主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2024/03/19 - 2024/03/21
1.はじめに
石灰岩で構成されるカルスト地形の一つに,石灰岩堤がある.石灰岩堤とは,比高が10m内外の堤防状の高まりをもつ地形で,熱帯・亜熱帯地域に発達すると考えられている.琉球石灰岩から成る沖縄島南部では,断層崖沿いに石灰岩堤が発達している.石灰岩堤は,断層崖表面でケースハーデニング(表面硬化作用)が生じ,断層崖が溶食から取り残された高まりであると報告されているが,崖表面の力学的強度の把握に基づいた研究は全くない.
そこで本研究では,断層崖に沿って発達する沖縄島南部の石灰岩堤を対象として,シュミットロックハンマーを用いて断層崖表面の力学的強度を計測することにより,ケースハーデニングが生じているかどうかの実証を行い,石灰岩堤の形成について考察することを目的とする.
2.調査地域の概要と調査方法
沖縄県南部には,琉球石灰岩からなる石灰岩堤が活断層に沿って様々な方向に分布する.本研究では,糸満市大度地区と八重瀬町玻名城地区にみられる2つの石灰岩堤を調査対象とした.選定理由は,これらの石灰岩堤には,断層崖を人工的に切りとった切取面が存在し,断層崖に比べて新鮮と思われる石灰岩が露出するためである.そこで,各石灰岩堤において断層崖表面の露頭と切取面の露頭を調査地点として設定し,石灰岩表面の観察,シュミットロックハンマーによる岩石強度の計測を実施し,比較検討を行った.
3.調査結果と考察
まず,石灰岩堤において断層崖と切取面の結果を述べる.岩石強度は,断層崖表面よりも切取面の方が小さかった.現地観察より,断層崖表面では,光沢をもつ薄層が広範囲に覆っている様子が観察された.この薄層は,一度溶解した石灰分が再結晶化した物質であると推察される.このことから,断層崖表面では溶け出したカルシウムが再結晶化し,ケースハーデニングが起こっていると解釈できる.
次に,大度の石灰岩堤に関与する断層は大度海岸まで連続しており,そこには海食洞が発達する.波食作用の影響の小さい海食洞奥の内部壁面を,断層崖として地表に露出する前の断層面とみなし,シュミットハンマー計測を実施した.その結果,海食洞壁面の強度は,断層崖よりも小さく,切取面とほぼ同じ値を取ることがわかった.このことから,ケースハーデニングは,断層面が断層崖として地表に露出した後に開始されると解釈できる.
最後に,石灰岩堤の形成プロセスを考察する.まず断層運動に伴う垂直変位により,断層面が地表へと露出して断層崖が形成される.断層崖が形成されると,崖表面は降雨による溶解と日射による強い乾燥作用を受け,カルシウムの再結晶化が起こり,ケースハーデニングが生じる.その結果,断層崖の溶食(や侵食)に対する抵抗性が大きくなり,崖頂部を高まりとした石灰岩堤が形成される.
付記 本研究は科研費(19K01160)の助成を受けて実施された成果である.