1899):『農業氣象學』は太陽高度角公式を示さずデビスの日平均日射量子午線黄経分布図を引用表記無しで掲載している. 初期の気象学教科書 馬場信倫(1900):『氣象學』は「太陽ハ明カニ地球表面上ノ熱ノ支配者タルコトヲ證スル二足ル(中略)熱ノ本源ハ太陽に帰スルノ説ハ素ヨリ疑ヲ容ルベカラズ」と記しているが太陽高度角公式や日射量子午線黄経分布に関する記載は無い. 初期の気候学教科書 中川源三郎(1916):『日本氣候學』は「太陽熱の為に支配せられるべき氣候を天體氣候又は數理氣候と稱す」と定義し,太陽高度角公式を示さずにデビスの図やMeech(1856)の計算結果に言及しているが,引用表記は無い.

     Milankovitch(1920)以降の岡田武松(1935):『氣象學(改訂版)下巻』は巻末の数理解説においてMilankovitch(1920)eq.18, 30を明示し,緯度10度帯毎の月別全天日射量の計算結果を示しているが,引用表記は無い.福井英一郎(1938):『氣候學』はMilankovitch (1920,1930)にも言及しながらMilankovitch(1920) eq.18,30を比較的詳細に説明しているものの,引用表記が不十分なため,Milankovitch(1920)eq.18,30の総てがMilankovitch(1920)の功績であるようには読み取り難い.正野重方(1953,1960):『氣象力學序説』,『気象力学』は式(1)を示すことなく,八鍬利助(1961):『農業物理学』は式(1) (2)を明示したうえで,ともにMilankovitch(1930)の計算結果とその子午線黄経分布図を引用している.現在の気象・気候学徒に最もよく読まれている小倉義光(1978,1999):『一般気象学』,『一般気象学[改訂版]』は式(1)に関して比較的詳細に説明しているが引用表記は無く,孫引のList(1951),曾孫引のWallence and Hobbs(1977)経由でMilankovitch(1930)の図を玄孫引している.

     岡田(1935)・福井(1938)以外はMilankovitch(1920)に関する記載が少なく,記載・引用がある場合は子午線黄経分布に限定され日変化への言及は無い.気候変動における重要研究者として周知されているMilankovitchによる太陽高度角公式や微気象への貢献を積極的に教育すれば,履修者の興味・関心を高め気象・気候教育に資することが期待される.

  • 黒木 貴一, 品川 俊介
    セッションID: 312
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    近年の測量技術の進歩や衛星観測の高精度化により,地形変化は,2時期のDEMの標高差分やSAR干渉画像を用いて把握可能になった.本研究では短期の小さな地形変化が想定される人工地形の堤防の地形変化を対象とする.2時期のレーザデータによる剰余地図から,様々な地形変化を読み取った事例を紹介する.剰余地図は,2時期のDEMの差分を整数値に調整し,これを任意の数で除した余りを段彩で示したものである.縞の階調変化から標高の増減を識別しやすい.

  • 田和 正孝
    セッションID: S105
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    本報告の目的は以下の2点である。

    ①小規模漁業をとりあげる意味

     高校の教科書をみると,漁業の説明はすこぶる少ない。内容は,FAO統計ほかを用いた世界の主要漁場における漁業を把握し,主要な漁業国を理解することにある。ここで展開される漁業のイメージは,「比較的規模の大きな商業漁業」である。しかしながら,世界の漁業の90%以上が自給的漁業を含む小規模な商業漁業とそれを担う小規模漁業者(漁民)からなる(Berks et al.2001)。こうした漁業形態から地域に生じる問題,さらには世界的な漁業問題を俯瞰することが重要であると考える。

    ②小規模地域研究における系統地理学と地誌学との関係

     地理学者は,系統地理学的な研究を進めるなかで,地域を「理論検証の場」として扱う場合がほとんどである。報告者は,小規模な漁業地域において,漁業地理学における生態学的視点(人間―環境関係)に注目して漁場利用の時空間を研究してきた。しかし個別地域での定着調査を繰り返すことによって,これだけにはとどまらない様々な問題が見出された。そのため,不十分ながら,経済地理学的(漁業経済学を含む)視点,集落地理学的視点,政治地理学視点,文化地理学的視点などを理解しながら,諸問題を考察してきた。このようなかたちでの地域の理解の総体を,系統地理学的研究の蓄積ではなく,地誌学と呼んでみたい。これは,かつて藪内芳彦(1976:未発表)が問うた「地理学に家を建てる」という考え方に近い。藪内は系統地理学を個別の建築材料にたとえ,完成した「完全な家」を地誌学であり,地域研究の最終目標であると考えた。以上のことをふまえ,総合としての地誌学的研究の立場を考察することを2番目の目的とする。  本報告では,マレー半島の小規模な商業漁業地区パリジャワを事例地域とし,1991年から2019年までに実施した7回の長期・短期の現地調査から明らかとなった漁業に潜む各種の問題をとらえ,これを「漁業地誌」として定位してみたい。

  • 立岡 裕士
    セッションID: 632
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    国文学資料館が所蔵する山鹿文庫に『天経或問』の写本が収められている。日本における同書の受容に関する先行研究では言及されていない。当該写本(外題「天文書」)は大集堂本『天経或問』の後半部に該当する。素行生前の蔵書であれば、日本での最初期の写本の一つになる。

  • 海津 正倫
    セッションID: P018
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    我々の幼い頃の記憶を反映した原風景ジオラマ原風景ジオラマの作成は,それぞれの場所や建物などを地理的な目で見て考える上で有効である.とくに,原風景を考えるにあたっていろいろな資料を探したり,地理院地図の各種地図や空中写真を利用したりする中で,思わぬ情報に出会ったり,貴重な考察ができたりする.地域の特徴や地域性などは子供の頃には気づかなかったことが多く,年を経て納得することやさまざまな地域で生活してみて初めて気づくこともある.そのようなことを気づかせてくれるきっかけとして原風景ジオラマの製作はきわめて有効であると思う.

  • 阿部 康久
    セッションID: S306
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    本シンポジウムでは、1990年代以降の中国を「高度経済成長」期と位置付けている。しかしながら、実際に中国では1990年代以降、10%近い経済成長を達成した時期が長期間続いていたにもかかわらず、「高度成長」という用語は、ほとんど使われていないという。

    本報告では、まずは「高度成長」が続いていた時期とほぼ重なる時期になされた、いくつかの政策転換をまとめることで、その理由を考える手掛かりを得たいと考えている。高度成長期の開始とほぼ同時期と考えられる1992年以降の大きな経済政策の変化は概ね以下のようにまとめられる。

    1992年 南巡講話・社会主義市場経済体制の導入

    1997年 私営企業の設立が正式に公認

    1998年 住宅制度改革の完成

    2001年 WTO加盟

    2007年 世界金融危機への対応策としてのインフラ建設への大規模投資の実施

    以上で取り上げた諸政策の中でも、中国の経済成長と社会のあり方に大きな影響を与えた政策変更として、1998年にその方針がほぼ定められた住宅制度の改革は、大きな契機となったものの1つであったとみられる。この住宅制度改革以降,中国では持ち家の所有が必要とされる様々な制度的・社会的背景が存在していることもあいまって、四大都市(北京・上海・深圳・広州)やそれに次ぐ特大都市(城区人口500万人を超える都市)レベルの都市においては投機的資金の大量投下による不動産価格の高騰という現象が顕著になった。特に2010年代における不動産価格の高騰は非常に顕著なもので、明らかに一般的な都市労働者の賃金水準では、住宅を購入することが不可能な水準になっている。

    この背景として、世界で最も著名な経済地理学者であるデビィド・ハーヴェイは、2017年に原著が刊行された『経済的理性の狂気』にて、世界金融危機以降の中国経済のあり方について言及している。彼の議論では、中国政府による金融危機への対応策としての住宅・インフラ建設への多額の投資と財政出動、それによる都市空間の形成について論じられている。ハーヴェイによる住宅・インフラ建設への過剰な投資と生産への注目は、2020年末頃から表面化した中国の不動産業の経営危機を予見したものといえる。

    報告者がこれまで中国各地で行ってきた人々の労働移動に関するいくつかの調査結果を考慮する限り,上記の四大都市のような「大都市」は,農村部出身の出稼ぎ労働者や中小規模都市出身の大卒ホワイトカラー層が一時的に就業・居住を希望する地域である一方で,このような人々がマイホームを購入して定住することが可能とは考えづらい地域になっている。

    試算によると、不動産セクターは中国のGDPの3割程度を占めるとされている。また、一般的に比較されることが多い日本のバブル景気は実際には5年強程度の期間しか続かなかった。中国の不動産価格の高騰は、実際には人々の可処分所得を減少させているとも解釈でき、その期間の長さも国民生活に与える影響も特異である。総体としての経済成長率の高さにもかかわらず「高度成長」という用語が使われていない理由の一部と解釈できるかも知れない。

  • -オセアニア地誌の事例を通じて-
    菊地 俊夫
    セッションID: S103
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    世界地誌の学習に用いられる比較地誌はオーストラリアとカナダや、オセアニアと東南アジアというように、似ている地域や対照的な地域、あるいは近隣の地域や関係の強い地域が選ばれている。そして、比較地誌の方法は、それぞれの地域の自然-歴史文化-社会経済を網羅的・体系的に学び、共通性や異質性を理解し、それぞれの地域の性格を並列的に理解するものである。しかし、そのような比較地誌は教科書や大人たちの要望であり、高校生が本当に望むものなのかという疑問が少なからずある。東京都立大学の高大連携事業の高校生探求ゼミナールにおいて、高校生が比較地誌を自由に行うと、その対象は教科書や大人たちの思惑と必ずしも一致しない。オーストラリアやニュージーランドの比較地誌の対象として多く選ばれるのは日本であった。例えば、ニュージーランドのオークランド近郊の酪農景観を面白いと思ったのは、東京近郊の酪農景観と全く異なるものであったためでった。そこから、ニュージーランドと日本の比較地誌が始まり、酪農景観に関する自然、社会経済、歴史文化がランダムに重層的・螺旋的に比較されていく。いわば、従来の比較地誌は記録に残る学習であり、景観からの比較地誌は記憶に残る記憶に残る学習といえる。

  • 林 武司, 皆木 香渚子, 柳澤 雅之, 飯泉 佳子
    セッションID: 234
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    アジアのメガデルタは世界有数の生産的な生態系を支え,大陸規模での経済,食糧安全保障,持続可能な開発等に重要な役割を果たしている(世界銀行,2021).しかし,これらのメガデルタにおける多様な人間活動は地盤沈下や海岸侵食,塩水侵入など様々な環境問題を誘発しており,これらに伴って各地の水環境が量的・質的に変化している. メガデルタの1つであるメコンデルタの西部を流れるカイロン川の左岸地域は,メコン川から遠く離れた位置にあってデルタ内でも標高が低く,前述した環境問題に対して特に脆弱であると考えられる.他方,この地域の主要な土地利用は1990年代以前には水田が主流であったが,2000年代以降,水稲栽培とエビ養殖のローテーションシステム(以下,稲作・エビ養殖システム)に移行した.この土地利用の変化は,地域の水の循環量や質に大きく影響することが推察される.本研究は,現地調査による土地・水利用の実態の把握と,地形や土地利用等のデジタルデータの解析を総合し,カイロン川左岸地域の地形,土地利用,水循環の関係を把握することを目的としている.本発表では,水循環について検討した結果を中心に報告する.

    デジタルデータについては,標高モデル(無償データ:AW3D30,NASADEM,MERIT DEM,TOPO DEM;有償データ:AW3D Standard(2.5m))ならびに土地利用(JAXA高解像度土地利用土地被覆図(10m,30m))を取得した.現地調査については,地形や土地利用等を観察するとともに住民から聞き取り等を行った.取得したデータや情報等について,GISを用いて整理・解析を行った.

    人工衛星データに基づく標高モデル(DTM)であるAW3D Standardを用いて対象地域の地形を検討した結果,地形は農地区画単位では概ね平坦であるが,地域スケールでは緩やかな起伏や勾配を有していることが示唆された.他方,地上測量に基づく標高モデルであるTOPO DEMでは,地形は沿岸域から内陸に向かって傾斜し,内陸側に海抜0m未満の区域が存在する.これらの地形の特徴をふまえると対象地域の水循環は,潮位に伴って変動するカイロン川の水位の影響を強く受けると考えられる.土地利用については,現地調査により,水稲栽培の二期作から稲作・エビ養殖システムへの転換が2000年代初頭に始まり,2016年から2017年の間に急速に普及したことが明らかとなった.この結果は,JAXAの土地利用解析結果を裏付けるものである.現在では,稲作・エビ養殖システムは特に内陸の低位部で実施されていることが示唆され,また養殖期間中には,地域住民は大潮ごとにポンプで水路の塩水を圃場に導水していることが確認された.稲作・エビ養殖システムへの転換は,地域の住民や経済に正の効果をもたらす一方で,地下水の塩水化を促進するなど水環境に負の効果をもたらす可能性が考えられ,中・長期的な視点での評価が必要である.

    本研究は,京都大学東南アジア地域研究研究所の「グローバル共生に向けた東南アジア地域研究の国際共同研究拠点(GCR)」共同研究の助成を受けたものである.

  • 工藤 達貴, 日下 博幸
    セッションID: 203
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    1.はじめに

     生保内だしは、田沢湖と奥羽山脈との間に位置する秋田県仙北市生保内地区で吹く東寄りの局地風である。生保内だしは稲などの豊作をもたらすとして現地住民から重宝され、400年以上前から「七日も八日も吹けば宝風」と民謡で歌われている(仲井ほか 1996)。生保内だしが「宝風」といわれる理由として、2つの対立する説が挙げられている。1つは、ヤマセが奥羽山脈を吹き越え、フェーン昇温により暖くなった風が生保内だしとして吹くから、という気候学者の説である(本谷 2018)。もう1つは、夏に吹く生保内だしが適度に涼しく、農家が働きやすくなるから、という生保内地区の郷土史研究家の説である(千葉 1973)。

     本発表では、上記2つの説のうちどれが正しいのかを統計的に明らかにした結果を報告する。また、生保内だしの季節性や継続時間、吹走時の気圧配置といった気候学的特徴も合わせて報告する。

    2.データと方法

     生保内地区にある田沢湖、風上の雫石、風下の角館アメダスにおける風向風速データを用いて生保内だしの吹走事例を同定し、吹走月と継続時間を調べた。生保内だし吹走中に該当するすべての地上天気図を目視で分類することで、吹走時の気圧配置を調べた。田沢湖、雫石、角館、太平洋沿岸にある宮古アメダスの気温データを用いて、生保内だし吹走時の生保内地区及びその周辺における気温の平年偏差を調べた。

    3.結果と考察

     生保内だしを同定した結果、生保内だしは4月から9月によく吹くことが明らかになった(計73.8%)。継続時間は2日以内である事例が90.2%とほとんどであり、民謡の歌詞が示すような7日以上吹き続ける生保内だしは同定できなかった。生保内だし吹走中の主要な気圧配置は、日本海低気圧型(24.7%)、移動性高気圧型(18.4%)、ヤマセをもたらすオホーツク海高気圧型(15.9%)、南岸低気圧型(14.2%)の4つであった。夏に吹く生保内だし吹走中の気圧配置は、オホーツク海高気圧型が最も多かった(33.5%)。

     ヤマセに伴う生保内だしが吹くとき、生保内地区の気温は平年と比べて低かった(平均で平年偏差-1.4℃)。ヤマセ以外の時は、生保内地区の気温が平年と比べて高く、周辺地域と比べても高かった。これらの結果から、ヤマセによる冷気移流がフェーン昇温を上回るため、夏には涼しい生保内だしが吹くと考えられる。

     本研究により、気候学者の説ではなく、地元の郷土史研究家の説のほうが正しいことが示された。

    参考文献

    千葉三郎 1973. 『文芸秋田』文芸秋田社.

    仲井幸二郎・丸山忍・三隅治雄 1996. 『日本民謡辞典』東京堂出版.

    本谷研 2018. 秋田県の気候. 日下博幸・藤部文昭・吉野正敏・田林明・木村富士男編『日本気候百科』70-76. 丸善出版.

