日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 306
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都市住民の食生活の満足度は何に規定されるのか
全国インターネット調査の統計的分析に基づく考察
*堀川 泉埴淵 知哉谷本 涼中谷 友樹
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抄録

1.問題の所在

食生活の満足度は生活の質の向上に重要な役割を持つことが知られ,栄養学分野を中心に,食生活の満足度と食習慣との関係などについて定量的な分析が蓄積されている.しかしながら,家族構成や就業状況,所得といった個人属性に加え,それらと同様に食生活に強く影響することが考えられる近隣環境の地理的特性(店舗の立地状況や歩きやすさなど)と,食生活の満足度の関連については議論が乏しい.食の消費に着目した地理学的研究は,特定の食品の消費パターンの検討や,伝統的な食文化の把握などが中心的といえ,多くの人々が日常的に食するものや,日々の食生活についての研究は限定的である.一方,フードデザートをめぐる議論においては,主に社会的弱者にとっての食料品へのアクセス保障が,達成すべき課題とされてきた.ただし,近年ではより多様な人々の食生活の質を向上させるために,栄養摂取のための食の確保のみならず,地域に根ざす多様な/新鮮な食を味わうといった,食の質的な豊かさの向上も重視されるようになっている.

そこで本発表では,多様な項目を含む社会調査の個票データを用いて,食生活の満足度と,個人の属性や食に関する習慣・嗜好,および居住地の近隣環境や食の質的な豊かさの指標との関連を統計的に分析し,都市住民の食生活に対する満足度を規定する要因を考察する.

2.データ収集方法と集計結果の概要

分析には,「都市的ライフスタイルの選好に関する地理的社会調査(GULP)」(2020年,20-69歳対象)の3年後追跡調査(2023年10-11月実施,登録モニターに対するweb回答形式,n=11,268)により収集された横断データを用いた.この調査では,本調査時の全国21大都市居住者を対象に,性別・年齢・世帯年収・家族構成といった個人属性と,居住地の郵便番号のほか,多様な生活上の意識・習慣を問うた.食習慣や食の嗜好についての回答状況(図1)をみると,回答者の7割以上が現在の食生活に満足している(強くそう思う+ややそう思う)一方で,地元産の食材や各地の料理を食べたいと考える人々も,食事内容へのこだわりの強くない人々も存在することが読み取れ,回答者の食生活の多様性が推測される.

発表では,こうした食生活の満足度と個人要因に加え,近隣環境の指標である郵便番号単位での徒歩圏内の食関連施設数と,食の質的な豊かさの指標との関連について,分析した結果と考察を報告する.

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