日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 309
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COVID-19流行前後の福岡市都心部における歩行者行動の時空間分析
1日スケールの位置情報ビッグデータを用いて
*安田 奈央
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抄録

COVID-19の流行に伴う不要不急の外出自粛や事業者への休業・営業時間の短縮の要請は,中心市街地における1日の歩行者の数や行動パターンを変化させたと考えられる.こういった人々の行動の時空間的な変化を詳細に把握するには,行動データの取得と分析が必要であり,COVID-19流行前後の人々の行動の変化を対象にした研究の多くが位置情報ビッグデータを用いている.これらの研究は,詳細な時空間データである位置情報ビッグデータの利点を活かしているものの,一つの中心市街地について時系列的に観察している例は少ない.また,夜間だけでなく日中も含めた1日の時間スケールで中心市街地の賑わいや人々の行動がどう変化したかについては,十分明らかになっていない.以上の研究動向を踏まえ,本研究は福岡市天神地区を対象とし,COVID-19流行前後における歩行者の行動の変化を1日という時間スケールで明らかにすることを目的とする.

 本研究は株式会社Agoop「ポイント型流動人口データ」を使用した.また,同時期の歩行者数の把握・比較のため,2017年,2022年2月の2時点の福岡市「歩行者交通量調査結果」を使用した.ポイント型流動人口データの研究対象日は2017年2月26日,2019年9月15日,2020年2月23日,4月26日,2021年2月28日,9月19日,2022年2月27日の7日間であり,全て休日,晴れまたは曇りの日である.「Space-Time Density Tool for ArcGIS Pro」を使用し,対象地区内の全ポイントを可視化した.さらに,ユーザごとの分析としてArcGIS Proの滞在場所の検索(Find Dwell Locations)ツールを用いて,ポイント型流動人口データのポイントの状態(滞在か移動か)を分類し,ユーザごとの滞在 (滞在中とされるポイントの集合)の数や1回の滞在あたりの時間,天神地区に出現した時間のうち滞在時間の割合を算出した.また,一連の点の最も外側を凸型につないでできた多角形を行動圏とする「最外郭法(Minimum Convex Polygon:MCP)」を用いて,外れ値として5%を除いた95%行動圏の面積を算出した.

 対象地区内の全ポイントの時空間カーネル密度分布から,賑わいの中心は天神地区中心部の天神エリアにあり,時間帯によっては大名エリア,中洲エリアにも出現することがわかった.しかし,1回目の緊急事態宣言下では,天神地区居住者のポイントが強く反映され,通常時の賑わいが現れなかった.また,COVID-19流行後には,深夜の賑わいがみられなくなるなど夜間の変化が顕著であった.

 滞在地点,滞在時間,行動圏の面積の分析結果からは,COVID-19流行前後で夜間の滞在が減少し,行動終了時刻が早まったことが明らかになった.また,COVID-19流行前後において,夜間のみならず昼間においても滞在時間が短くなったこと,より空間的に広い範囲で行動するようになったことなど行動パターンの変化が明らかになった.

 本研究の知見は大きく3つである.1つ目は,1回目の緊急事態宣言下と2回目以降の緊急事態宣言下・まん延防止重点措置期間の特に夜間において,多くの人が天神地区を来訪していなかったことである.2つ目は,COVID-19流行前後で短い滞在の増加や滞在時間の減少,行動圏の面積の拡大といった歩行者の天神地区における行動パターンが変化したことである.3つ目は,COVID-19流行の前後だけでなく,COVID-19の流行下においても歩行者数や歩行者の1日の行動パターンに変化がみられたことである.特に,昼間における滞在時間や行動圏の面積に変化がみられたことは,本研究による新たな知見である.しかし,本研究では位置情報ビッグデータの仕様の差異を考慮した分析が難点であった.今後位置情報ビッグデータの取得・分析技術の向上が考えられるが,データ自体の仕様を考慮し,補正したうえで分析を行うことが重要であるといえる.

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