  • 一ノ瀬 俊明, 潘 毅
    セッションID: 209
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    実際の都市内大規模緑地公園再開発計画をテーマに、屋外温熱環境の数値シミュレーションにより、建築形状や土地被覆の変化による夏季日中の暑熱リスク上昇を推定した。地表面温度や風速、気温、湿度への影響により、風下側隣接住区の棟間における温熱環境変化は、季節、時間帯、気象条件次第では、一定割合の住民が変化に気づく程度である可能性が指摘された。しかしこの結果は、開発反対の視点で計画を注視している住民らの認識と乖離していた。

    茨城県つくば市の県営洞峰公園(当時:現在はつくば市に移管済み)は、東西南北それぞれ1辺数百mのスケールを有する緑地公園である。県庁が提示した再開発計画においては、公園内の野球グラウンドがグランピング施設へ変更され、それに伴い数haの樹林地が駐車場へ変更される。近隣の住民からは、公園内の希少動植物相の喪失に加え、暑熱リスクの上昇についても懸念する声が上げられ、2022年夏の県庁による説明会と、それと前後した住民グループの討論集会を契機に、演者も当該グループの活動に専門家の立場で参与観察をはじめ、本報に述べるアセスメントを試みた。今回は、ドイツで開発され、近隣住区スケール(数百m四方)における屋外温熱環境評価ツールのENVI-metを用いた。1年を通じ最悪のケースを想定し、7月末の猛暑日の午後3時を計算対象とした。公園の西側に道路をはさんで中高層住宅街区が隣接しており、ここへの影響を想定して、鹿島灘からの海風(東風)が卓越する晴天日の気象データを入力条件とした。一方、懸念すべき気象条件(つくばAMeDAS)を日最高気温30℃以上、東風が卓越、十分な日射量で絞り込んでみると、それらの出現時間は7~8月日中の5%程度(毎日発生しても30分)であり、当該住区の棟間におけるPMVの上昇は0.3程度と見積もられた。これは10%程度の住民が、従前と比較して暑さの度合いが変化したと感じるレベルの変化である。なお、計算の入力条件を検証するため、2023年7月26日12:37に洞峰公園周辺地表面温度のUAV観測を行った。駐車場が60℃以上となっているのに対し、芝生が55℃前後、樹冠表面が45~50℃程度となっており、計算結果との整合性を確認済みである。

  • 追分地区の事例を中心として
    鈴木 修斗
    セッションID: 635
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    1. はじめに

     生活の質の向上を求めたライフスタイル移住(LM)が世界的に展開する中で,その一形態であるアメニティ移住(AM)が注目されている.日本においても大都市圏に近接する良好な自然環境や景観を有する別荘地でAMが確認されてきた.近年は,新幹線通勤やテレワークを利用する現役世代のAMが進展しており,移住者の価値観やライフスタイルなどの需要側の要因が検討されてきた.

     しかし,それらの別荘地がなぜ現役世代の移住先として発展を遂げたのかを明らかにするためには,供給側の要因についても検討する必要がある.本稿では,東京大都市圏に近接する長野県軽井沢町の新興別荘地区を対象として,そこが現役世代の移住先として発展してきたメカニズムの解明を目的とする.具体的には,住宅・土地市場の動態と不動産業者の戦略との関係に着目して検討を進める.

     本稿では新興別荘地区の中でも現役世代の移住が最も進展する追分地区を中心とした分析を行った.具体的な手法として,過去の航空写真と住宅地図,各種統計,文献資料,聞き取り調査,不動産各社サイトの調査に加えて,登記情報提供サービスによって取得した不動産登記簿(2006年〜2022年),ならびに株式会社ちばんラボが提供する不動産登記情報データ(2007年〜2022年)を用いて分析を進めた.

    2.新興別荘地区の形成と変容(1960〜1990年代)

     1960年代以降,軽井沢町の別荘地は町東部に広がる伝統的別荘地区(形成時期:1880〜1950年代)から町西部の林地にも拡大するようになった.そこでは域外資本と域内資本が競合する形で開発が進み,隣接する御代田町にまたがる一帯に新興別荘地区が形成された.しかしその多くは数十区画程度の小規模な開発であった.追分地区の林地においても開発が進み,土地の分筆がなされた.

     1970年代における追分地区の航空写真をみると,土地分筆後も空き区画が目立つことが確認できた.こうした状況から,新興別荘地区では投機目的での購入を見込んだ開発が行われた可能性が指摘できる.1980年代の住宅地図においてもこの状況は大きく変化していないことから,追分地区の開発は比較的ゆるやかに進んできたといえる.

     1990年代のバブル崩壊によって軽井沢町の地価は大幅に下落した.ところが,1997年の北陸新幹線軽井沢駅の開業に伴う住宅・土地需要の増大を背景に,軽井沢町では不動産業への新規参入が相次いだ.新興別荘地区の土地は,こうした新規参入業者によっても取得されるようになった.

    3.新興別荘地区の発展(2000年代以降)

     2000年代に入ると,退職移住ブームが重なり新興別荘地区の発展がみられるようになった.追分地区では新規参入業者による開発が進展するとともに,既開発の空き区画に住宅が建造される動きもみられた.こうした動きの背景には,土地所有者の世代交代の影響も確認された.

     2010年代には,別荘利用者向けの市場を開拓してきた老舗業者との差別化を図ろうとする新規参入業者が現れた.これらの業者は新幹線開業後に増加しつつあった現役世代移住者に注目し,町西部の新興別荘地区を移住・定住に向いた土地としてアピールするようになった.その結果,追分地区に移住する現役世代が増加した.追分地区では,それまで開発が進んでいなかった用水路の周辺の土地をヨーロッパの運河の景観になぞらえて販売する戦略もとられた.

     2020年代に入ると,コロナ禍におけるテレワークの進展や私立の小中一貫校の開校などが契機となり,軽井沢町へと移住する現役世代がさらに増加した.軽井沢町では「不動産バブル」とも呼べる状況が続き,追分地区でも住宅・土地価格の高騰がみられるようになった.

     本稿の知見は以下の3点にまとめられる.第1に,2000年代以降の追分地区の発展を牽引したのは新規参入の不動産業者であった.第2に,新規参入業者の独自の市場開拓戦略によって現役世代の移住が促された.第3に,土地所有者の世代交代がこれらの発展を後押しした.発表当日は以上の知見を踏まえて,長野県軽井沢町における新興別荘地区の発展メカニズムを考察する.

    ※本研究はJSPS科研費(23K18738,23K28330)の助成を受けたものである.

  • 駒木 伸比古, 蜂須賀 莉子, 近藤 友大, 上野 大輔, Jeter Siwalette, Wardis Girsang, 山本 宗立
    セッションID: P005
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    1.背景と目的

    インドネシア東部に位置するマルク州では,8世紀頃より,一年生作物や多年生作物,森林作物を組み合わせて栽培するdusungと呼ばれるアグロフォレストリーシステムが存在してきた。他地域と異なる特徴として,換金用の香辛料(チョウジ,ニクズクなど)だけでなく,自給用の果樹(ドリアン,マンゴスチン,パンノキなど)およびヤシ類(サゴヤシ,サトウヤシ,ココヤシなど)やイモ類などが混栽されてきたことが挙げられる(Matinahoru,2014; Girsang, et.al, 2023)。市場経済と自給経済が長期間安定的に併存されてきた農業システムであり,世界的にみても稀有な形態であると言える。

    しかしながら,dusungに関する研究は管見の限り少なく,特にdusung内ではどのような意図で作物が植えられ,管理・育成されているかについては明らかとなっていない。農業・農村地理学の分野では,伝統的に農地の分布状況を示す大縮尺の地図が作成・分析されてきたが,同様の手法が有効であると考えられる。また,作物の分布と標高や傾斜など地形との関係も分析する必要がある。しかし,インドネシア国内全域を網羅している地形図の縮尺は25万分の1であり,またDEMの空間分解能も10m程度であるため,dusung内の微細な地形の把握は困難である。そこで本発表では,dusungの実態把握に向けた作物データベースと地形モデルの作成について検討することを目的とした。

    2.研究対象地域の概要

    研究対象とした集落は,マルク州の主要島であるアンボン島の南西に位置するA村である。中心都市であるアンボン市から自動車で約1時間強ほど離れており,人口は約5,000人(2021年),主な宗教はキリスト教である。本発表で分析したdusungは,村の一般的な世帯(X氏)が所有しているものであり,集落からは徒歩で90分ほどかかる山間部に位置している。

    Google Earthなどの衛星写真により位置座標が特定できる作業小屋を基準として,レーザー距離測定器を用いてdusungの範囲を測量した。次に,同じく作業小屋を基準として,dusung内に植樹されている有用果樹の位置を測量した。その際には各樹木にタグを付け,樹種や樹高,胸高直径などについても測定するとともに,X氏より植えた時期や目的などについても聞き取り調査を行った。同時に,ドローンを用いて上空100~150mからの様子も記録した。

    こうした調査・測定の結果をまとめ,作物(樹木)のデータベースを作成した。さらに,樹木間の相対距離および相対標高を用いて,dusungの地形モデル(DEM)を作成した。

    3.結果と考察

    結果を図示したものが,図1である。dusungの正射影面積は,約3,000㎡であることを測定できた。また,地形モデルは現地調査時に記録した地形スケッチとほぼ同一であり,樹木の測定による地形のモデル化に成功したと考えられる。

    今後は,傾斜など地形条件と作物の種類,樹齢などとの関係を検討していくことが挙げられる。こうした分析結果は,dusungの管理方法や実態を定量的に評価するための基礎的情報であり,ひいては持続的なdusungの利用につながることが期待される。

    本研究は,JSPS科研費21K18402による研究の一部である。

    参考文献

    Girsang, W., Matsuda, M. and Yamamoto, S. 2023. Dusung agroforestry systems on Ambon Island, Central Maluku, Indonesia: sustainable livelihoods, land property rights, and poverty reduction. Journal of Marine and Island Cultures, 12(3): 160-186.

    Matinahoru, J. M. 2014. A review on dusun as an indigenous agroforestry system practiced in small islands. Occasional Papers, 54: 53-60.

  • 田中 耕市
    セッションID: P040
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
    会議録・要旨集 フリー

    I.研究の背景と目的

    2024年1月1日16:10に,能登半島地下16kmを震源とする令和6年能登半島地震が発生した.震度は能登半島北部の広範囲で6を観測し,輪島市および志賀町では7に至った.直下型地震による大きな揺れは広範囲における地滑りや液状化現象,津波など,地域によってさまざまな災害をもたらすことになった.建物の崩壊も随所でみられ,特に輪島市の朝市通りでは火災が発生して被害が拡大した.

    本発表では,被災地域の住民およびそこに居合わせた人々が,被災直後からいかなる移動行動をとったのかを,ポイント型人流データによって空間的に明らかにすることを目的とする.上述のように,同地震ではさまざまな災害が発生したうえに,元旦のために住民以外の帰省客や,現地に明るくない観光客も多く被災したという,前例があまりみられない事例となった.このよう特殊な状況下で,被災者がいかなる移動行動をとったのかを空間的視点から明らかにする.

    これまでの災害時の人流分析には,メッシュなどを地区単位としたデータが使用されることが多かったが,その場合にはそのメッシュ内のどこにいるかを厳密に明らかにすることはできなかった.本発表で用いるポイント型データでは,GPS計測による多少の誤差はあるものの,滞在場所をピンポイントで把握することができる.

    Ⅱ.対象地域と使用データ

    本発表では,主に能登半島北部4市5町(七尾市,輪島市,珠洲市,羽咋市,志賀町,宝達志水町,中能登町,穴水町,能登町)を対象地域とする.人流データには,Agoop社のポイント型トリップデータを用いた.これは,スマートフォンのアプリから取得した位置情報を,最短で1分単位で把握することが可能であり,1日ごとにユーザーに振られるデイリーIDによって移動行動を追うことができる.2024年1月1日については,対象地域におけるポイント数は約27.8万に及び,約4千人分の移動記録が確認された.それらのうち,位置情報の精度が高く,分析に耐えうるポイント数があるデイリーIDを抽出した.そのほか,デジタル住宅地図のZMapTownIIを活用することにより,被災者が滞在した施設等を判別した.

    Ⅲ.データの概要と被災者の移動行動

    地震発生当日に対象地域において確認されたデイリーIDのうち,半数以上は対象地域以外の居住者であり,最も多かった居住地は金沢市であった.能登半島北部のA地区では,地震発生からの1時間(16:10~17:09)において,指定緊急避難所への避難行動のほか,緊急対応による役所職員の登庁や,被災箇所への救助活動に向かう行動と推察されるさまざまな行動パターンが観察された(図1).

    謝辞 本研究はJSPS科研費JP23K22037,23K00984,および東京大学空間情報科学研究センターとの共同研究(研究番号1243)の成果の一部である.

  • ―雲南省鶴慶県のペー族村落の事例―
    雨森 直也
    セッションID: 534
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    1. はじめに

    中国の大卒(大専を含む)以上の学歴を持つ者の就職は近年、厳しさを増している。また、中国の東部と西部で経済格差は決して小さくなく、とりわけ、西部各省の省都から離れた地区では、経済発展が遅れていることが少なくない。なかでも、本研究の対象とする雲南省は省都昆明とその周辺を除いて、産業が充実しているとはとても言い難い状況である。加えて、雲南省では少数民族住民がおよそ3分の1を占め、自治州や自治県が設定された民族地区は省面積のおよそ3分の2を占めている。これまで、中国の大学生の就業は経済学を中心に多くの研究がある。その一方で、農村住民を対象とした研究のほとんどが出稼ぎ労働者と言われる人々で、実質的にほぼ非大卒を対象とした研究であった。つまり、農村出身大卒者を対象とした彼らの就業はほとんど研究されてこなかった。そこで、本研究では雲南省のペー族の1村落を事例として、同村出身の大卒者85人の就業傾向について検討を加える。今回は戸籍の所在地と関係なく、まだ財産分与を行っていない者、または財産分与を行った結果、村に資産を保有している大卒者を対象とした。(男女問わず)婚出したり、村には戻ってこないことを前提とした財産分与を行ったりした者は聞き取り対象から除外した。そのため、調査対象は20-30歳代が中心となっており、近年の就職状況を反映している。

    2. 中国の大卒就職活動と少数民族

    中国の就職活動は日本と比べると、学生が就職活動を本格的に開始する時期は遅い。その要因は中国の大学が(一部を除き)全寮制を取っており、その管理が比較的厳しいためであるとみられる。各大学は近年、学生の就職に非常に力を入れるようになってきているが、思うような結果になっているとは言いがたい。公務員や事業単位(国公立の病院、学校など)では博士号保持者を除いて、就職試験を原則、実施しているが、1000倍を超える高倍率も当たり前の状況となっており、非常に狭き門となっている。その一方で、民族地区には「少数民族枠」があり、一定の優遇が存在するが、そちらも試験になれば、数十倍程度の倍率が付くことも少なくない。他方で、国有企業は一部を除いて、民間企業同様の選考方法を実施している。

    3. 村出身の大卒者の就業傾向と就業地

    職業別では、医療従事者や日本でいうところの事務職が12人(14.1)と同じ割合でもっとも多かった。また、エンジニア(工程師)も多く、11人(12.9%)であった。また、昨今、人気の公務員も少なくなく、10人(11.8%)を占めていた。また、調査対象村の非大卒住民の農外就業で最も多い建築業と関連する就業は、建築士が5人(5.9%)と少数にすぎなかった。次に、彼らが就業している組織をセクター別に分類すると、全体の半分以上が行政機関・事業単位・国有企業といった公共セクターに勤めていた。この理由として、雲南省は産業があまり発展しておらず、目立った民間企業が少ないことと、民族地区において、少数民族籍の住民の公共セクターでの就業に一定の優遇があることが要因だと考えられる。彼らの就業地は雲南省内で就業する者が89.4%(77人)と9割弱であり、省内で就業している者77人のうち、昆明市と大理州が省内での就業がそれぞれ33人(43.4%)および25人(32.9%)を占めており、第3位以下との差は大きく開いていた。これらの結果は非大卒者の就業と就業地選択(雨森2023)との関連性が極めて薄いことを示していた。また、就業地と公共セクターとの関係では地元から近いと公共セクターが多く、そこから離れれば離れるほど、公共セクターでの就職が少なくなり、民間セクターの就業割合が増えていた。これは民族地区の特殊性に加え、すでに公然のことではあるが、「関係」が強い地元ほど、公共セクターでの就職がより有利となっていた。

    4. おわりに

    村出身大卒者の就業は公共セクターを好む傾向が非常に強かった。そして、それはある程度、実現できていた。彼らの就業地は地元に近い方が、より公共セクターでの就業が多く、それは「関係」によるものとみられた。他省での就業では、公共セクターに就職することは難しく、民間セクターでの就業が増えていた。就業地は民間セクターであっても、また給与水準が低くても省内での就業を望む傾向は強く、省外での就業は少数に留まっていた。

