日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 843
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東アフリカ高山帯のジャイアントセネシオの枯葉を用いた過去100年間の古環境復元
*大谷 侑也
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抄録

はじめに

 近年、東アフリカのケニア山、キリマンジャロ山の氷河は急速に縮小しており、今後十数年で消滅する可能性が高く、最も顕著に温暖化の影響を受けている地域のひとつである。先行研究から、それらの高山帯の氷河が縮小し、露出した地表面に植物が急速に前進していることが分かっているが、その植物の分布変化の要因については、詳しい議論が成されていない状況である。

 高山帯の植物分布の拡大には降水量の増加や土壌水分の増大等の環境要因が関与している。本地域の気温は上昇傾向にあるが、とりわけ分布に影響を与えるとされる土壌水分は経時的な調査・観測が行われておらず、その変化は明らかにされてこなかった。

研究の目的 〜炭素安定同位体を用いた過去の土壌水分の復元〜

 樹木の炭素安定同位体(δ13C)は生育場所の土壌水分と高い相関を示す。さらに樹木年輪に含まれる一年毎のδ13Cを分析し、気候変動による経時的な土壌水分の変化を復元する研究が進んでいる。一方で今回の東アフリカ高山帯(約3,000m以上)は森林限界以上のため樹木がなく、年輪を用いた古環境の復元ができない。

 そこで東アフリカ高山帯の標高約3,000m以上に分布しているジャイアント・セネシオ(Dendrosenecio; 以下, セネシオ)の枯葉に着目した。セネシオはキク科の半木本植物で、高山帯の低温環境に耐えうるように、枯葉となった葉を保温のために幹の周りに保存する生態的な特徴があり、「セーター植物」とも言われる。つまり過去の生育期間中の葉がほぼ全て保存されており採取可能である。2019年に実施した予備的な調査では1年間に3cm程度成長することが分かっており、例えば樹高4m程度の個体は130年以上の樹齢を有すると推定される。

 そこで本研究ではセネシオの根元から樹頂点までの枯葉のδ13Cと年代測定を実施し、経時的な土壌水分の変化を復元することで温暖化に伴う東アフリカ高山帯の植物分布の変化の要因を解明することを目的とした。

結果

 枯葉の年代測定の結果、樹頂点からの距離が160cmの枯葉が1959年、221cmが1960年、280cmが1947年、290cmが1938年、400cmが1889年と推定された。成長率が一定と仮定すると、セネシオの成長速度は2.67〜3.75cm/年と推測された。また3個体のセネシオの樹頂点から根元までの10cm毎の枯葉サンプルのδ13Cは、-22‰から-29‰の間で推移し、樹頂点からの距離が近くなる(最近のものになる)ほど、減少するトレンドが見られた。この結果から、近年の温暖化に伴いセネシオの生息域の土壌水分が増加し、乾燥ストレスが低下している可能性が示唆された。

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