本研究では,離島農業において自然環境に適応し地域特性を有する基幹的・集約的作物から一般的な作目への生産の転換が,社会経済,産業構造,農業構造にもたらした影響と農業経営形態の特徴について明らかにする。事例として,「農業の島」「花の島」「ユリの島」と称される沖永良部島(鹿児島県大島郡和泊町・知名町)を選定した。同島に関する先行研究では,基幹的・集約的作物のテッポウユリの生産の歴史と最盛期の産地研究や,その転換後における農業・農村研究は行われているが,この転換過程における社会経済,産業構造,農業構造について,営農条件と経営状況を踏まえて包括的に明らかにした研究は行われていない。
沖永良部島では社会経済の変化と産業構造の転換が生じ,島内の2町には共通点と相違点が見られる。農業の比重が低下してきたとはいえ,農業経営形態の差異が社会経済と農業構造に影響を及ぼしている。集約型農業の縮小と土地利用型農業の拡大によって農地が維持されたとしても,農村人口の減少につながり,就業機会が確保されない場合,島内人口の減少にもつながる可能性がある。食料農産物と非食料農産物の生産による複合経営で農業が維持され,農村と食料供給の維持が不可分の関係にある。経営体ごとの柔軟な作物選択と地域ごとの組織的な対応や調整が重要になる。