  • 「レジャー内職」という表象をめぐって
    中澤 高志
    セッションID: 436
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    Ⅰ はじめに女性雇用者が1,096万人,うち製造業従事者が390万人であった1970年,女性内職者は167万人を数えた.女性がそのほとんどを占める内職者は,日本の工業化と高度経済成長を底辺で支えてきた労働力なのである.報告者は,内職を女性の重要な働き方の一つとして正当に位置付け,神奈川県における近代以降の内職(者)について,地域性,階層性,歴史性の観点から分析を進めている.地理学以外を見渡しても,内職に関する研究蓄積は十分とはいえず,特に内職者個人に迫ったミクロな研究は,地場産業に関連するものに偏っている.このことを踏まえ,内職が最も広範に展開していた高度成長期の大都市において,内職者の階層性と地域性とを関連付けて分析することが,報告者の当面の目標である.高度成長期は,「消費ブーム」,「レジャーブーム」の時代であり,「レジャー内職」という言葉も生まれた.レジャー内職とは,家事の省力化によって生じた余暇(レジャー)を内職によって有効活用し,得られた工賃を行楽(レジャー)や耐久消費財の購入などに充てようとする動きを指す.暗いイメージと結びつけられがちな内職が,明るさを含んで語られることもあったのである.表象は,現象のある面に光を当てると同時に,影の部分も生み出す.レジャー内職という表象が照射する高度成長期の内職(者)の質的変化とはどのようなものであり,逆に見えにくくしていた内職者の(変わらない)現実とはどのようなものであったか.本報告では,1960年代前半を中心に,神奈川県における内職補導事業(内職斡旋)およびその利用者を対象として,これらの問いに答えることを目的とする.Ⅱ 神奈川県の内職斡旋とその利用者神奈川県は,1955年に内職公共職業補導所を設置し,希望者に対して内職の斡旋を開始した.開設からの10年間に,補導所は県内の内職(者)に関するさまざまな情報を収集し,豊富な資料を残している.そこからは,内職がより広い社会階層に浸透し,内職者の経済的切迫性が弱まったという,レジャー内職という表象に通底する内職(者)の質的変化の認識が見て取れる.さらには,要保護層の支援という本来の内職行政の理念が,内職をめぐる実態と乖離しているという問題意識もうかがえる.1957年度から1964年度の補導所利用者(求職カード登録者)の属性を分析すると,20歳代と30歳代の女性が70%で,義務教育修了者が約半数を占めることに変化はない.一方で世帯主の職業は,無職や現業職が激減する一方で,当初よりもホワイトカラーが増加している.内職をする理由からも,経済的切迫性が弱まっていることは看取でき,実際に世帯収入は着実に増加している.しかし,勤労者世帯一般に比べて世帯収入は明らかに低く,内職者一般と比べても,補導所の斡旋を受けた内職者の世帯収入は低い.この時期,確かに内職(者)に質的な変化はみられたが,内職者を擁する世帯が依然として相当に低所得であったこともまた,厳然たる事実であった.Ⅲ 内職者の自己認識こうした事実を踏まえたうえで,補導所利用者が内職と共にある暮らしの現実をどのように認識していたのかを探ろうとするにあたり,1965年に作成された『内職者体験発表要旨』は貴重な存在である.ここには,7人の女性による内職の経験が綴られている.「生活の不安を知らない温床の様な」炭住を離れて神奈川県に移り住んだ炭鉱離職者の妻は,「主人の月給は食べるのがやっとで」,内職を「生活のためにやりました」と回顧する.しかし「身なりもかえり見ず・・・では主人にきらわれます,朝の10分位です,お白粉の1つもはたいて身支度をして仕事にかかる位の気持ちを持ちたいものです」と述べるのである.別の女性の言葉を借りれば,内職者が願っていたのは,「工賃をお鍋の中に入れずに自分の身の廻りもきれいに」することであった.世帯所得は相当に低くとも,彼女たちは,追加所得が生活に潤いをもたらすことを期待して内職に従事した.レジャー内職とは,そうした期待が実現する感触を内職者が持てた時代=高度成長期の表象であったといえる.

  • 中学校、高等学校について
    今井 英文
    セッションID: 508
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    学習指導要領における地歴連携の記述について報告する。

  • 中野 仁敬, 佐藤 裕哉, 冨田 哲治
    セッションID: P003
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    【緒言】2011年の東日本大震災以降,それまでよりも大規模な災害を想定した防災対策として,避難所等の設置や再配置,避難施設の見直しや新規建設などの取り組みが全国的に進められている.しかし,地理的条件(例えば,道路網の形状,人口分布,周辺地形)は地域ごとに異なるため,避難所および避難所の配置や避難経路の設定には様々な制限がかかり,避難所へのアクセシビリティの地域的差異が生じる.本研究では,市域が広く,都市部と山間部の特徴を併せ持っている浜松市を事例に避難所へのアクセシビリティを評価するとともに,各避難所への避難者数を踏まえた空間的な需要と供給のバランスを明らかにすることで,浜松市における防災対策の現状と課題ついて検討する.

    【資料と方法】本研究では,GISデータを利用する.まず,浜松市役所が公開する避難所情報より避難所の位置座標データを取得した.浜松市内の居住区の位置情報は,e-Statで公開される2020年度国勢調査小地域町丁・字等から得られる各居住区の代表点として町丁目の重心座標を利用した.道路網はOpenStreetMapからRoadタグのあるラインデータを抽出して利用した.道路距離および移動時間の算出には,池内・冨田(2021)および冨田・佐藤(2022)と同様なORSMに基づく経路探索システムを構築し,浜松市内の各居住区から避難所へのアクセシビリティを4つの指標(最近隣距離,累積機会,ポテンシャル,ガウス型2SFCA法)を用いて比較する.

    【結果と考察】本研究では,4つのアクセシビリティ指標を居住区ごとに算出し,ヒートマップとして地図上に可視化することで,各避難所への避難者数を踏まえた空間的な需要と供給のバランスを踏まえた検証を行った.4つの指標のうち最近隣距離とガウス型2SFCA法の結果を図1に示す.図1のヒートマップでは色が濃いほどアクセシビリティが良いことを示す.その結果から,最近隣距離,累積機会,ポテンシャルでは山間部はアクセシビリティが悪く,都市部ではアクセシビリティが良い傾向が認められたが,ガウス型2SFCA法では逆に山間部のアクセシビリティが良く,都市部ではアクセシビリティが悪いことが確認された.都市部では災害が起きたときに素早く避難ができ,避難できる場所の選択肢が多く,判断できるが,人口が多いため避難した際に受け入れてもらえないこと,混雑して避難が遅れるという事態を抱える可能性が高いことが考えられる.一方,山間部では都心部と違い避難所が少なく場所が限られ,距離があるため災害が起きた際に避難する時間が長く,状況に応じて避難先を変えることはできないが,混雑や受け入れ不可などの災害時の事態が少ないことが考えられる.

    【参考文献】

    [1] 池内希・冨田哲治 2021. 病児保育施設へのアクセシビリティに関する地域格差の定量的評価. 第80回日本公衆衛生学会総会予稿集.

    [2] 冨田哲治・佐藤裕哉 2022. 公的統計の利活用における,オープンGISデータおよびフリーツールの有用性と課題―病児保育施設へのアクセシビリティ解析を例に―. 統計研究彙報 79: 61-74.

    [3] 総務省統計局. e-Stat. e-stat.go.jp (最終閲覧日:2024年6月24日)

  • 三品 陽香, 田中 靖, 福井 幸太郎, 菅沼 悠介, 奥野 淳一
    セッションID: P051
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
    会議録・要旨集 フリー

    研究背景と目的

     立山は、火山活動と氷河変動の時期が重なっていることや多雪で氷河が多く発達していたことなどから、氷河研究が盛んに行われてきた地域のひとつである(川澄 2000)。その中でもかつての立山火山が形成した室堂山北側斜面では、ロッシュムトネと氷河擦痕の存在が報告されていたが(小泉・清水 1992)、詳細な調査は行われてこなかった。ロッシュムトネとは、氷河の侵食を受けて発達する岩盤が削り残された丘状の地形であり、形状の特徴や表面に残された氷河擦痕から氷河の流動方向などを復元するのに有用である(Benn and Evans, 2010)。本研究では、とくに室堂山地域のロッシュムトネの分布と氷河擦痕の方位について調査を行った。

    方法

     室堂山と国見岳の間にある氷食谷で現地調査を行い、39か所の擦痕方位を計測した(図1)。また、空撮ドローンとLiDARドローンによって地上解像度10 cmの数値標高モデル(DEM)と地上解像度1.7 cmのオルソ画像を取得し、ロッシュムトネの分布をマッピングした。

    結果

     現地調査により、擦痕方位はおおむね北~北北西向きであるものの、その場の微地形に沿う擦痕も存在することが確認された。擦痕方位は、基盤となる玉殿溶岩の流理とは異なった走向を示した。支尾根上にも擦痕が分布し、とくに東側斜面に多く残っていることが分かった。また、規模が数10 m程度の比較的大きなロッシュムトネは、標高2520 m~2580 m付近、約4万年前に噴出した玉殿溶岩上に多く分布をしていることが明らかになった。これは、立山火山付近で観察されるMIS2(海洋酸素同位体ステージ2)における立山亜氷期Ⅱ・Ⅲのモレーン位置よりも100 mほど高い標高にある。

    考察

     擦痕の分布とその方位から、氷河は①室堂平の方向へ流動しており、②地形面全体を覆う程度の大きさでありながら谷を掘り込んで地形を改変するほどの侵食力は持っていなかったことが示唆される。さらに、ロッシュムトネはおもに玉殿溶岩上に多く存在すること、モレーンよりも100 mほど高い位置に分布していることから、氷河の発達は4万年前以降であり、ロッシュムトネの形成時期は立山亜氷期Ⅱ・Ⅲに対応すると考えられる。

  • 岩田 修二
    セッションID: P019
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    2021年から製作を始め2023年末までに三つのジオラマを作った.作ったジオラマはいずれも,私が生まれ育った神戸市の港湾部を対象にしている.タイトルは ①私が生まれた町:兵庫の津と神戸市電700形,②兵庫港と国内海上交通,③神戸港海岸通りの三つである.その過程でジオラマ作成は地理学,とくに景観地理学の研究・教育に貢献できると考えるようになった.

  • 東南アジア・オセアニア
    田部 俊充
    セッションID: S101
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
    会議録・要旨集 フリー

    企画趣旨

    第46回日本地理学会地理教育公開講座のテーマは「世界地誌学習の新たな方向性-東南アジア・オセアニア―」である。これからの世界地誌学習の新たな方向性を,地理学,地理教育学,授業実践学をはじめとする多様な知見を交えて考えたい。共催:日本地理教育学会

  • 長谷川 直子, 平野 淳平, 三上 岳彦
    セッションID: P024
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに/研究目的・方法 長野県諏訪湖では冬季に湖水が結氷しその氷が鞍状に隆起する御神渡りと呼ばれる現象が見られ、その記録が580年にわたり現存している(石黒2001)。この記録には湖の結氷期日も含まれており、藤原・荒川によってデータベース化され(Arakawa 1954)その記録が長期的な日本中部の冬季の気候を復元できる資料として広く活用されてきた(Gray1974など)。表1:御神渡り記録の出典と期間表2:諏訪湖御神渡りデータベース暫定版の抜粋 しかしこれらのデータは複数の出典に分かれており(表1)、出典ごとに記載されている内容が異なる。そのため演者らはこのデータを均質的なデータとして全期間にわたって使用することは問題と考えている。出典毎にそれぞれ、観測・記録した団体が別々のものであったり、2次資料としてまとめられているものもある。表1に示した出典のうち1、2は諏訪史料叢書9に活字化されて残されているが、同時代には9に掲載されていない資料もある。活字化されていないものについては原本にあたる必要があるが、現在ではその原本が焼失などで所在不明なものもある。また、気候復元に広く活用されている表1の6は、データ編纂当時に入手できうる記録を全て統合してデータベース化されたものであり、このデータベースでは、それら1つ1つのデータがどの出典によるものかが明記されていない。そこで演者らは、活字化されていない資料も含めて、現存する原本を全て確認し、あらためて全てのデータの出典を明記する形でデータベースを作成した。

    2. 結果:データの出典による違い  データベースは1444年から2024年までで作成されているが、その中で特徴的な3つの時期のデータを表2に示す。表2a)1444-1682年は当社神幸記が出典の中心である。この文書は毎年の御神渡りの報告書を編纂しまとめたものであり、この編纂文書以外に大祝(諏訪大社の現人神で御神渡り記録の報告を受ける立場でもあり、奉行所に報告する立場でもあった)の日記に記録が掲載されている年もある。b)1683年からは記録の内容が大きく変わり、結氷日や御神渡り日が記載されていないが御神渡りの走向を確認した/御神渡りを外記太夫(諏訪大社の神官)に報告した日付のみが掲載されている。ただし同年の大祝日記に当社神幸記と同じフォーマットで結氷日・御神渡り日・報告日が掲載されている年もある(c)。記載内容が違うということは別々の観測が行われていた可能性が考えられるが、この時の大祝日記に記載されている情報の元となる観測体制がどうなっていたのかは記録がないため不明である。

  • 沖縄県への在日米軍基地の集中とその環境影響に対する問題意識に基づく考察
    廣瀬 俊介
    セッションID: 434
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    地方自治法は、地方公共団体が「住民の福祉の増進を図ること」を「基本」とし、「民主的で能率的な行政を図る」ことを目的とする。しかし、日本では、特に沖縄県への米軍基地の集中とその環境影響に見られるように、憲法に規定された地方自治の追求が国に制約される矛盾がある。沖縄県は、県民投票条例に基づく2度の民意の提示を含めて、米軍基地の集中による負担の軽減を求めてきているが、国は応じていない。2024年の第213回国会では、地方公共団体への「国の指示権」を含む改正地方自治法が成立した。国は、実質的に地方自治への制限を強めていると考えられる。

    近年の沖縄県での辺野古新基地建設による環境破壊や、同県と神奈川県、東京都の米軍基地周辺で高濃度の有機フッ素化合物、PFOS・PFOAが検出されたことから明らかにされた環境汚染は、人間の生存環境の侵害に当たる。これらの問題は、日本国憲法25条 (生存権) 、13条 (幸福追求権) に照らして検討されてきた環境権に抵触する。憲法の両条と、人間の生存環境の侵害を防ぐ環境権は、地方自治の基本とされる住民の福祉の増進の根本に位置する。環境権の保障は、人間が生態系から得る便益「生態系サービス」の保持から可能となる。

    こうした背景を踏まえて、本研究では、地方自治の独立性を保つ意義を、沖縄県への米軍基地の集中とその環境影響に対する問題意識に基づいて検討した。生態系サービスは、住民の福祉の増進ひいては人間の安全保障の基盤となり、地域の生態系サービスは各地で保持に努められる必要がある。このことは、地方自治の独自性を保つ重要な意義に数えられる。

  • 堀 和明, 丸山 愛太, 田村 亨, 石井 祐次, 清家 弘治, 中西 利典, 洪 完
    セッションID: P047
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    はじめに 波浪卓越型の沿岸域では,複数の浜堤と堤間湿地で構成される浜堤平野が発達する.日本の浜堤平野では,浜堤列が3列あるいは4列に大別され,その形成が完新世中期以降の海水準の微変動との関係で議論されてきた.2000年代に入ると,コア堆積物の堆積相解析や加速器質量分析装置を用いた放射性炭素年代測定によって,過去の海水準指標となる前浜堆積物の認定やそれを用いた相対的海水準変動の復元手法が提案されるようになった(増田ほか,2001).さらに,浜堤堆積物に含まれる石英や長石のOSL年代測定が世界各地で盛んになっている(Murray-Wallace et al., 2002).本研究では,海溝型地震の震源域近くに位置し,複数の浜堤が分布する仙台平野南部(阿武隈川以南)を対象に,平野の形成・前進と海水準変動との関係を議論する.

    方法 仙台平野南部に分布する浜堤の4地点(W1–W4)において掘進長各10 mのオールコアボーリング,また,9地点(MM1–MM9)においてサンドオーガを用いた堆積物採取を実施した.採取したコアは暗室において半裁後,写真撮影,CT画像撮影,色調,湿潤および乾燥かさ密度,帯磁率の測定をおこなった.10 cmごとに堆積物を篩い分けて礫・砂・泥の比率を算出し,砂について粒度を分析した.また,長石を用いたOSL年代測定,貝殻片や有機物の放射性炭素年代測定を実施した.サンドオーガで採取した堆積物についても,礫・砂・泥の比率の算出,砂の粒度分析,OSL年代測定をおこなった.

