主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2024/09/14 - 2024/09/21
1.はじめに
不動産市場の動向を分析する際、主要な指標の1つとして地価が用いられる。本研究では公示地価・基準地価・路線価以外の指標として、不動産物件の実際の取引額(=実勢価格)に注目し、実勢価格の変動状況等について分析を行うとともに、その情報源の1つである国土交通省の「不動産情報ライブラリ」の活用の有効性と地価分析の新たな方向性について検討する。
2.研究方法
国土交通省は2024年3月末に前身となるWEBサイト「土地総合情報システム」を廃止し、2024年4月から「不動産情報ライブラリ」の運用を開始した。当該WEBサイトには不動産取引に関連する様々な情報(価格、周辺施設、防災、都市計画等)が掲載されており、本研究ではそこから不動産取引価格情報(2009~2023年)を取得した上で、近年インバウンドやジェントリフィケーションの影響が深刻化している京都市を事例として取り上げ、2010年代以降の不動産市場の動向について分析を行った。
3.分析・考察
上記の不動産取引価格情報によると、京都市全11区においては2009~2023年にかけて不動産の種類別に「宅地(土地)」が9,086件、「宅地(土地と建物)」(以下、土地建物)が26,792件、中古マンション等(以下、区分所有物件)が14,597件、合計50,475件の取引が行われた(「農地」と「林地」を除く)。地理的な特徴として都心区と周辺区の間で明確な差異が見られ、京都市内で最も面積が小さく人口密度が高い中京区(689.6件/㎢)、下京区(662.7)、上京区(452.3)は不動産の取引件数(件/㎢)が最も多く、逆に最も面積が大きく人口密度が小さい右京区(22.2件/㎢)と左京区(21.8)は取引件数も市内で最少となっている。
上述の土地建物と区分所有物件のうち建築年が判明している取引は、土地建物が21,267件、区分所有物件は14,444件、両者の合計が35,711件であった。35,711件の不動産の用途は113種類あり、うち「住宅」が29,861件で全体の83.6%、「共同住宅」が1,090件で3.1%と、単一用途かつ住宅関係のものだけで30,951件を数え、全体の86.7%を占めた。このことから不動産取引情報に記載の情報の多くが住宅関係の不動産取引であると指摘することができる。そして、その用途が住宅の不動産に関して、築年数別の土地建物の取引件数(11,499件)と区分所有物件の取引件数(12,559件)を示したものが第1図である(築年数2年未満を除く)。この図より、土地建物の取引機会は築30年の物件でやや多く、一方で区分所有物件の場合は築15年・築24年にピークを迎えることが分かる。他方、住宅関係の不動産の取引価格の推移に目を向けた場合、2009~2023年における土地建物(17,663件)の取引価格は27.2~33.1万円/㎡、前年比-2.4%~+8.5%で推移した一方、区分所有物件(13,273件)は2013年以降から上昇傾向が続き、2009年の32.3万円/㎡が2023年には55.3万円/㎡にまで上昇しており、上昇率は2012年に前年比-4.1%を記録したものの、その後は断続的に5~7%台で推移している(第2図)。
2009~2023年の区分所有物件の取引件数が最も多かったのは下京区の有隣学区(289件)であった。第3図には有隣学区における公示地価、基準地価、区分所有物件取引額、相続税路線価の推移を示しており、いずれも概ね上昇傾向ではあるが、区分所有物件取引額が他と比較して上下の頻度が多く変動が大きいということが明らかとなった。
4.まとめ
公示地価と基準地価から得られる情報は特定の地点のものに限定されており、相続税路線価や固定資産税路線価の場合は直近6年の情報に限定され、個別物件の情報を把握し得ないという制約があった。不動産情報ライブラリを用いた場合は京都市のような都市スケールでの不動産市場分析や特定地域全体における実勢価格の分析が可能であり、また個別の取引に関する詳細な情報も収集が可能である。個別の物件の住所までは把握できないが、サンプル数が多いため広域スケールでの地価分析や地価の地域間比較には大いに役立つと考えられる。不動産情報ライブラリを一層有効に活用するための手段の検討が必要となる。
[参考資料] 国土交通省「不動産情報ライブラリ」
https://www.reinfolib.mlit.go.jp/ (最終閲覧日:2024年7月12日)
[謝辞]本研究は科学研究費助成事業「大都市都心部およびその周辺地域で暮らす居住脆弱層の「留まる権利」に関する基礎研究」(課題番号:24K16221、研究代表者:松尾卓磨)の助成を受けた研究成果の一部である。