日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P070
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1990年代以降における在留外国人向け宗教施設の拡大とその特徴
*川添 航
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抄録

1.研究の目的

1990年代以降の入国管理政策の転換により,日本国内に流入する外国人人口は現在まで継続的に増加している.また,就業や結婚等により,生活の拠点を日本に移し長期定住・永住を指向する者も同様に増加傾向にある.在留外国人による集住地域の形成は東京・大阪などの大都市の一部を除き進んでおらず,多くの地方都市では分散して居住する傾向にある.また,東京における華人や,大阪・京都における韓国・朝鮮人,北関東・東海圏におけるブラジル人など,エスニシティ毎の居住傾向も地理的に多様となっている.その際に,幅広い社会階層・世代を包含し,在留外国人どうしの社会関係の形成や相互扶助を促進させるコミュニティ施設が日常生活において重要となっている.在留外国人向けのコミュニティ施設として,これまでエスニック・ビジネス事業所や行政により整備された国際交流施設など,多様な交流拠点が設立されてきた.本研究では,コミュニティ施設のひとつとしての宗教施設の分布に注目し,1990年代以降の宗教施設の設立・拡大やその特徴について明らかにすることを目的とした.

2.1990年代以降における在留外国人向け宗教施設の拡大

本研究では,在留外国人向け宗教施設の時空間的拡大を分析するため外国語活動宗教施設の設立や活動内容に関するデータベース(以下,データベース)を作成した.集計の対象はキリスト教会(プロテスタント教会およびカトリック教会),イスラームにおける礼拝施設であるマスジドを対象とした.データベースは,キリスト新聞社発行『キリスト教年鑑』各年版,店田(2015),東京基督教大学国際宣教センター・日本宣教リサーチ(2023)および各宗教施設・教派の公式ホームページなどに掲載された情報を元に集計を行った.宗教施設で行われるコミュニティ活動には異なる世代・職業・世帯状況を有する在留外国人が参加するため,分節化が進む在留外国人社会の中でも多様な背景をもつ在留外国人の関係構築・交流が促進される.宗教活動では,教義の理解をより深く理解するため,礼拝・説教は自身の母国語で行われることが重視される(マスジドでは,礼拝は聖典であるクルアーンの記述言語であるアラビア語で行われる).そのため,特にキリスト教会については活動言語別に宗教施設の件数を整理した. 年代ごとの特徴をみると,1980年代以降,外国語で活動を行う宗教施設は三大都市圏を中心に増加した.また,2000年代以降はプロテスタント教会およびマスジドが北関東地方や東海地方で拡大するなど,在留外国人人口の増加の地域的な傾向を反映して宗教施設の分布が拡大してきた.活動言語別の状況をみると,1980年代以降,英語・韓国語で礼拝を行うキリスト教会が増加し,1990年代以降はインドネシア語やポルトガル語,タガログ語で活動を行うキリスト教会やマスジドが増加するなど,礼拝言語は多様化する傾向にある.また,同時通訳等を介し複数言語で同時に行われる礼拝も拡大した.

3.在留外国人社会の変化と宗教コミュニティの役割

個別のキリスト教会,マスジドでは,FacebookやYoutube等のSNS・動画配信サービスが導入・活用されており,礼拝や説教のライブ/アーカイブ配信やイベントの告知,情報発信などが行われている.また,定住・永住が進展することにより,コミュニティ活動の一環として子ども世代への宗教施設における教育活動が重視されるようになった.宗教施設の活動内容をみると,それぞれの施設で青少年向けのグループ活動が整備されており,宗教教育や交流の機会が確保されていた.これらの宗教施設の設立および活動の拡大は,地方都市を含む都市部における在留外国人人口の増加,留学・就業などの移住経緯の多様化,世帯形成に伴う多世代化といった在留外国人の居住構造の変化を反映してきたといえる.宗教活動だけでなく,それに参加する在留外国人の個別の日常生活や移住後のライフステージを総合的に分析し,宗教施設の存立要件を検討していく必要がある.

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