    結果と考察 コア堆積物は層相にもとづき,下位から下部外浜,上部外浜,前浜・後浜,耕作土に区分した.前浜・後浜堆積物からは,W1で約6 ka,W2–W4で約4000–1000年前のOSL年代が得られた.貝殻片の放射性炭素年代はOSL年代に比べると古い年代を示した.また,MM1–MM9のOSL年代はW1–W4のOSL年代と調和的であった.下部外浜上端付近から前浜・後浜にかけての堆積は数百年以内に生じており,堆積が急速に進んだことが推定される.さらに,W2からW4の堆積曲線の傾きに大きな差がないことから,1000年オーダーでは,4000年前以降,海浜の縦断形がほぼ一定の状態で海岸線の前進が生じたと考えられる. 前浜・後浜と上部外浜堆積物との境界は,最も陸側のW1では標高1.2 mだが,W2で−1.39 m,W3で−1.54 m,W4で−1.91 mとなっており,W1は他地点に比べて高い.仙台平野北部において,前浜・後浜と上部外浜堆積物との境界は,W2からW4と同様に現海水準下に認定されており(Tamura and Masuda, 2005),海水準とくに低潮位付近に形成されると考えられることから,W1とW2–W4との間にみられる標高差を生じさせた要因として,次の二つの可能性,1)W1形成後のユースタティックな海水準低下,2)陸側が海側に比べて隆起するような地殻変動の発生(海水準の相対的低下),が挙げられる. ユースタティックな海水準は,完新世の中では現在が一番高いと推定されている(Lambeck et al., 2014)ことから,1)の可能性は低い.2)に関して,グレイシオハイドロアイソスタシーを考慮した相対的海水準変動の推定(Okuno et al., 2014)によると,仙台平野では6 ka頃に海水準が現在に比べて約1–3 m高い位置に達し,その後,徐々に低下している.したがって,グレイシオハイドロアイソスタシーが標高差に影響している可能性はある.岡田ほか(2017)は,仙台平野南部において反射法地震探査や重力探査を実施し,低地下にC級の伏在活断層が存在することを明らかにしている.そのうちの一つであるF1断層浅部は,W1とW2の間に位置しているため,断層運動にともなう変位が標高差に寄与している可能性もある. 一方,仙台平野北部において,有機物や貝殻片の標高・放射性炭素年代値にもとづいて推定された海水準変化図(小元・大内,1978)では,6000 14C yr BPの高海水準は認められておらず,海水準は小さな振動を繰り返しながら現在に達している.今後,地殻変動やその地域差,地殻変動の要因についてさらに検討する必要がある.

  • 田部 俊充
    セッションID: 535
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    田部は現地調査と文献調査により,新たな建設ブームにわくニューヨーク市の再開発,まちづくりの現状を①超高層建築物の増加と垂直化,②人口・人種別人口・通勤人口の変化,③SDGsに配慮したまちづくり,の3点に整理した(田部2024).ブルックリン北部のBushwick Inlet Park周辺では,高級な共同住宅の開発と都市の緑化がパッケージ化されたグリーンジェントリフィケーションが起こった(Gould and Lewis 2017,藤塚2024).本研究では,ブルックリン西部にあるIndustry City の再開発とゴワナス運河,Bushwick Terminal Parkのグリーンジェントリフィケーションの現状について報告した.

  • 仙石 和正, 高橋 日出男
    セッションID: 204
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    “寒気せき止め現象(cold-air damming, CAD)”とは,山脈の東側沿いに,北風を伴いながら幅100 kmスケールのまとまった寒気層が発達する現象である.CADは関東平野で時折発生し,首都圏での降雪や沿岸域での大雨などに関わることがある.

     CADは,従来から“山脈が冷たい東風をせき止める現象”として知られてきた.一方で,CAD出現時の関東平野では地上で北~北西風が卓越する場合も多く,大気構造は従来の認識と必ずしも整合しない.そこで本発表では,CAD出現時の関東平野における地上風系をもとにCADの構造の多様性を議論する.

     まず,5地点の気象官署(福島・高田・熊谷・銚子・静岡)の時別気温,気圧観測値を用いて,1991~2020年から計387事例,8,047時間のCAD出現時間帯を抽出した.次に,関東平野のAMeDASの時別風観測値を用いたクラスター分析によって,CAD出現時の地上風系を類型化した.そして,客観解析データを用いた合成解析や,季節・時刻・降水の有無に対する出現頻度の統計分析を行った.

     CAD出現時の地上風系は,3つに類型化された.各類型の関東周辺における地上気温・気圧・風の場の合成解析結果(図1)によると,北東風が関東北東沖から内陸地域へ侵入する構造(北東風型,16%),北東風が平野東・南部まで及ぶ構造(中間型,47%),北~北西風を伴う低温な内陸寒気が,平野のほぼ全域を覆う構造(内陸寒気型,37%)が認められた.

     統計分析結果によると,内陸寒気型は寒候期に多く現れ,とりわけ夜間や降水時といった,陸面で寒気が維持されやすい環境で高頻度である.

     以上の結果から,冷たい東風よりも強力な寒気が山脈東側で発達している状況で,従来の認識と異なる構造である内陸寒気型CADが現れると考察される.

  • 兵庫県の西播磨・但馬・淡路地域を事例に
    久井 情在
    セッションID: S402
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    今日,地方移住への政策的な関心が高まっている。国家レベルでは,東京一極集中の是正策として注目されている一方,市町村のレベルでは,移住者の奪い合いという面があり,特に近接する市町村間での競合関係が強くなると考えられる。このような中で,都道府県をはじめ両者の中間に位置付けられるスケールの主体はどのような役割を果たしているのだろうか。この問いの解明を目的に,本研究では,兵庫県,県庁の出先機関,ならびに県下の市町が設置する移住相談窓口についての事例調査を行った。

     地方自治体の移住促進施策は多岐にわたり,そこには,住宅政策,就業支援,子育て支援など,既存の政策領域を移住希望者にアピールする形で展開されるものも含まれる。移住相談窓口の設置は,そうした他の政策領域に還元されない施策であり,かつ多くの自治体で取り組まれていることから,移住促進施策の代表として取り上げる。また兵庫県は,移住相談窓口を,県本庁のみならず,出先機関「県民局(一部の地域では県民センター)」の一部でも設置していることから,中間スケールでの移住促進施策の意義について考察する事例として適した地域だと考えられる。そこで本研究では,兵庫県の全10県民局・県民センターならびに全41市町を対象に,移住促進施策について尋ねるアンケート調査を行い,その結果移住相談窓口の設置を確認できた県民局や市町に対して,インタビュー調査を行った。

     アンケート調査によると,兵庫県の全41市町のうち,32市町が移住相談窓口を設置しており,そのうち11市町で運営を外部に委託している。窓口を設置していない市町は阪神地域や東播磨地域といった,大都市圏郊外地域に見られる一方,窓口を外部委託している地域は,但馬地域や丹波地域などの北部で目立つ。外部委託には,休日対応やノウハウの蓄積が可能になるといったメリットがあり,その自治体が移住促進に力を入れていることの表れと見ることができる。県民局・県民センターでは,北播磨,西播磨,但馬,淡路で移住相談窓口が設置されており,このうち北播磨を除く3県民局で外部委託がなされている。

     外部委託を行っている西播磨,但馬,淡路の3県民局の移住相談窓口は,東京や大阪で開催される,全国的な移住促進イベントにブースを出展することが多い。こうしたイベントでは,移住促進に力を入れている市町もそれぞれブースを出すが,参加が難しい市町であっても,県民局のブースを通じて,移住希望者とのつながりを持てる可能性がある。特定の県民局のみで行われている取り組みもあり,西播磨県民局では,空き家バンクが運営され,移住の重要な誘因として位置づけられている。市町の多くも空き家バンクを運営しているため,西播磨地域には空き家バンクが二重に存在することになる。一方,但馬や淡路では,空き家バンクはもっぱら市町が担い,県民局は関与していない。淡路県民局では,移住者への支援等の施策を淡路地域の3市で比較することのできるリーフレットを作成しており,県民局だけでなく,市の移住相談窓口でも活用されている。以上を踏まえると,県民局の設置する移住相談窓口は,移住促進施策を十分にできない市町を補完する役割を果たしているといえるが,県民局と市町は必ずしも連携しているわけではなく,並行して存在している状態に近い。特に,すでに一定程度移住促進に取り組んでいる市町にとっては,あまり意義のある存在とは映らないかもしれない。しかし,このことは,地方移住の性格を考えると,不合理ではないのかもしれない。東京圏出身者がさまざまな「地方」から移住先を選ぶにあたっては,偶然や属人的な要素が大きいと考えられ,それを促すには多様な主体が関与するほうが望ましいと考えられるからである。移住相談窓口において,兵庫県の県民局は,市町の役割を補完しつつも,ある意味では市町と同格の存在として地方移住全体の促進に貢献しているとみることができる。

  • 杜 国慶
    セッションID: S304
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    中国の改革開放政策の成果として,経済力の向上が良く注目されている。経済力の向上によって,可処分所得が増加し,人々は衣食住だけの基本生活には満足せず,非日常的な体験を求めて観光にも金銭を費やすようになり,収益を追求する経済活動による人の移動に加わって,所得を処分する移動の観光が活発になってきた。観光は観光の主体の観光者と客体の観光資源と施設,そして観光政策の3つの要素に構成されている。本研究は観光の主体の観光者数の変化に注目し,統計データの分析に基づいて中国の観光発展とその空間構造を探る。

  • 中條 曉仁
    セッションID: 413
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
    会議録・要旨集 フリー

    近年,地域社会とともにあり続けた寺院が消滅していくとする指摘がなされている。一般に,寺院はそれを支える「檀家」の家族に対する葬祭や日常生活のケアに対応することを通じて地域住民に向き合ってきた。しかし,過疎地域といった人口減少地域を中心に家族は大都市圏へ他出子を輩出して空間的に分散居住し,成員相互の社会関係に変化を生じさせているため,「墓じまい」などの諸事象が出現している。それは潜在的にも,顕在的にも檀家の減少をもたらしており,やがて寺院の統廃合を惹起させる事態に至る。こうした事態は現代家族の変化を反映するものであり,寺院の動向を追究することによって地域社会や家族をめぐる地域問題の特質に迫ることができると考えられる。本報告では,人口減少が継続的に進んでいる過疎山村における寺院の統廃合に注目して,寺院が消滅することへの地域社会の対応とその要因を検討する。

     発表者は,中山間地域など人口減少地域に分布する寺院をとらえる枠組みを,住職の存在形態に基づいて時系列で4段階に区分し提起している。住職の有無に注目するのは,住職の存在が寺檀関係(寺院と檀家との社会関係)の維持に作用し,寺院の存続を決定づけるからである。

     第Ⅰ段階は専任の住職が常住しながらも,空間的分散居住に伴い檀家が実質的に減少していく段階である。第Ⅱ段階は檀家の減少が次第に進み,やがて専任住職が代務(兼務)住職となり,住職や寺族が寺院に居住しなくなる「無居住」の段階である。第Ⅲ段階は,代務(兼務)住職や在村檀家も高齢化等により当該寺院の管理を担えなくなるなどして放置され,建造物が老朽化して「荒廃化」する段階である。そして,第Ⅳ段階は荒廃の状態が長らく続き,建造物も朽廃して「青空寺院化」し「廃寺」となる段階である。

     このうち,本報告では第Ⅳ段階にある「青空寺院」から「廃寺」となった寺院を対象とする。現代の山村においては宗教法人の煩雑な解散手続きまでには至らずに,少数かつ高齢となった檀家による管理が滞り,建造物や境内が荒廃し放置された青空寺院が増加し続けていると考えられる。こうした青空寺院は不当に法人格が取得され,悪用される危険性がある。宗教法人を管轄する文化庁においても,包括法人である宗派組織に対して青空寺院の管理を徹底するよう求めている。こうした中で,島根県石見地方の山村を事例に,檀家集団たる地域社会がどのように青空寺院と廃寺の問題を処理してきたのか,そして新たに檀家集団を再構成したのかを検討したい。

     資料の得られた浄土真宗本願寺派・曹洞宗・日蓮宗における寺院(宗教法人)の統廃合の実態を確認する。比較可能な1980年代以降をみると,2010年以降,解散や合併に至った寺院が顕著に増加していた。地域的には,80年代から過疎の進行した地方圏で目立っていたが,2000年以降は大都市圏にまで拡大している。ただ,宗派によって寺院の分布は異なるため,寺院が集積する地域ほど統廃合件数が増える傾向にある。

     事例として取り上げたA寺は同町上田地区にあり,1988年に住職が死去後,後継者も確保できていなかったことから,自動車で1時間離れた親族が代務住職に就任し,未亡人とともに運営されてきた。しかし1997年には未亡人も死去して無居住化し,代務住職も高齢でA寺との往来に困難が生じたため,同地区のB寺住職に交代した。その間にも大雪や野生動物によって本堂などの建造物は損傷し,修復費用の捻出も困難なために放置され朽廃化が進んだ。年中行事は集会所を利用するなど維持が図られたが,2013年にA寺は解散となった。ただ放置された建造物はそのまま残存していたため,元A寺門徒の人々が共同で機材を持ち込んで解体し,跡地に記念碑として鐘楼を建立した。また寺檀関係については,集落単位で組織される「化教寺(けきょうじ)」の所属が問題となったが,元A寺総代の働きかけもあって全戸がB寺へ移行し,ローカルな門徒集団の維持が図られた。

     対象地域の旧羽須美村上田地区では,営農組合を組織して高齢者農家のサポートを担ったり,棚田の保全活動を実践して都市住民との交流を展開するなどし,高齢社会化は進んでいるものの,地域社会は相対的にも活発に機能しており,A寺のアーカイヴや門徒集団を維持するための取り組みが進められた。

    門徒集団を構成する地域社会が維持されているにもかかわらず,A寺が廃寺になった背景を検討すると,後継者の確保や代務住職の選任のありかたといった寺院側に依拠した要素が作用していると考えられる。前者は浄土真宗寺院における住職後継システムの問題,後者は宗派内の寺院間関係の問題が指摘され,地域性に加え宗派性の問題が浮き彫りとなった。

  • 林 哲志
    セッションID: 407
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    1.はじめに

     渥美半島は愛知県の最南部に位置し,東西に延伸する半島で,その先端が伊良湖岬である。今回のフィールドである「旧伊良湖村」は分村や合併を経て,1906(明治39)年に伊良湖岬村が成立するまで,伊良湖岬一帯を行政範囲とした自治体であった。

     この年,伊良湖村では陸軍技術研究所伊良湖試験場が拡張されるため,唯一の集落を含む村域の西側が用地として買収された。そして,「買上代金」と「移轉料」(以下,移転料と記す)を受領して全戸が移転を完了した。この事務手続きを進めるために陸軍省は『明治三十七年 買収地及附属物件調書綴 渥美郡伊良湖村控』(伊良湖自治会所蔵)を作成した(以下,『調書綴』と記す)。

     『調書綴』には,この範囲に住む,または土地を持つ「所有者」全員について,土地の買上代金と立退きに対する移転料が記された「調書」が綴られている。本研究では,移転料に該当する物件を指標にして,所有者の「郡村宅地」の位置情報をふまえて,それぞれの物件の所有状況から集落の特徴を考察するものである。

    2.考察方法

     移転料が発生する所有者(民間人)の実数は109人である。この所有者に対する移転料は,「建物」に該当する物件として,「居宅」など合計316個のデータが抽出できる。建物は全て,その面積(坪数)と移転料が記されているので,面積あたりの単価が算出できる(石垣も同じ)。一方,「附属物件」は,個数と移転料が記されているため,1個あたりの単価が算出できる。よって,建物,附属物件ともに,等級や規模も推定が可能である。

     また,屋敷の位置情報を表すため,郡村宅地の地番からその位置を推定して,「旧伊良湖村の集落の位置と屋敷の配置」を作成した。ベースの空中写真は,1944(昭和19)年12月10日に米軍の偵察機が撮影した米国国立公文書館所蔵で,そこには集落跡が明瞭にみられる。その上に1884(明治17)年調の「渥美郡伊良湖村地籍字分全図」(地籍図 愛知県公文書館所蔵)から,郡村宅地の位置と区画をトレースしたレイヤーを載せた。

     そして,地理院地図や自治体の地理情報サービスのWebページから閲覧できるデータ(DEM5Aなど)を利用し地形や地質,海岸・海洋に関する情報を入手した。そして,最新の文献からの情報や,参与観察によって得られた聞き取りデータも参考にした。

    3.結果の概要

     集落の特徴をみるために,3つの地区に大別して物件の所有状況を捉えた。建物については,居宅は全てにあるが,厠・便所,土蔵,網納屋などについて,地区ごとの特徴があった。また,石垣についてもその規模を含めて,地区ごとに異なる特徴があった。その他の附属物件は,甕と井戸・井がほぼ排他的であった。このことは,海岸からの距離とそれぞれの地区の標高や背後の地形などの要因と,屋敷(地区)が展開した時期,産業との関わりなどの要因が関係していると考えられる。そして,3つの地区を総括することが,この集落の特徴を考察するうえで有効な視点となる。

  • 吉井 潤
    セッションID: 613
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    1.研究の背景

     2024年4月30日東京新聞朝刊3面によると,「全国1,741市区町村のうち書店が1店舗もない自治体が2024年3月時点で482市町村に増え,全体の27.7%に上ることが出版文化産業振興財団の調査で分かった」とある.年々,書店数は減少傾向である.昨年は,著者,出版社,書店と図書館との共存・共栄による新たな価値創造を推進するために,「書店・図書館等関係者における対話の場」が設置された.また,経済産業省が書店振興に向けたプロジェクトチームを3月に設置した.

