日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P014
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下北半島尻屋崎,奄美大島手広海岸・ホノホシ海岸,石垣島明石海岸の海浜堆積物中に挟在する漂着軽石
*平峰 玲緒奈石村 大輔
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抄録

1. はじめに

 軽石は比重が1以下であるために水に浮くことがある.2021年8月に発生した福徳岡ノ場(FOB)噴火では,海域に流入した軽石が南西諸島に大量漂着し,漁業や観光業に影響を与えた(たとえば,吉田ほか2022).このような軽石は堆積物中からも発見されている(たとえば,白石ほか1992).本研究では,下北半島尻屋崎,奄美大島手広海岸・ホノホシ海岸,石垣島明石海岸で現地調査を実施し,海岸に露出する海浜堆積物中に含まれる軽石濃集層を発見した.それらは,層相と軽石の形状・分布より漂着軽石であると考えられたので報告する.

2. 研究手法

 現地調査では露頭記載と試料採取を行い,採取した一部の試料は軽石に含まれる火山ガラスの主成分化学組成分析を実施した.分析には高知大学海洋コア国際研究所の共同利用機器であるEPMA(日本電子株式会社製JXA-8200)を使用した.

3. 結果・考察

 尻屋崎は青森県下北半島北東端の岬である.現地調査は2018年7月,2023年3月に実施した.海岸は礫浜で,高潮線付近では木枝やプラスチックなどの漂着ごみが帯状に分布していた.軽石濃集層は岬の西側海岸において,漂着ごみの帯よりも約2〜3 m陸側に地表付近から層厚約15 cmで分布し,一部は植生に覆われていた.軽石の平均粒径は2〜3 cmで主に明灰色を呈し,丸みを帯びる.主成分化学組成分析の結果は1663年に噴出した有珠bテフラとよく似た値を示した.

 手広海岸は鹿児島県奄美大島の北東部に位置し,太平洋に面した海岸である.現地調査は2021年10月,2022年6月に実施した.海岸は砂浜で,木枝やペットボトル,プラスチック製の漁具などが漂着していた.本海岸は2021年FOB噴火に伴う軽石(以下,2021年FOB軽石)も漂着していた.軽石濃集層は,太平洋へ北から注ぐ小河川の右岸側で発見され,やや固結した層厚約100 cmの砂層上部に層厚約5 cmで濃集していた.軽石の平均粒径は1〜2 cmで,灰色を呈し,丸みを帯びる.なお,調査を実施した2021年10月時点では,軽石濃集層より標高の高い現生の砂浜部分には2021年FOB軽石は漂着していなかったことから,本軽石濃集層は2021年FOB軽石ではないと考えられる.しかし,主成分化学組成分析の結果はFOBの軽石とよく似た値を示すことから,1986年FOB噴火など,2021年FOB噴火以前のFOB噴火に伴う軽石である可能性がある.

 ホノホシ海岸は鹿児島県奄美大島の南端に位置し,太平洋に面した海岸である.現地調査は2022年10月と2023年10月に実施した.海岸は礫浜で,高潮位線付近には木枝やプラスチック製品,2021年FOB軽石などが漂着していた.軽石濃集層は,海岸背後の海食崖や後浜付近など複数地点で確認できた.対象とした軽石濃集層は地表付近から層厚約10 cmで分布し,黒色軽石(平均粒径約1 cm)と明灰色軽石(平均粒径約0.5 cm)で構成され,これらの軽石は丸みを帯びる.EPMA分析は今後実施する.

 明石海岸は沖縄県石垣島の北東部に位置し,太平洋に面した海岸である.現地調査は2022年5月,2023年10月に実施した.海岸は砂浜で,木枝やペットボトル,プラスチック製品,2021年FOB軽石などが漂着していた.軽石濃集層は,海岸の後浜付近に存在し,層厚約10 cmで濃集していた.軽石の平均粒径は1〜2 cmで,白色を呈し,丸みを帯びる.主成分化学組成分析の結果は1924年西表島北北東海底火山噴火に伴う軽石とよく似た値を示した.

 本研究で見出された軽石濃集層は,軽石の形状・分布より漂着軽石であると考えられる.また,各濃集層は水平方向に連続的に分布することから,一度に大量に漂着したことが推測される.後浜のように,日常的には波の影響を受けない場所では,軽石などの海からの漂着物が溜まりやすく保存されやすいと考えられる.本発表までに,EPMA分析を追加し,給源火山についてさらなる検討を加える.

謝辞:東通村役場商工観光課,環境省 沖縄奄美自然環境事務所 石垣自然保護官事務所・奄美群島国立公園管理事務所の担当者の方には大変お世話になった.この場を借りて御礼申し上げる.

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