日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 517
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地理的スケールの多層性にみる政治家の「地元」認識とその差異
――選挙制度改革の目指した政治態度をめぐって――
*淵上 瞬平
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抄録

Ⅰ はじめに  1994年の選挙制度改革では,それまでの中選挙区制が小選挙区比例代表並立制へと移行し,それにともなって政治家の政治態度も「個人本位から政党本位へ」と変化することが期待された.すなわち,同じ選挙区内で同一政党から出馬した複数の候補者が個人での当選を争う時代から,1人の候補者が政党を背負って出馬する選挙への変化が企図されたのである.それによって,地盤に目を向けた地域戦略から政党中心の選挙戦略への移行が目指された(加藤 2003).しかしながら1994年以降,政治家は本当に政党中心の選挙戦略をとり,地盤となる自身の選挙区=「地元」を無視した政治態度をみせるようになったのであろうか.本研究では政治家にとっての「地元」が意味することを,政治地理学的な観点から検証する.  Ⅱ 愛知県における衆議院議員総選挙小選挙区の地域的特徴  本研究は都市的地域と農村的地域がひろく分布する「愛知県」を対象地域に選定し,1996年以降9回の衆議院議員総選挙で立候補したのべ506人の得票の偏りを算出した.それによると,年を追うごとに全16選挙区のうち多くの選挙区では細かな得票の偏りが薄まっていく傾向が確認できたものの,愛知県第1区(名古屋市東区・北区・西区・中区)では,依然として特定の区に偏った得票があり,候補者間で地域をすみ分けている様子が見受けられた.「選挙公報」で政治家が地域をめぐって語る言説(地政言説)を分析しても,第1区では「愛知」を前景化する自民系候補者と,「ナゴヤ」に言及する民主系候補がおり,地理的スケールの点で特徴があった.  Ⅲ 政治家の地政言説と空間行動にみる「地元」認識  そこで愛知県第1区に焦点を当てて自民系・民主系候補者2人の街頭活動記録を手に入れ,合わせて聞き取り調査を行ったところ,自民系候補者が街頭での有権者との近さを重視する選挙戦略をとっていた一方で,民主系がより多くの有権者に主張を届けるという違いがみられた(図1).これは「聞く」行為によってローカルな意見を国政へ反映させようとする自民系候補者と,逆に「伝える」行為によってナショナルな政策を選挙区へ訴えかけようとする民主系における,「地元」認識の在り方に対する地理的スケールの方向性の差異が反映されたものと解釈される.すなわち,いまだローカル・スケールを活動の出発点とする自民系候補者の政治態度は,選挙制度改革を経てもなお,大きな変容をみせていない,と本研究では結論づけたい.

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