     読書環境の整備として,山梨県では,平成24年度に山梨県立図書館が甲府駅北口に移転開館するのに伴い館長に就任した阿刀田高氏(現名誉館長)が提唱した「親しい人に本を贈る習慣の定着を」という考えに基づき,平成26年度から「やまなし読書活動促進事業」を実施している.この事業は主に①贈りたい本大賞(県立図書館),②やま読ブックフェア(生涯学習課)③やま読ラリー(県内書店)を行っている.やま読ブックフェアは,秋の読書週間に合わせて開催し,県内の図書館や書店が統一したテーマで本の魅力を発信している.やま読ラリーは,読者が,開催期間中に図書館1館で貸出,異なる3店舗の書店でそれぞれ税込み1,000以上購入でスタンプを押してもらうことができ,合計4つのスタンプを集めると,書店で景品(オリジナル甲州印伝しおり)をもらえる.景品は全店合計1,000枚で各書店への配布数が無くなり次第順次終了となる.

    2.研究の目的

     「やまなし読書活動促進事業」は10年目を迎えた.令和元年度に第13回高橋松之助記念「文字・活字文化推進大賞」を受賞し,一定の評価を得ている.県のウェブサイトには事業概要は把握できるが参加状況,やま読ブックフェアのテーマの決め方,やま読ラリー等の状況は掲載していないことから,図書館と書店の在り方や図書館と書店の立地等を考える際に事例を整理することは有益であると考える.そこで本研究の目的は「やまなし読書活動促進事業」の特にやま読ブックフェアとやま読ラリーについて明らかにすることである.

    3.研究方法

     2024年6月3日に山梨県立図書館,6月7日に山梨県教育庁生涯学習課に「やまなし読書活動促進事業」について質問紙調査の依頼を行った.7月2日に回答と参考資料を受領し,翌日に山梨県教育庁生涯学習課にインタビュー調査を行った.

     4.調査結果

     「やまなし読書活動促進事業」に参加した書店は,この事業で図書館や行政と一緒に取り組むことで図書館について知ることができた.他の書店と知り合うことができ,刺激になり頑張ろうと思った.自分の店舗だけでは何かを企画することはできないが,「やまなし読書活動促進事業」のイベントをお客さんに紹介することができ楽しんでもらえるようになったという.

     県として「やまなし読書活動促進事業」の課題は,事業に県民全体を巻き込んでいくため,読書・本に関わるあらゆる関係者がやま読に参加できるよう取り組みを広げることである.

     やま読ブックフェアのテーマは,県内公共図書館関係者,やまなし読書活動促進事業実行委員・サポーター,各書店,大学サークルを中心に行った事前アンケート等を参考にし,担当がやまなし読書活動促進事業実行委員会で提案し,決めている.

     やま読ラリーの令和5年度の参加図書館は44館,書店は24店舗だった.景品は,期間終盤に配布か完了した.景品が入っている袋に,任意で回答するアンケートのQRコードがあり,151名から回答を得ていた.回答者151名に限るが小学生未満から高齢者まで幅広く参加していた.回答者の居住地は甲府市が41.7%と最も多い.ラリーを知ったのは書店が70.2%と最も多く,スタンプカードの入手も書店が70.9%と最も多かった.

     5.考察

     「やまなし読書活動促進事業」が10年続いているひとつに実行委員会の構成員に特徴があると考える.県内の図書館や書店だけではなく,大学サークル,大手取次,東京都内の出版社等多様なメンバーが入っている.一方で,やま読ラリーのアンケートから参加者は,甲府市等,書店や図書館がある地域に偏っている可能性が推察される.

     6.今後の研究に向けての問題・課題

     やま読ラリーの各図書館のスタンプの押印数や書店の売り上げの増減についてのデータは,実行委員会によると「読者が図書館や書店を「知の回遊」することで,それぞれの館・店の個性を感じ,大切な一冊との新たな出会いや,読書の楽しみを広げる機会となることを目的」としていることから集計は行っていない.よって,開催期間中の図書館と書店の人の流れについて把握する方法を考え分析することは,事業成果の確認と更なる発展に向けた検討が行える.これは,図書館と書店が共存した県民への読書環境を意識したまちづくりにつながると考える.

  • 村山 徹
    セッションID: P015
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    本研究では,愛知県犬山市と岐阜県可児市を事例に,県境を越えるトレッキングコースの整備に注目する。具体的には,犬山市と可児市それぞれにおいてトレッキングの環境整備を担う地域運営組織の取り組みの現状や課題についてまとめ,くわえて,木曽川中流域の越境地域における観光振興のための自治体間連携についても取り上げ,もうひとつの観光の実現を念頭にその可能性について検討する。

  • 高木 優
    セッションID: S106
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    1.はじめに

    平成29(2017)年と平成30(2018)年にそれぞれ,中学校と高等学校の学習指導要領が改訂され,必履修科目の「地理総合」と選択履修科目の「地理探究」が高等学校に創設された。その結果,中学校社会科地理的分野から「地理総合」,「地理探究」と中高を接続した地理学習が可能となった。平成30年告示の高等学校学習指導要領(文部科学省,2018a)にも,中学校社会科を意識した説明が見られる。そこで,「中学校社会科」,「地理総合」,「地理探究」の実践を踏まえた,事例地域を東南アジア・オセアニアとした学習例について報告する。

    2.中学校社会科

    平成29年告示の中学校学習指導要領(文部科学省,2017)の「中学校社会科地理的分野」では,アジア,ヨーロッパ,アフリカ,北アメリカ,南アメリカ,オセアニアと州ごとに,空間的相互依存作用や地域などに着目して,主題を設定して課題を追究したり解決したりする学習が示されている。そのため,中学校では世界の諸地域は,州単位で学習される。今回の事例地域である東南アジアは,アジア州の単元の一部として学習される。例えば,東南アジア諸国連合(ASEAN)の結成を踏まえた経済発展とそれに伴う経済格差,その経済格差による安い賃金の労働力を求めた外国企業の工場進出が扱われることが多い。一方,今回のもう1つの事例地域であるオセアニアは,オセアニア州として1つの単元として学習される。その内容は,ヨーロッパの植民地としての移民による開拓と1970年代以降の移民政策の変更に伴う,多文化社会への変化という歴史的背景を踏まえ,旧宗主国とのつながりから,アジア太平洋経済協力(APEC)諸国とのつながりへの変化について扱われる。また,APECの中でもアジア諸国とのつながりによって,農産物の生産や鉱産資源の採掘などの産業が発展したことが学習されている。

    3.地理探究

    平成30年告示の高等学校学習指導要領(文部科学省,2018a)の「地理探究」では,中学校社会科地理的分野の「世界の諸地域」の学習における主に州を単位とする取り上げ方とは異なることと示されている。 4.地理総合 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 地理歴史編(文部科学省,2018b)の「地理総合」では,事例地域を扱う際に注目すべき点として,次の記述がある。 ここでの学習は国際理解を主なねらいとしており,学習対象はあくまで「世界の人々の特色ある生活文化」であって,すでに中学校社会科地理的分野において州ごとに「世界の諸地域」を学習していることを踏まえれば,ここでの学習がその繰り返しとならないよう,また,「地理探究」における「現代世界の諸地域」の学習とも重複することのないよう,厳に留意する必要がある。 そこで,中学校社会科地理的分野の学習と高等学校「地理探究」での学習と重複することがないように留意し,地域の環境条件と地域間の結び付きの視点で,生徒が「見方・考え方」を働かせる場面を設定した実践例を紹介する。

    文献

    文部科学省(2017):『中学校学習指導要領(平成30年告示)』.文部科学省 文部科学省(2018a):『高等学校学習指導要領(平成30年告示)』.文部科学省 文部科学省(2018b):『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 地理歴史編』.東洋館出版社

  • 久保 俊輔, 冨田 哲治
    セッションID: P002
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
    会議録・要旨集 フリー

    1.緒言

     豊かな自然資源に恵まれているマダガスカルは,世界で最も貧しい国の一つであり,生計に必要な燃料・住居・医療・食糧生産を森林に依存している.米を主食とするマダガスカルでは焼畑農業による土地転換が行われ,森林が減少している.マダガスカルで3番目に大きさであるイタジー湖の周辺地域は重要な稲作地域の一つである.湖周辺の土地転換に起因する堆積物の増加は,マダガスカルの豊かな森林資源と水産資源を脅かしている.そのため,土地転換が堆積に与える影響を評価することが必要である.深刻な堆積は,湖底の上昇による洪水の発生や,湖の大きさを減少させる可能性がある.そのため,湖岸線を経時的にモニタリングすることは,堆積の評価に有用である.Konoshima et al.(2021)は,衛星画像から湖岸線とその周辺の土地利用のデータを収集し,変化係数(Hastie and Tibshirani(1993))を用いたロジスティック回帰モデルにより,イタジー湖の面積に対する周辺の土地利用の影響を評価した.しかし,変化係数の時間変化は単純な線形であったため,雨季と乾季による湖面の経時変化を考慮していない.本研究では,ベースとなる湖岸線の経時変化に非線形性を想定したモデルに基づく土地利用の影響評価を試みる.

    2.資料と方法

     Konoshima et al.(2021)では,湖岸線の過去のスナップショットを取得するために,Google Earthを通じて入手可能な衛星画像を利用し,その画像アーカイブから10時点の観測データを取得した.湖岸線とその周囲の陸地との交差部分を抽出し,湖周辺の土地利用の影響を分析するため,これらの交差部分の土地利用を湖,草原,農地,および水田の4つに分類した.200m四方のグリッドセルモデルで湖岸線の変化を推定するため,時点tでグリッドiが湖であるかどうかを目的変数としたロジスティック回帰モデルを適用した.説明変数には,初期時点でグリッドiの隣接グリッドの土地利用が草原,水田,農地を含むかどうかのダミー変数を用いた.本研究では,ベースとなる切片項の経時変化に非線形構造を導入することで,雨季と乾季の影響をモデル化し,変化係数の経年変化には線形構造を仮定する.観測時点でマッチングした条件付きロジスティック回帰(例えば,早川ら(2017))を用いることで,切片項の構造を特定することなく変化係数の経年変化を推定する.説明変数には,Konoshima et al.(2021)と同様な隣接するグリッドの土地利用ダミー変数を用いた.

    3.結果と考察

     本研究では,湖周辺の土地利用が湖岸線の経年変化に与える影響を分析するために,変化係数を用いたロジスティック回帰モデルを適用した.その結果,隣接グリッドの土地利用が草原と農地の場合は,経年的に湖はなくなる(つまり,湖岸線が縮小)傾向を示した.1年あたりのオッズ比は,草原が約0.93倍,農地が0.92倍であった.一方,隣接グリッドの土地利用が水田の場合は,経年的に湖を維持する傾向を示し,その1年あたりのオッズ比は約1.04倍であった.ただし,いずれの傾向も有意性は認められなかった.その理由として,調査期間が10年と比較的短いため,湖岸線の変化が限定的であったことが考えられる.

    参考文献

    Konoshima, et al. 2021. Assessing the impact of immediate surrounding land uses on the extent of freshwater body over time in Madagascar –A demonstration case study of Itasy lake–. FORMATH 20: 1-11.

    Hastie, T., Tibshirani, R. (1993) Varying-coefficient models, J. Roy. Statist. Soc. Ser. B, 55: 757–796.

    早川・川崎・下川 2017. データ解析のためのロジスティック回帰モデル. 共立出版.

  • 東南アジア・オセアニア
    井田 仁康
    セッションID: S102
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    世界地誌学習の課題 地誌学習は、日本の地理教育の学習内容の中核であった。地誌、特に世界の国々を扱う地誌は、子どもたちに世界への興味をわきたて、世界の情勢を知るうえでも基本的な知識を提供してきた。一方で、こうした子どもたちに興味を喚起する知識の提供は、知識の押し付けとも捉えられ、暗記科目として批判の対象ともなっていた。さらに、世界的に地理学習が、知識の提供から探究へとシフトし、資料から考察することが学習として重視されるようになった。すなわち、子どもたちの受け身の学習から能動的な学習への転換が世界地誌学習にも求められるのである。 探究としての学習にするためには、子どもたちが主体的に学習に取り組み、地理的見方・考え方といった観点から自ら知識を構築していく、すなわち考察のプロセスが必要である。その考察のプロセスを、東南アジア・オセアニアの地誌学習において提案したい。 考察のプロセスに基づいた地誌学習の流れ 考察という用語は多岐に解釈できる。本稿では、課題を設定し、その課題を地理的な見方・考え方に着目して、探究していくことを考察と定義する。さらに、学習の流れのプロセスも、考察のプロセスとして含める。すなわち、考察のプロセスは、課題把握、資料収集、分析・解釈、価値判断・意思決定、参画といった学習のプロセスと、地理的な見方・考え方といった地理としての思考の観点を含んだものとなる。さらに、世界地誌学習を世界の地域区分から始めることにより、多角的・多面的な世界像を構築できると考える。考察のプロセスに基づいた地理学習の流れは、学習のプロセス、学習内容、着目する地理的な見方・考え方から、①から⑥に整理することができよう。 3.考察のプロセスに基づいた地誌学習 まずは、導入的な役割として、①の世界の地域区分をおこない、何を指標とするか(何を目的とするか)で地域区分が異なることに気づかせる。貿易、地域協力という観点からは東南アジアとオセアニアを1地域としてみることができる。②東南アジア・オセアニアの地域構造の変化を「場所」という観点から明らかにし、探究すべき課題をみいだす。③課題解決のための資料を収集し、④産業構造が変化した過程やそれを可能にした要因を分析・解釈し、⑤地域の変容という観点から課題の解答をみいだし、今後を展望するとともに⑥東南アジア・オセアニア地域の特性を把握し、自分たちとのかかわりを考察する。こうしたプロセスの授業で世界地誌を学習することも必要となろう。

  • 三浦 エリカ, 久保 純子
    セッションID: 332
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    Ⅰ 課題設定と研究目的

     横須賀市は三浦半島に位置し、平地が少なく起伏に富む丘陵地が大部分を占めている。相模トラフ地震や首都直下地震では、東京湾・相模湾に面しており津波災害も懸念される。また、急傾斜地では、土砂災害がたびたび発生し、中小河川の水害も発生している。加えて、高度経済成長期頃から宅地開発に伴う丘陵地の大規模地形改変がすすんだ地域であるため、地震や豪雨による地盤災害も想定され、複合的な自然災害リスクを抱えている。 2020年の国勢調査によると、横須賀市の総人口は388,078人で高齢化率は31.9%である。これは首都圏の中でも、神奈川県全体の25.7%や東京都の22.9%と比較しても高い値である。そのため、災害時の避難において、高齢者を配慮した避難計画の重要性が指摘できる。以上のような横須賀市の自然・人文条件を踏まえ、本研究では、津波および土砂災害を中心に、地域ごとの住民の避難課題について明らかにすることを目的とする。

    Ⅱ 方法

     本研究では2つの方法からアプローチを行う。1つ目は、各種災害リスクとして津波・洪水・土砂災害などのハザードマップが公表されているため、それらに宅地造成による地形改変や町丁目別人口、土地利用、避難場所の立地などを加え、GISを利用して総合的なリスク評価を行う。2つ目は、住民の避難課題について、町内会関係者(町内会長・町内会加入者)・市役所・地域包括支援センターへのヒアリング調査から明らかにする。また、高齢者の避難を想定した避難経路や所要時間の検討も行う。

    Ⅲ 主な災害リスク

     東京湾側では人口が密集し、津波と急傾斜地の崩壊リスクが高い。また、久里浜の平作川周辺の低地では津波や洪水、高潮の浸水リスクが高い。相模湾側では、小田和湾沿いに5.0m以上の津波が想定されている他、西部には地すべり地形がみられる。大規模宅地造成は、西部と三浦市との境界部を除くほぼ全域に分布している。

    Ⅳ ヒアリング調査

     横須賀市は10地区に区分されるが(図1)、今回は田浦地区・本庁地区と西地区の秋谷と久留和地区等でヒアリング調査を行った。田浦地区では谷戸が多く、急傾斜地の崩壊特別警戒区域が広いため、避難路が塞がれてしまうのではないかという懸念があった。本庁地区では避難場所に観光客が押し寄せることによって、住民が利用できないことへの不安を抱いていた。また、東京湾側では高い津波が来ないと考えている人が一定数いることが明らかとなった。西地区の特に久留和地区では、海岸に斜面が迫り、津波と地すべりのリスクがある。海岸線沿いの国道は津波浸水範囲内で渋滞も予想されるため、車での避難が難しい。一時避難地は津波浸水範囲内にあり、かつて整備され使用されていた尾根を通る道路も、現在は使われておらず、災害時に使用できない。また、秋谷地区では隣の葉山町などが観光地になっているため、観光客の避難の誘導も課題となっているという指摘があった。4地区共通の課題としては、要配慮者の避難支援者が確保できないことや、若い世代の町内会加入率が低いことがある。

    Ⅴ 今後の検討事項

     田浦・本庁地区と秋谷・久留和地区では津波・土砂災害等の避難経路の実地調査を行う。また、宅地造成に伴う大規模地形改変地における盛土の厚さマップを作成し、湘南鷹取やハイランドなど大規模造成地エリアや平作川低地での避難経路についてもヒアリングと実地調査を行い、地域ごとの課題を明らかにする。

    参考文献・資料

    横須賀市『地域防災計画本編』(令和5年度  改定)

    横須賀市『令和2年国勢調査結果報告 1.結果の概要』

  • 金 曙姸, 佐藤 裕哉, 冨田 哲治
    セッションID: P004
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    1.緒言

     平成30年7月,広島県では警戒レベル4が発令された豪雨災害が発生した.その後,江戸ら(2018)によるアンケート調査の結果,避難行動は6.1%であった.つまり,警戒レベルに対する理解度は高いが,実際の避難行動には繋がっていなかったことが明らかになった.この結果から,災害時の具体的な避難行動のイメージが不足していると考える.

