日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 735
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水害常襲地帯における神社と立地特性の関係
濃尾平野における事例から
*中村 健太郎須貝 俊彦
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抄録

I 研究の目的と対象地域

 神社は、神道の宗教施設であると同時に、前近代においては、地域共同体の中核としての機能も担った。また、神社は創建以来その場に立地する傾向にある(黒木、2022)ことから、前近代における共同体の洪水への適応が、神社の立地特性に長く記録されると考えられる。そこで、本研究は、神社の立地特性及び由緒を調べて、前近代の人々の洪水への適応過程の歴史を解明することを目的とした。

 研究対象地域は、濃尾平野に位置する18の市町村に設定した。

II 研究方法

(1)神社データベースの作成

 神社の名前、住所、由緒、写真などの情報を集めた神社名鑑に記載されている神社の全てを原則として対象とした。具体的には、研究対象地域に立地する1393社について、以下の6項目をデータベース化した。1.名前、2.住所、3.経緯度、4.創立年代、5.祭神、6.水害の浸水実績などの特筆すべき事項。

(2)神社データの分析

 国土地理院より提供を受けた治水地形分類図のベクターデータと神社の経緯度データを空間結合し、神社の立地特性を分析した。また、年号が明らかな神社を対象に神社の増加傾向を時代・立地地形別に示し、年輪酸素同位体比変動(Nakatsuka他、2020)と対比した。

III 結果及び考察

(1)神社全体の立地特性

 神社の分布密度は、自然堤防と台地で高く、後背湿地や旧流路で低い。すなわち、神社を水害リスクの低い地形に配置する傾向が認められる。地域コミュニティの中核である神社を水害の被害から遠ざけ、共同体の水害に対するレジリエンスを高めるためと考えられる。

 例えば、神社の中には共同体の共同基金が設立されている場合がある(田村、2021)。共同基金がある神社を水害リスクが低い地形に配置し、水害時にも共同基金を維持し、被災後に活用することで、迅速な復旧復興が可能となる。このようにして、共同体のレジリエンス向上が図られたと考えられる。

(2)神社の時系列的な増加傾向

 16世紀半ばから17世紀末までの間、神社が急増した。前半の戦国時代末期に神社が増加した理由として、戦国大名が国力増強のため開発を進めたことが考えられる。織田信長の岐阜入城の時期(A.D.1567)とも一致する。この開発の進展に伴い集落ができ、それに付随して神社も増加したと考えられる。

 後半の江戸時代初期以降の増加の理由として、政治の安定及び土木技術の発達で、築堤が可能となったこと (斎藤、1988)が考えられる。この時期は多雨で稲作に不向きであったが、大規模開墾が進んだ。気候上の不利を克服するために技術が発達した(平野、2021)。

 以上を踏まえると、開発の政治的要請と技術の発展によって、沖積平野の開発が進み、神社が急増したと考えられる。この時期はとくに後背湿地に創立された神社が多い点も注目される。築堤などの洪水対策の進展によって、後背湿地にも集落が成立するようになり、後背湿地にも神社がさかんに創立されるようになったと推定される。

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