日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 712
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熊本県における半導体産業集積の発展と企業間連関
*李 傑陽鹿嶋 洋
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抄録

1.はじめに

 日本の半導体産業は長期的な凋落傾向にあり,「シリコンアイランド」と言われる九州においても同様である。しかし近年の半導体需要の高まりと米中経済対立をはじめとする国際情勢の変化により,サプライチェーン強靱化の観点から政府による半導体産業への支援が強化されており,半導体産業集積の現状を把握する必要性は大きい。

 半導体産業では,グローバル化と半導体産業の分業化の進展により,半導体製品の設計・製造においてグローバルな分業体制が形成されている。そのため,半導体産業集積を検討する際に,地域内・国内スケールだけでなく,グローバル生産ネットワーク(GPN)の視点から,産業と地域の発展を分析することが求められる(Coe and Yeung,2015)。また,半導体産業の全体像を捉えるためには,半導体デバイス製造業に加えて,半導体製造装置・部材・設計なども含めた関連産業をにも注目する必要がある。

 そこで本研究は,熊本県の半導体産業集積の構造上の特質と,特に地元企業群の位置づけを明らかにすることを目的とする。

2.研究方法

 まず業種別の特徴を捉えるために,熊本県半導体企業を半導体製造企業(主導企業・サプライヤー企業),半導体製造装置企業(主導企業・サプライヤー企業),半導体設計サービス企業という3種類に分類した。半導体製造企業・製造装置企業の「サプライヤー企業」と半導体設計・サービス企業9社を対象として聞き取り調査とアンケート調査を実施し,熊本県庁産業支援課の担当者にも聞き取り調査を行った。そして,公表資料と独自調査に基づいて,各企業の発展過程と企業間連関の実態を把握した。

3.産業集積の発展と企業間連関

 熊本県の半導体製造業は進出主導企業に依存しており,地元企業が主に主導企業のサプライヤーとして半導体産業のGPNに参入している。半導体製造装置産業では,主導企業が進出企業だけでなく,地元主導企業もGPNを構築しており,存在感が強い。製造装置のサプライヤー企業が主導企業のGPNに参入し,主導企業に随伴して海外進出することも多くある。半導体製造業と半導体製造装置産業の地元企業は,九州内との連関が多い。半導体設計・サービス産業は規模が小さく,九州外・海外との連関が多い。

4.今後の展望について

 熊本県の半導体産業集積の特質として,地元産業集積の構造における業種の偏り,地元半導体製造企業の顧客開拓・技術開発を阻む壁の存在,企業分布の地域格差,海外進出,人材確保の難しさ,の5つの点が把握された。また,TSMCの進出・国際情勢などにより,半導体産業集積の発展とGPNの構造変化が起こっている。熊本県の半導体産業集積に及ぼす影響を把握し,半導体産業集積の今後の展望と発展に向けて,地元企業の自立化促進,海外進出・人材育成への補助,立地分散政策の策定,地元前工程企業の育成などの方策を検討した。

参考文献

Coe, N. M. and Yeung, H. W-C. 2015. Global Production Networks: Theorizing Economic Development in an Interconnected World, Oxford: Oxford University Press.

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