     広島県の各自治体では,河川氾濫により浸水する可能性が高い地域のハザードマップを公開している.このハザードマップは,浸水深が0.5m,0.5~3m,3~5m,5m以上となる地域を示すものだが,浸水深では実際の避難の大変さが想像できない.そこで,これを避難時間で示すとわかりやすいと考える.また,各自治体が公開するハザードマップは,静的なハザードマップである.本研究では,災害時に実際に避難可能な経路と避難に要する時間に基づく動的なハザードマップを作成し,情報として提供する必要があると考える.そうすることで,避難に要する時間が平時に比べ,災害時は大幅に長くなることを事前に知ることができ,安全なうちに早めの避難行動を促すことができると考える.以上を踏まえ,本研究では,オープンデータを活用して作成した,動的なハザードマップの活用可能性について検討する.

    2.資料と方法

     広島県インフラマネジメント基盤(DoboX),OpenStreetMapとe-Statのデータを利用した.DoboXより,都市計画法に基づく都市計画基礎調査結果(建物利用現況:広島市),広島県の各市町の地域防災計画等に記載されている避難所情報,元安川が氾濫した場合の浸水想定区域(計画規模)情報を取得した.道路網は,OpenStreetMapより,Roadタグのあるラインデータを抽出して利用した.居住区はe-Statより取得した2020年国勢調査小地域基本単位区のポリゴンデータを取得した.

     本研究の方法として,冨田・佐藤(2022)と同様にOSRMを用いた経路探索システムを構築し, 建築物の重心座標を始点として避難所までのアクセシビリティ解析を行う.また,避難経路の水害リスクを考慮するため,浸水地域の道路を抽出し,その道路の通行は浸水により移動が困難になると考え,移動速度を設定する.そこで,前処理として,浸水を意味する路面状況タグを新しく付与し,移動速度を標準速度の1/10に低下すると設定する.

    3.結果と考察

     避難所までのアクセシビリティ解析において幾つかのシナリオを想定した.避難所が第1順位の小学校のみと,全ての避難所が開設された場合の2通りに加え,移動速度が標準速度とその1/10の速度の場合の2通りである.アクセシビリティ解析の結果,浸水地域およびその周辺部での避難時間が大幅に長くなっていることがわかった.例えば,広島市中区南千田東町からの避難時間は,第1順位の小学校のみが開設された場合,平時は約15分だが,浸水時は約26分に増加した.しかし,全ての避難所が開設された場合は,浸水による避難時間への影響は小規模に抑えられ,平時は約8分,浸水時は約15分であった.

     水害リスクを考慮した避難時間に基づく新しいハザードマップの作成により,実際の移動行動を踏まえた対策が可能となる.そして,各地域での平時と災害時の避難時間のギャップを知ることで,早期の避難行動の促進につながることが期待される.また,独自の経路探索システムに基づき,大規模なデータ処理が可能である.オープンデータを利用することで,低コストで避難経路を網羅的に計算できる.そのため,指定緊急避難場所などの更新などによるハザードマップの継続的な更新も容易だと考える.

     一方,次のような制限事項がある.シナリオに基づき避難経路をシミュレートしたため,例えば交通渋滞の発生など実際の避難経路の状況によって現実の避難時間とは差異がある.そして,性別,年齢などに起因する移動速度の個人差は反映されていない.避難所の収容人数についても考慮されていない.

    参考文献

    江戸克栄・高田禮榮・桝原茂・上垣慎一・藤本健二 2018.平成30 年7 月月豪雨の避難意識と行動に関する調査.県立広島大学大学院経営管理研究科防災マーケティング研究チーム調査結果 【速報】.

    広島県インフラマネジメント基盤. DoboX.hiroshima-dobox.jp(2024年7月2日閲覧).

    OpenStreetMap.openstreetmap.org(2024年7月2日閲覧).

    総務省統計局. e-Stat. e-stat.go.jp (2024年7月2日閲覧).

    冨田哲治・佐藤裕哉 2022. 公的統計の利活用における,オープンGISデータおよびフリーツールの有用性と課題―病児保育施設へのアクセシビリティ解析を例に―. 統計研究彙報 79: 61-74.

  • 高井 静霞, 三箇 智二, 島田 太郎, 武田 聖司
    セッションID: 308
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    放射性廃棄物処分の安全評価(中深度処分:評価期間~105年)にて、将来の気候変動の不確かさを考慮した地形予測を行うには、地形発達モデル(Landscape evolution models: LEMs)に基づく数値解析が有用である。しかし沿岸域ではLEMsの構築例が少なく、万年スケールの海水準変動に伴う侵食・堆積の両者に対する実地域での検証はされていない。本研究ではJAEAで開発中のLEMs(JAEAsmtp)に海域での堆積モデルを導入し、本LEMsの適用性を実地域での最終氷期-間氷期サイクル(12.5万年前~現在)に基づき検討した。まず海域での堆積を、国内6海域の完新世の堆積構造の特徴に基づき、河口を中心とした平面分布(ガウス分布:沖合での泥の堆積、噴流分布:河口付近での砂の堆積)によりモデル化した。仮想的な地形での後氷期の縦断形シミュレーションにより、同モデルで海水準変動に応じたデルタの堆積様式を模擬できることを確認した。次に、海成段丘(MIS5e, 7, 9)が広く分布する上北平野を対象に、本LEMsにより12.5万年間の再現解析を実施した。評価パラメータのうち測定から同定できないものは、過去から現在の地形変化に関する複数の条件(段丘面侵食速度、埋没谷深度等)に基づくキャリブレーションにより推定した。その結果、現在の汀線位置やMIS5e段丘の位置を概ね再現しつつ、埋没谷の形成(海水準変動に伴う河谷の形成・堆積)を模擬できることを確認した。

  • 今こそ解放,そして新たな地理学の構築へ
    野中 健一
    セッションID: P017
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    Ⅰ 地理空間は具象からはじまる

     地理的な空間的事物や経験をもとにジラオマを作って説明・表現しよう,その製作過程は地理をより深く理解する上で有用であろう,この可能性を岩田修二氏,海津正倫氏との製作過程の共有と討論を経て検討してきた(2024年8月発刊の月刊地理69-9特集参照).これをもとにした「ジオラマ地理学」の提案が3名で構成する一連の報告の目的である.ここでは野中(2020ab)に述べたジオラマの地理への活用を発展させ,地理ジオラマの概念とその実践をこれまでの製作例から検討したい.

    Ⅱ 地理ジオラマの提唱

     地理学は可視的な説明・表現法として,これまで土地利用図に代表されるような主題図,概念モデル図での説明を得意としてきた.報告者は,人の意識・行動をも含め,さらに異なる情景を組み合わせて統合的に地理的な説明をする地理絵を提唱した(Nonaka&Yanahara 2007).

     さらに立体的に造形しディテールを表現することにより説明できる要素がいっそう増える.ジオラマ作りでは人の抱く感情を含めた情景(シーン)という言い方がなされる.主体的時空間造形とでもいえようか.情景を一つ一つ組み合わせていくことによって,個々と全体が一体となる.あたり一帯のつくり方(構図)が地域の成り立ち(構造・構成)を呈する.ここに人の暮らしと環境から総合的に成り立っている地域をジオラマとして構成したものを地理ジオラマとして提示できる.全体を構成すると同時に細かな暮らしが再現されていることにより,俯瞰ともに小さな世界の中に入り込むこともできるのが地理ジオラマの特徴として提示できよう.

    Ⅲ ジオラマへの鉄道模型導入

     ジオラマにおいては,鉄道が情景の時間と空間,そして物語をうみだす(野中2021).ジオラマの構図作りおいて,ジオラマにおける線路の存在は空間を分ける,すなわちさまざまなシーンを配置するスペースを提供する.ジオラマが限定された面上に展開するのを,線路が断片的なエピソードを連続的につないで広がりを作り出し,列車の走りは,次のシーンへとつなぐストーリーテラーの役割を果たし,時間の経過は思いを巡らす時間を作り出す.

    Ⅳ 地理ジオラマを作る

     報告者は,主に1/150スケールで60×30cm前後で製作してきた.ここ数年はさらに小さくかつ手軽に扱うことのできるA4サイズのジオラマを製作している.これらは,原風景自分史(授業で製作指導),地理的風景意味ある場所の再現と大きく分類できる.これらの事例はQRコードから参照されたい.

     製作時間は,A4サイズの例では平均39.3時間である.数ミリの小石をピンセットで一つ一つ積み上げて石垣を作る,檜樹皮を薄く削いで細かく刻み,それを一枚一枚重ねて檜皮葺き屋根を作る,人の賑わいや暮らしぶりを人形や小物で表現する…こうした地道な作業は,論文執筆や授業資料作りと同様の時間であり,地理学徒にとって地理的思考の心地よい時間となる.製作にはさまざまな技法があるが,それは地理学の分析表現技術を学ぶことと同じである.地域を表現する技でもある.製作を超えた地域の見方と提示の仕方を考える技法の習得となろう.

    Ⅴ ジオラマの社会的活用

     拙作は,これまで舞台としたところでのお披露目や地域イベント,ギャラリー展示などで,あるいは野外での撮影時に関心を寄せて来た人に観てもらってきた.観た人たちは,実在の場所事物を思い起こし会話が弾んでいた.思いがけない情報も得られた。将来を構想したものでは,広くアイディアを考案する機会を提供した.観るだけでなく,そこからさまざまに思いを馳せ,考えを創出していけるコミュニケイティブ・インタラクティブな機能も有している.

    Ⅵ 真の地域研究へ

     ジオラマを製作するには,地形,植生,河川形態,土地利用の形態分類だけではない.それぞれがどうなっているのか,分類区分のそれぞれがどのように成り立っているのか,どう移り変わっていくのか,具体的には,地形の変化,土性、樹種だけでなく樹形・葉の茂り方,川の流れ方,積雪状態,建物の経年変化,使用感,暮らし方など,その成り立ちを空間的にも時間的にも考えて連続的に作ることができる.そして,全体の構成から一つ一つのモノまで,マクロからミクロなつながり,すなわちマルチスケールの中に,すべてがアクタントとして場所に意味づけられて構成される.すなわち現実地域の構成と“生”(自然も人も)を実感して考えることができる.そこにまさに地理学が向かうべき,構造,構成,関係における諸課題がみえてくる.これらを主体的に考え,そしてその論理のもとに要素を構成して表現する.これは一つの地理学的表現技法となろう.

  • 植松 尚太, 岩木 雄大, 黒田 圭介
    セッションID: P010
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    1. はじめに

    地域おこし協力隊は,地域PRや農林水産業などを職業とする人材を条件不利地域へ定住・定着を促す取り組みで,その隊員の多くは大都市から自主的かつ能動的に移住してくる特徴をもつ1)。このような隊員が移住後に直面する課題2)や,定住・定着を促す方法3)についての研究は多くなされている一方で,彼らが協力隊着任までにどのような人生を送り,どのような職業を経験し,どのような考えで移住してきたかに関する報告はあまり見られない。これを明らかにできれば,都市部から地方への人口移動の特徴的な一形態を示すことができる可能性がある。

    ここで,本研究では「ライフパス」を用いて隊員の着任以前までの生涯を俯瞰し,さらに,聞き取り調査によって詳細な彼らの経歴を明らかにする。以上をまとめて,佐賀県に着任する都市部からの移住者の特徴を明らかにする。なお,ライフパスとは時間地理学における概念ツールの一つである活動パスのうち,個人の生涯の時間と空間の広がりを1本の軌跡として表現するものである4)

    2. 研究方法

    佐賀県の協力隊員のうち,2024年5月時点で活動している6名に対して聞き取り調査を実施した。その内容はいつ(時間)・どこ(場所)で生活していたかを尋ね,ライフパスを明らかにしつつ,それぞれで何をしていたかというライフイベントを明らかにする。

    3. 結果

    隊員のライフパスを図1に,隊員の応募動機や職歴,活動内容を表1に示す。図1の横軸は佐賀県からの距離順に都道府県をプロットしている。調査を実施した隊員の平均年齢は40.6歳(24-59歳),平均移動回数は4.3回(1-9回),着任以前の平均転職回数は2.1回(0-4回)であった。まず,出生場所について,佐賀県を含む日本各地に及んでいることが分かった。一部,幼少期に引っ越しを経験している隊員がいたが,高校卒業後は,出生場所とは異なる場所へ進学や就職のために転出した。新卒採用であるf氏を除く5名は初就職後,平均5.25年(1-11年)ではじめの職場を退職し,着任までに約2つの異なる職種を約2か所で経験した。例えば,a氏は京都府の染織工房へ初就職したのち,結婚を機に上京し,出産を契機に子どもへ興味が湧き,東京都で幼稚園の課外講師など教育関係の職に従事した。e氏は福岡県内で長年生活を送っているが,職種は表1に示すように複数ある。

    次に表1をみると,経験した職種と協力隊着任後の活動内容が一致しないことがみてとれる。例えば,b氏は理系研究職や法人営業などの職務を経験している一方で,協力隊では林業従事者になるために実際に森林へ入り間伐作業を実施したりするなどの活動を行っている。

    最後に,動機については,田舎暮らしへのあこがれや起業目的,地域住民からの誘いが挙げられた。例えば,a氏やb氏,e氏は都市部での生活を脱却し,中山間地域をはじめとする田舎での暮らしを実現するために協力隊へ応募したと話した。f氏については,大学の研究室と氏が活動する地域の間で地域活性化に関する共同プロジェクトを実施しているかかわりがあり,氏もその地域で実地調査を重ねるなかで,協力隊への誘いがあったことが分かった。

    4. 考察(まとめにかえて)

    佐賀県における協力隊は,新卒で着任した者を除き,ある程度短いスパンで職を転々としており,2種以上の職種を経験している中堅世代が多い。第一次産業経験者がおらず,比較的第二次産業従事者だった者が多い。協力隊への応募動機としては,着任以前までの生活からの変化を求め,自身の目指す生き方を追求した者が多く,この点に関して,鈴木ら(2023)も同様の指摘をしている 5)

    以上より,協力隊に焦点を当てた都市部から地方への人口移動の特徴は,それまでの生活を変化させ,自身の目指す目的を実現するために,職歴との関連性の有無によらず,自身が活動したいことが実施可能な環境であれば,隊員にとっては縁もゆかりもない,関東圏等から離れた佐賀県へ自主的・能動的に移住してくるとまとめることができる。

