日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 611
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基礎自治体の政策形成におけるGISの役割の変化
宇都宮市役所アスノミヤ研究所の20年
*橋爪 孝介渡邊 瑛季
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抄録

Ⅰ はじめに

 総務省「自治体DX・情報化推進概要」によると,2001年時点で統合型GISを導入していた日本の基礎自治体は3.0%に過ぎなかったが,2023年には65.9%まで上昇した。GISの普及につれて,自治体におけるGISの利用実態に関する単発的な報告が多数なされ,これらから,データの可視化,データの全庁共有,危機管理,情報発信の面でGISが有用であることが示されてきた。近年ではEBPM(証拠に基づく政策立案)の手段としても期待されている(亀山 2018)。深田・阿部(2010)は,ノーランのステージ理論を援用し,盛岡市役所等の事例から情報システムとしての自治体GISの発展過程を明らかにしたが,行政システムとしてのGISがどのような役割を果たしてきたのかは解明されていない。

 本研究では,基礎自治体の政策形成におけるGISの役割の中長期的な変化を明らかにする。事例とする宇都宮市役所市政研究センター(以下「ミヤ研」という)は,自治体シンクタンクの1つであり,2004年の設立当初からGISを業務で活用している。

Ⅱ 研究方法と分析資料

 庁内におけるGISの役割の中長期的な変化として,GISの設置目的,利用実績,また庁内におけるGISの認識をもとに示す。利用実績は,GISの利用があった際に業務内容を逐一記録した「相談・支援業務記録簿」をもとに分析する。これは作業年月日,内容,対応した部局を2006年度から現在まで記録している。2004年度と2005年度の支援実績は,ミヤ研が発行する研究誌『市政研究うつのみや』に基づく。

Ⅲ 宇都宮市役所におけるGISの運用

 宇都宮市役所には,全庁で利用可能な「庁内GIS」と,各部局が独自に導入するGISが存在する。ミヤ研では,市政課題の分析や政策提言等を行う「調査研究」と,各部局からの相談に対応し,地図や資料を作成する「GIS支援」の主に2つの業務でGISを活用しており,庁内GISと独自のGISを業務に応じて使い分けている。本研究では,全庁におけるGISの役割を分析するため,「GIS支援」の運用を取り上げる。

Ⅳ GISの役割の変化

 ミヤ研の「GIS支援」は,独自のGISを持たない部局に対し,庁内GISでの作業が難しい複雑な地図の作成やデータ分析を主に担ってきた。導入期は人口分布図や行政の区域界図などの基本的な作図が中心であったが,2013年度にGISの有用性を庁内に発信した結果,支援件数が急増し,2018年度には200件を突破した(図1)。2019年度以降は,GISで分析する目的の明確化を図り,各部局のEBPMに貢献する資料の作成を重視している。支援件数は例年,5~7月に集中し,部局別では総合政策部が最多である。特に交通政策課からの依頼が多く,市民が運営主体を担う「地域内交通」の導入検討や,LRTの整備に伴う市内交通の再編などの基礎資料として役立てられている。

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