  • 熊原 康博, CHAMLAGAIN Deepak, 八木 浩司, 岩佐 佳哉
    セッションID: 304
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    はじめに ネパールは,インドプレートとユーラシアプレートが衝突するプレート境界に位置し,その大部分がヒマラヤ山脈に含まれる。ヒマラヤ山脈は,長い年月にわたるプレート衝突により形成された。現在のプレート境界にあたるヒマラヤ前縁帯活断層の先端は,ネパール南部を東西に通っている。過去には,この断層が活動することによって巨大地震が発生してきた。つまり,ヒマラヤ前縁帯活断層は,山地隆起,プレート境界,巨大地震の関係を一度に学ぶことができる貴重な存在といえる。そこで,ヒマラヤ前縁帯活断層先端の断層露頭の剥ぎ取り標本を作成し,この標本と,それに関連する解説をつけたコンテンツを開発し,それを用いた企画展を行うこととした。この企画展では,実物の活断層を見て触わることを通じて,将来起こりうる巨大地震への啓発や,科学的な知識に基づいた活断層とヒマラヤ山脈形成の関係への理解を目指した。

    企画展の概要

    期間:2024年4月21〜25日(5日間)会場: Nepal Academy of Fine Artsのホール(ネパール・カトマンズ市)展示会の名称:Touch the Indo-Eurasian Plate Boundary An Exhibition of Peeled-off Earthquake fault of Nepal Himalaya展示内容:①プレート境界剥ぎ取り標本,②断層露頭の写真ポスター,③ネパールヒマラヤの3D地形モデル,④地形・地震・断層・ハザードマップに関する解説パネル,⑤ネパールの典型的な活断層地形のアナグリフ画像,⑥「地震とともに生きる」をテーマとした絵画来訪者数:約800名

    主な展示物の作成方法 剥ぎ取り標本は,ネパール南東部ダマク市のヒマラヤ前縁活断層を対象に採取した。Wesnousky et al (2017) GRLのトレンチの隣で実施し,幅9m×高さ5mの部分を剥ぎ取った。壁面にトマックNS-10を塗り,布を壁面に貼った後,乾燥させ,人力によって布と地層を一緒に剥ぎ取った。剥ぎ取り標本は,地層の劣化防止と視認性を高めることを目的にラッカーを表面塗布した。 ネパールヒマラヤの3D地形モデルは3Dプリンターで出力した。データは,ALOS 30m DSMをダウンロードして,QGISでデータを統合し,地形を平滑化した。モデルは,1片15cmのブロックを組み合わせて作成し,全体で横150cm×縦45cmとなり,高さの強調を12倍としたことで高さ方向は最大17cmとなった。

    企画展の準備 企画展に向けた事前準備は主に以下である。①宣伝用ポスターの作成,②会場レイアウトの検討,③剥ぎ取り試料の見学用ステップの制作,④断層露頭の写真ポスター及び展示パネルの作成・印刷,⑤関連機関への招待状の送付,⑥企画展参加者向けのアンケートの検討と印刷,⑦企画展前日にコンテンツの搬入と配置

    企画展の様子 企画展初日は主催者及び来賓者を招いて開会式を行った。開会式では,主催者が,企画展の意図や目的に関するプレゼンテーションを行った。訪問者は,企画展を見学した後,最後に簡単なアンケートへ回答した。訪問者は,5日間で812名であり,内訳は1日目141名,2日目101名,3日目75名,4日目293名,5日目202名であった。3日目までは大学生が多かったが,4,5日目は学校の生徒・児童,一般企業の方の来訪が増えた。最終日の夕方に企画展のコンテンツを撤収した。

    アンケート結果 展示の内容(n=223)については,50%が妥当とし,37%が簡単・やや簡単と回答した。また,展示の興味関心を尋ねたところ,回答者(n=227)の97%が大変興味深い/興味深いと回答しており,ほとんどの方に有意義な内容であったことが確かめられた。関心を持ったコンテンツについて尋ねると,全回答数(n=374,複数回答あり)の内,第一位が剥ぎ取り標本(31%)であり,3D地形モデル(26%),断層露頭ポスター(18%)と続いた。実物標本が多くの方の関心を呼び起こしたことがよくわかる。

    展示開催の意義 5日間の短い期間の開催であり,パイロット的な試みであった。アンケートでは,有意義な内容であったとの回答が多数を占め,試みは成功したと言える。今回使用したコンテンツは再利用可能なものであり,今後も同様の企画展を開催し,多くの方に,巨大地震に対する潜在的な危険性への啓蒙と,ネパールの地形の成り立ちへの科学的理解を深めてもらいたいと思っている。そのためには,今回は英語のみの解説パネルであったが,ネパール語への翻訳も必要と考える。

    本プロジェクトは,日本学術振興会の科研費(18KK0027)によって行われた。

  • 高橋 環太郎
    セッションID: P012
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに

     本研究では令和2年度国勢調査の「従業地・通学地による人口・就業状態等集計」のデータから秋田県の地域区分を試みた。国勢調査における従業地・通学地による人口・就業状態は,通勤や通学している地域内および地域間の人口流動を示したものとなっている。本研究ではこの統計データから秋田県の市町村間の人口の流動データに対して因子分析を行い,県内の市町村の結びつきについて分析を行った。

     地域間の結びつきについては都市地理学や計量地理学を中心に行われてきた(森川 1978; 南1981)。

     先行研究を踏まえ,本研究は人口減少が進む地域の人口流動の構造を把握することを目的としているが,交通インフラが整っていない地域における観光ルートの検討といった点においても活用できる視点だと位置付けている。

    方法

     令和2年度の国勢調査「従業地・通学地による人口・就業状態等集計」は普段の居住地と従業地が示された統計となっている。最初に,本研究ではこの項目から秋田県の市町村を単位としたOD表を作成した。秋田県には25市町村あるため,行側が居住地,列側が従業地・通学地の25×25の相互作用行列を作成した。次にこのデータに対して因子分析を行った。因子負荷量の推定法は主成分法,得点については回帰推定,バリマックス回転による因子分析を行った。

    結果

     行列の構造から,因子負荷量と因子得点は同じ数となる。なお,解釈を行う際は因子負荷量が居住地,因子得点が従業地・通学地となる。

     分析の結果,固有値1.0以上の因子が8つ抽出された。居住地を集約する因子負荷量は0.4以上を基準に解釈を行った。また,因子得点は従業地・通学地を示しており,1.0を基準に解釈を行った。

    考察・まとめ

     因子分析の結果から8つの人口流動の傾向が抽出されたが,近接地域との結びつきが秋田県でも概ね確認ができた。一般的に秋田県は県北,県央,県南という地域区分がなされるが,少し細かくなったものの,一致していると思われる。

     本研究では居住地と従業地・通学地の人口流動を集約し,地域間の関係を明らかにするため,因子負荷量と因子得点をそれぞれ結節点の集まりとして解釈を行った。日常と非日常といった点では相反するが,本研究の視点は観光分野においても応用可能だと思われる。

     近年は様々な人口移動のデータが以前よりも発展している。観光客についても同様で,国内外の観光統計の整備が進んでおり,観光分野におけるデータの活用範囲は広がっている。一方,地域単位によっては細かいデータ収集が難しいため,代理的に日常圏の移動を示すことは観光分野でも応用可能であると思われる。

    参考文献

    森川洋. (1978). 結節地域・機能地域の分析手法. 人文地理, 30(1), 17-38.

    南榮佑. (1981). ソウルにおける結節地域の構造とその特性. 地理学評論, 54(11), 637-659.

  • 和泊町と知名町
    両角 政彦
    セッションID: P006
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    本研究では,離島農業において自然環境に適応し地域特性を有する基幹的・集約的作物から一般的な作目への生産の転換が,社会経済,産業構造,農業構造にもたらした影響と農業経営形態の特徴について明らかにする。事例として,「農業の島」「花の島」「ユリの島」と称される沖永良部島(鹿児島県大島郡和泊町・知名町)を選定した。同島に関する先行研究では,基幹的・集約的作物のテッポウユリの生産の歴史と最盛期の産地研究や,その転換後における農業・農村研究は行われているが,この転換過程における社会経済,産業構造,農業構造について,営農条件と経営状況を踏まえて包括的に明らかにした研究は行われていない。

    沖永良部島では社会経済の変化と産業構造の転換が生じ,島内の2町には共通点と相違点が見られる。農業の比重が低下してきたとはいえ,農業経営形態の差異が社会経済と農業構造に影響を及ぼしている。集約型農業の縮小と土地利用型農業の拡大によって農地が維持されたとしても,農村人口の減少につながり,就業機会が確保されない場合,島内人口の減少にもつながる可能性がある。食料農産物と非食料農産物の生産による複合経営で農業が維持され,農村と食料供給の維持が不可分の関係にある。経営体ごとの柔軟な作物選択と地域ごとの組織的な対応や調整が重要になる。

  • —瀬戸内海島嶼部における遠征巻き狩り猟の事例
    中島 柚宇
    セッションID: 412
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    はじめに

     1980年代以降,瀬戸内海の島嶼部において,本州側からイノシシが泳いで渡る姿が目撃されるようになった(高橋 2017).イノシシの生息拡大に伴い,これらの島嶼部では農業被害や生活被害(以下,獣害)が深刻化してきた.これらの地域にはイノシシのような大型野生獣が元々分布していなかった.そのため地元に大型獣を捕獲できる狩猟者がおらず,近隣の狩猟者による協力や,地域住民主体の捕獲体制の構築などが試みられてきた(例えば,武山ほか2022).

     そうした中,本州側や愛媛県から狩猟者らが猟期に島渡ってきて活動する事例が報告されている(中国新聞取材班編 2015).また発表者は,高知県における巻き狩り猟の変遷を調査中,海だけでなく四国山地までも越えて瀬戸内海島嶼部に遠征する巻き狩りグループに出会った.本発表では,彼らの遠征する狩猟活動の実態や成立要因について,これまでの聞き取り調査(2023年9月)及び巻き狩り猟への同行調査(2024年2月)の結果を中心に報告する.

    遠征巻き狩り猟の成立経緯と実態

     調査対象は,高知県佐川町の狩猟者を中心としたグループである.グループの中心人物であるS1氏は,1975年ごろから約20年,佐川町周辺で巻き狩り猟をしていた.しかし1990年代後半から,猟犬の譲渡を介して知り合った他県の狩猟者から共猟に誘われ,広島県の山や島嶼部に日帰りで遠征するようになった.2000年ごろからは,広島県呉市の大崎下島に拠点を構え,猟期中のほとんどを島に滞在して毎日出猟するようになった.瀬戸内海への遠征を開始する際,S1氏は佐川町で活動していたグループを一度離脱したが,その後佐川の狩猟者仲間に加え,遠征先の島々や周辺の県から来る狩猟者,猟犬を介して知り合った狩猟者が参加するようになった.

     佐川のグループの獲物はイノシシがメインである.毎日の猟場は主にS1氏が中心に見切りを行って決定するが,島の農家から捕獲を依頼され,イノシシの被害を受けている耕地周辺で猟を行う場合もある.1日の大まかな流れとしては,朝8時ごろに拠点に集合し,勢子及び射手(ウチマワリ)の配置,本猟,その後拠点に戻り解体・精肉,となる.猟場の範囲や見込まれる獲物の数,その日の参加人数によって,巻き狩りを数回繰り返す場合もあり,最も多い日は1日に10頭以上のイノシシ・シカを捕獲する.捕獲した肉は全て参加者に均等に分配される.

    遠征巻き狩り猟の成立要因

     聞き取り調査の結果から,佐川のグループによる遠征巻き狩り猟の成立には,以下3つの要因が考えられる. 1点目は,猟場としての芸予諸島の魅力である.前述したように,芸予諸島は1980年代以降,イノシシが生息拡大してきた.しかし地元にはイノシシを対象とする狩猟者がいなかった.その結果芸予諸島は,獲物が多く存在し,かつ競合相手となる他の巻き狩りグループがおらず,S1氏らにとって魅力的な猟場となっていた. また調査では島の魅力として,イノシシの肉の美味しさが挙げられた.高知県との味の違いについては検証できていないが,多くの狩猟者が肉の味に言及したことは注目に値する. 2点目は,猟犬を介した狩猟者間ネットワークである.巻き狩り猟において猟犬は重要な要素であり,狩猟者たちはより優秀な猟犬を求めて時に県外の狩猟者とも売買・譲渡のやりとりを行う.このやりとりから共猟の機会へとつながり,県外の猟場にアクセスするきっかけとなった. 3点目は,「知らない山」での狩猟を可能にする猟犬の技術である.佐川のグループでは「吠え止め」という能力をもつ猟犬を用いているが,このタイプの猟犬の場合,犬がイノシシを発見次第その場に引き留め,追いついた勢子が仕留める.つまり,その山の詳細な地形や,獲物が逃げる際の通り道を知らずとも捕獲できる.実際に呉市本州側の狩猟者たちが島で巻き狩り猟を試みたことがあったが,彼らは「鳴き犬」(イノシシを寝屋から追い出し,待ち構える射手の元へ走らせるタイプ)であり,土地勘のない山では猟が成立せず撤退したという話があった.

     こうして成立した遠征巻き狩り猟が継続されてきた理由の一つに,獣害に苦慮する地元農家が彼らの活動を歓迎した点がある.遠征を通して新たに形成された地元農家との関係性も,彼らを島に引き付ける要因といえる.

    文献

    高橋春成 2017.『泳ぐイノシシの時代—なぜ、イノシシは周辺の島に渡るのか?』サンライズ出版.

    武山絵美・金脇慶郎・吉元淳記 2022.野生動物の新規分布拡大地域において地域主体の捕獲体制はどのように構築できるのか—海を越えてイノシシが移入した愛媛県中島本島に着目して.農村計画学会論文集 2(1): 17-26.

    中国新聞取材班編 2015.『猪変』本の雑誌社.

  • 上野 一喜, 太田 俊二
    セッションID: P028
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    明治中期の地形図によると埼玉県南部から東京都北西部にかけて広がる武蔵野台地と多摩丘陵一帯には桑畑や茶畑といった樹木畑が広がっていた。その中で、埼玉県南部に位置する狭山丘陵の北側では、盛んにおこなわれていた樹木畑ではなく作物畑が分布していた。この一帯は丘と谷が入り組んだ複雑な地形となっている。一般的に谷地形の低地部分は冷気流が堆積し冷気湖が形成され、霜害が発生しやすいとされている。この地域一帯は高低差が約30mしかない谷でも、夏季以外に冷気湖が発達するため、防霜ファンなどの農業技術が発展する前は、その土地の気候条件に沿った作物を生産していたと考えられる。

    そこで本研究では、移動気温観測によって、明治期に桑や茶が栽培されていなかった地域と冷気湖が発達する場所が一致するのかを確かめた。観測方法は移動観測で、晩霜害が起こりやすい春季を中心に行った。

    その結果、快晴静穏時の夜間では、明治期に作物畑だった地点では樹木畑だった場所に比べて有意に気温が低かった。曇天日や快晴時でも風速が3.0m/s以上の際には全地点の気温差がほぼなかったことから、この気温差は冷気湖によるものと言えるだろう。最尤推定法を用いて一般化極値分布を近似したところ、晩霜が発生する確率は、約2倍に上昇していることがわかった。

    明治期の記録による桑や茶が栽培されていなかった地域と今回の観測による冷気湖が発達する場所はよく一致していた。冷気流が集積しやすい地点は桑や茶の生産に重要な影響を及ぼす霜害かが出現しやすく、これを反映した土地利用を先人たちは行なっていたのだろう。このことは、過去の土地利用形態から微気象の特徴を推定できる可能性を示唆している。

  • 森本 洋一
    セッションID: 238
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    Ⅰ はじめに

     利根川は、新潟県と群馬県の境である三国山脈を源流に持ち太平洋及び東京湾に注ぐ一級河川である。流域面積は、16,840 km²と日本最大であり、首都圏の治水や環境、利水上大きな役割を持つ。赤谷(あかや)川は、三国山脈の一つである平標山(標高1984m)近傍に源流を持ち、群馬県利根郡みなかみ町下津付近で利根川に合流する。赤谷川の源流部は豊かな自然環境が残されており、国の機関や地域が連携して生物多様性の保全や復元が行われるなど、貴重な生態系を有していることが知られている1)。本稿では、源流域に貴重な生態系が残されている利根川支流赤谷川上流域を対象に、水質調査を実施し、河川水の基本的な水環境の把握を試みた結果を報告する。

    Ⅱ 研究方法

     まず初めに、公共データやGISを活用して流域環境情報を整理し2)、流域の特徴を整理するとともに、水系網の次数区分解析(ストレーラー法による)を行い、流域特性を把握した。次に、赤谷川流域において水質の現地観測を実施した(採水、AT、WT、比色 pH-RpH、EC)。現地観測は、2023年1月(上流域)、3月(上流域)、6月(流域全体)、10月(上流域)に実施した。6月の調査は身近な水環境の全国一斉調査3)に合わせて実施し、赤谷川流域全体で実施した。なお、水質調査地点は、流域全体の調査では3次流以上の河川とし、上流域の調査では2次流以上の河川から選定した。採水した水は濾過の上、溶存イオンの分析を行った。

    Ⅲ 結果と考察

     赤谷川流域における次数区分解析の結果、最大で4次流まで区分することができた。4次流に相当するのは、赤谷川、西川、須川川である。赤谷川本流の電気伝導度は80~100μS/㎝の範囲であり、上流部において高い値(120μS/㎝以上)がみられる場所があり、川沿いの温泉の影響などが考えられる。また、流域の地質構成をみると、赤谷川は流紋岩質や泥岩質が多く、西川は安山岩質や流紋岩質が多い。赤谷川では花崗岩質が見られるのが特徴的である。須川川では、安山岩や礫質が多い。今後は水質と地質の関係について詳細な検討を進めていく予定である。

    参 考 文 献

    1)茅野恒秀(2019):国有林における「資源化のダイナミズ

    ム」の喪失と再生,国立歴史民俗博物館研究報告,第215集,pp176-196.

    2)森本洋一・小寺浩二(2022):流域誌の作成を念頭に置いた流域環境情報の整理手法の一提案,2022年度春季地理学会発表要旨集.

    3)身近な水環境の全国一斉調査ホームページ:https://www.japan-mizumap.org/

  • 中田 高, 岩佐 佳哉, 後藤 秀昭, 鈴木 康弘, 渡辺 満久
    セッションID: 305
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    モンゴルの首都・ウランバートルを横切るウランバートル断層の南東部のブンバット周辺では,北西ー南東走向の南西向きの低断層崖が認められる.この活断層は直径が1mを超えるような巨角礫からなる岩塊流を南東上りに変位させている.このような地形の特徴と断層運動の特徴について議論する.

  • 宅間 雅哉
    セッションID: 537
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    イングランド南東部ケント州のTemple Ewell行政教区に所在するCold Blowは,直訳すれば「冷たい一陣の風」となる。本研究では,Met Office(イギリス気象庁)の天気予報から得られる各種気象データを根拠として,「寒さ」と「風の強さ」を意味する気候地名Cold Blowを提案する。Cold Blowにおける寒さ(気温の低さ)や風の強さは,少なくとも他の1地点との比較の上で論じる必要がある。そこで,この役割を教区教会所在地となる町Temple Ewellに求めた。教区教会は,北西から南東に走る谷の底にあり,標高は約43.9メートルである。Cold Blowはここから西北西に約1.8キロ離れた尾根上にあり,標高は約120.4メートルである。ただ,Cold Blow及びTemple EwellはいずれもMet Officeの予報地点には含まれていないため,同庁ウェブサイトが自動で指定する最寄りの予報地点Ewell Minnis(EM)をCold Blowの,Dover Youth Hostel(DYH)をTemple Ewellの代替指標とした。

     現在,Met Officeの天気予報では,1日24時間各正時時点の空模様,降水確率,気温,体感温度,風向,平均風速,最大風速,視程,湿度,紫外線レベルが提供される。本研究では2022年4月1日から2023年3月31日までの1年間,毎日午前7時から8時の間にEM及びDYHのページにアクセスし,気温,体感温度,風向,平均風速,最大風速をすべて記録した。以下では1年分のデータを3ヶ月ごとにまとめ,4〜6月,7〜9月,10〜12月,翌年1〜3月の4期間に分割して議論を進める。

     気温に関するデータでは,年間を通して平均気温及び平均体感温度でEMが低く,平均体感温度と平均気温の差も年間を通してEMが大きい。特に1〜3月期におけるEMの平均体感温度と平均気温の差とDYHの平均体感温度と平均気温の差の差 − 0.36℃は極度に大きく,この時期におけるEMの非常に厳しい寒さを示唆する。

     風に関するデータのうち,平均風速では,年間を通してEMがDYHを上回る。しかし,平均最大風速では,4〜6月期及び1〜3月期はEMがDYHを上回るが,10〜12月期にはDYHがEMを上回り,7〜9月期及び年間平均では同じ値になる。これに従えば,「風の強さ」という点で十分にEMがDYHよりも優位に立つのは,4〜6月期と1〜3月期ということになる。実は,この2つの期間はEM,DYH双方において,南西及び北東よりの風が卓越するという点で共通する。しかし,平均風速の値が大きい上位3方位に注目すると,やはりEM,DYH双方において,4〜6月期は南西・北東・北北東,1〜3月期には南西・南南西・西南西の順になる。

     上で述べた風に関するデータの分析結果によれば,4〜6月期及び1〜3月期は,方位別平均風速の上位3方位を除いて,平均風速及び平均最大風速でEMがDYHを上回り,南西及び北東よりの風がともに優勢という共通の傾向を有する。これを踏まえて,これら2つの期間におけるEM及びDYHの平均風速,平均最大風速に加えて,平均気温,平均体感温度の日変化を1時間単位で比較した。まず平均風速では,両期間とも24時間を通して,常にEMがDYHを上回る。これに対して平均最大風速では,DYHがEMを上回る時間が4〜6月期に4時間,1〜3月期には10時間になる。一方,平均気温では,4〜6月期の日中6時間はEMがDYHと同じか,あるいはわずかながらそれ以上となる。これに対して,1〜3月期には24時間を通してEMがDYHより低い。また平均体感温度でも,EM がDYH以上となる時間が,4〜6月期には2時間あるのに対して,1〜3月期には,やはり24時間を通してEMがDYHより低い。

     ケント州Temple Ewell行政教区所在のCold Blowは,代替指標による気象データの分析に依拠する限りにおいて,教区教会所在地よりも年間を通して寒く,平均風速は大きいことが明らかになった。中でも冬の間,すなわち南西よりの風が卓越する1月から3月までの期間は,そうした傾向が特に顕著である。以上の事実は,Cold Blowを「寒さ」と「風の強さ」を意味する気候地名とみなすに足る十分な根拠になるものと思われる。

  • 栗島 英明
    セッションID: S403
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    1.一般廃棄物処理における地理的枠組み

    一般廃棄物処理を含む環境・衛生分野は,従来より市町村を超えたいわゆる広域処理が多く行われてきた。栗島(2004)では,広域処理の主な理由として,①処理施設がNIMBYの性質を持つこと,②処理施設が負の外部性の性質を持つこと,③一般廃棄物処理には「規模の経済」が成立すること,を挙げている。一方で,1970年代のごみ戦争を背景に,「自区内処理」が長らく原則とされてきたこともあり,国が積極的に広域化を働きかけることはなかった。この流れが変わるのは,1997年の厚生省による「ごみ処理の広域化について」の通知(以下,「平成9年通知」)である。これは当時,社会問題にもなっていたダイオキシン類の排出削減を主な理由として,都道府県に一般廃棄物処理の広域化計画の策定と広域化に向けた市町村への指導を求めたものであり,全ての都道府県においてごみ処理広域化計画が策定されるに至った。また国は,1998年よりごみ焼却施設の国庫補助の対象を「原則100t/日以上」とするなどして,広域化の後押しをした。一方で,2012年の環境省調査によると,広域化計画をすべて達成した都道府県は9,一部達成した都道府県は17となっており,達成状況には差があった。そして,ダイオキシン問題が下火となったことや,その後の「平成の大合併」の進展により,国の広域化への働きかけは,それほど強くなくなった。 ごみ処理の広域化が再び大きく動き始めたのは,2019年の環境省による「持続可能な適正処理の確保に向けたごみ処理の広域化及びごみ処理施設の集約化について」の通知である。この通知は,急速な人口減少による効率性の低下や処理施設の老朽化,気候変動対策の推進などを理由に,再び都道府県に一般廃棄物処理の広域化・集約化計画の策定を求めたものである。「平成9年通知」と大きく異なっているのは,一部事務組合等の広域行政による方式だけでなく,自治体間でのごみ種類別処理分担,周辺自治体のごみの大都市での受入,民間処理業者への処理委託等の多様な方式を提案している点である。また,国立研究開発法人の国立環境研究所(2019)は,都道府県での広域化・集約化計画に先んじて広域ブロック案の提案を行っている。さらに環境省(2020)は,広域化・集約化の詳細な手引きを作成しており,今般の広域化への国の意向はとても強いものと考えられる。

    2.気候変動施策における地理的枠組み

    一般廃棄物処理と比べると基礎自治体の気候変動施策の歴史は浅い。しかし,2024年6月末時点で,60.8%(1,044団体)がゼロカーボンシティ宣言(2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ)を行っており,今や気候変動施策は基礎自治体の重要な環境政策の1つとなっている。また,地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)では,都道府県および施行時特例市以上の市に対して区域内の排出削減計画である「地方公共団体実行計画(区域施策編)」(以下,区域施策編)の策定を義務付けている。ただし,気候変動の原因である温室効果ガス排出については,エネルギー起源や交通起源が主であり,単独の基礎自治体での取り組みには限界がある。そこで,2015年の温対法の改正では,区域施策編の複数の基礎自治体による共同策定が可能となった。また,環境省の脱炭素先行地域の募集でも,第3回募集以降は「地域間連携」での提案を重点選定するとしている。一方で,区域施策編の共同策定は未だ3事例しかなく,脱炭素先行地域の複数自治体による地域間連携での提案も4事例しかない。以上のように現状では,気候変動施策について,広域化の動きはそれほど見られない。しかし,国やゼロカーボンシティを表明した市区町村が2050年までのカーボンニュートラルを本気で進めるのであれば,広域化・自治体間連携は必須である。今後の動向が注目される。

  • 坂本 玲奈, 井上 知栄, 植田 宏昭
    セッションID: 216
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    はじめに

     テレコネクションとは,ある離れた地域同士の気候偏差が互いに相関を持ち変動する現象である.日本の冬季気温の年々変動に寄与するテレコネクションパターンとしては,北極振動(AO),PNAパターン,WPパターン,EUパターン,SAJパターン(Ueda et al. 2015;Kuramochi and Ueda 2023)が挙げられる.また,熱帯域のエルニーニョ–南方振動(ENSO)や熱帯インド洋(TIO)の海面水温(SST)の年々変動も日本の冬季気温変動に寄与する(Xie et al. 2016).このように日本の冬季気温変動の要因となるテレコネクションパターンやSST偏差は数多く指摘され,日本の気候に与える影響が個別に調査されてきた.また,気候影響の程度は日本国内でも地域によって異なることが指摘されている(Xie et al. 1999).そこで本研究は,日本国内の地上気温の年々変動に着目して地域区分を行ったうえで,各地域の冬季気温の年々変動に対するテレコネクションパターンおよびSST偏差の影響を,統計的手法を用いて包括的に明らかにする.

    使用データと手法

     地上気温データは802地点の気象庁アメダス観測データ,大気データはJRA-55(Kobayashi et al. 2015),NOAA-OLR,SSTデータはCOBE-SST(Ishii et al. 2005)を用いた.解析期間はアメダスデータおよびJRA-55,COBE-SSTは1980/81年から2022/23年,OLRデータは1980/81年から2021/22年であり,いずれも冬季(12月,1月,2月)を対象とする.本研究では,日本の冬季平均気温の年々変動に対して自己組織化マップ(SOM,Kohonen 1982)を用いて地域区分した.その後,各地域の気温変動の要因について背景の大気循環場やSST偏差に着目し,統計解析を行った.

    結果と考察

     SOMを用いて区分した結果,日本は南北方向に分かれる5つの地域に区分された(図1).各地域の気温変動とテレコネクション指数との相関係数を図2に示す.図2より気温変動に寄与するテレコネクションパターンは地域ごとに異なることがわかる.EUパターンは南の地域ほど強い相関があり,SAJパターンはすべての地域で有意な相関がある.一方でSST偏差指数は大気のテレコネクションパターンと比べると相関が小さい.しかしながら,各月の各地域の気温変動とSSTの回帰係数を計算すると,12月はすべての地域でエルニーニョ–南方振動(ENSO)の遠隔影響を受け,2月はB・C・D・E地域でインド洋と太平洋の海盆間相互作用による遠隔影響を受けることが明らかになった.すなわち,熱帯の海盆間相互作用が対流活動偏差をもたらし,SAJパターンを励起することが日本の冬季気温偏差に関連すると考えられる.

  • 山崎 悠太
    セッションID: 346
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/01
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    Ⅰ.はじめに

     熱帯の山岳地域の雲霧帯に出現する植生は,しばしば熱帯山地雲霧林(Tropical Montane Cloud Forest,以下TMCFと略す)と呼ばれ,「雲霧に頻繁に覆われる森林」であると定義されることが多い(Fahey et al. 2016).TMCFでよく見られる生態的特徴として,生育不良のために林冠高が低くなっていることや,着生植物や(木生シダを含む)シダ植物が豊富なことなどが挙げられている.TMCFの立地環境について,低温であることや,多湿であること,雲霧に覆われていること,窒素が制限されていること,強風に曝されていることなどが,TMCFの形成に影響を与える自然条件であると考えられている(Fahey et al. 2016).

     コスラエ島のTMCFは,世界で最も低標高から存在するTMCFの1つであると言われていて,フィンコール山(標高629m)やオマ山(標高447m)などの山頂付近にわずかに存在しているのみとされている.ところが,コスラエ島のTMCFについての調査研究は,TMCFの全体的な分布や植物相についての記述に留まっているものが多く(たとえば,Maxwell 1982),コスラエ島のTMCFの詳細な分布や立地環境についての分析的な研究はまだほとんど行われていない.したがって,本研究は,北東貿易風の風上斜面に位置し,TMCFの発達が比較的著しいと考えられるオマ山の東斜面を対象に,TMCFの詳細な分布と生態的特徴を明らかにし,それらに影響を与えていると考えられる自然条件を調べることで,オマ山の東斜面に存在するTMCFの立地環境を解明することを目的としている.

    Ⅱ.調査地域概要と調査方法

     コスラエ島は太平洋西部の赤道付近に位置している.島全体が高温かつ非常に多湿な熱帯気候に属していて,北東貿易風が卓越している.調査対象地であるオマ山は島の南東部に位置している.

     現地での調査期間は2023年10月11日から27日までの約2週間であり,植生と自然条件の調査を行った.植生調査では,10m四方のコドラートを標高傾度に沿って1つずつ計8地点に設置し,コドラート内に出現した樹高2m以上のすべての樹木の同定と,樹高・胸高直径の測定,樹幹や樹枝の表面積に対する着生植物の植被度の目測を行った.自然条件の調査では,標高ごとに,気温・相対湿度・降水量(林内雨)・風向風速・土壌水分率(地中20㎝深)の5項目を測定した.

    Ⅲ.オマ山の東斜面の植生

     Grubb(1977)をはじめとする熱帯の山岳地域の植生分類法に基づくと,オマ山の東斜面の植生を,着生植物の生育があまり活発ではなく林冠高が20mを越える,標高200m以下に分布する低地多雨林と,着生植物の生育が活発で林冠高が20mを越える,標高200m以上350m以下に分布する下部山地準雲霧林,着生植物の生育が活発で林冠高が15m程度しかない,標高350m以上に分布する下部山地雲霧林の3つに分類できることが示唆された.すなわち,オマ山の東斜面では,TMCFの下限標高が標高200m付近であり,雲霧の影響を少なからず確認できる下部山地準雲霧林が,下部山地雲霧林への植生移行帯に相当する可能性が示された.一方で,オマ山の山頂部には,高さ1~2m程度のシダ植物の草原が広がっていた.

    Ⅳ.オマ山の東斜面の熱帯山地雲霧林の立地環境

     気温の逓減率・降水量・土壌水分率から,オマ山の東斜面において,雲霧帯の下限標高が標高200m台にあること,TMCFが多湿な環境に立地していること,そして下部山地雲霧林のほうが下部山地準雲霧林よりも多湿な環境に立地していることが示唆された.このことは,気候条件の違いが,着生植物の生育の活発度のような生態的特徴の違いに影響を及ぼしている可能性を示している.一方,低温環境と風速は,オマ山の東斜面において,TMCFの生態的特徴の出現に影響を与えている要因ではなかった.

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